爆豪勝己という男はすごい奴だと思う。例え性格はクソを下水で煮込んだような奴だとしても、いざ戦闘となればその実力は1年にして既にプロヒーローにも引けを取らないほどで、実に頼りになる存在である。だから少なくとも俺はそんな爆豪のことを尊敬していたし、彼の友人であることを誇りに思っていたのだが

「ねぇ、切島くんばっかりずるい」
「チッ」
「わたしだって勝己くんともっと一緒にいたいのに」
「…うるせぇ」

爆豪が勝己くんって呼ばれてんの、なんか新鮮だな…。ていうか嫉妬の矛先が俺に向いてんの、おかしくねぇか?


昼休みが始まった途端に教室から姿を消した爆豪に、昼からの実習の場所が変わったことを伝えるために探していた俺が目にしたのは、空き教室で壁際に追い詰められている爆豪と、壁に手をついているミョウジナマエサンだった。所謂壁ドンというやつをされている爆豪はほんの少し頬を赤く染めている。見なきゃ良かった。友達の、しかも野郎の照れ顔なんてたとえレアだとしても全くこれっぽっちも見たくねぇんだわ…。

雄英高校ヒーロー科の1年A組で2トップと呼ばれる"あの"爆豪が、普通科の女子に力で勝てないわけがない。つまりあれは爆豪が抵抗しなかったが故の壁ドンである。合意の上ってやつだ。


ミョウジさんは普通科の1年生だ。爆豪とは中学からの同級生で去年から付き合っているらしい。

2人の性格はハッキリ言って真逆。乱暴で俺様で社交的とはとても言い難い爆豪に対して、ミョウジさんはいつも笑顔で明るくて人当たりも良い。人懐っこい性格らしく1-Aの女子とも早々に打ち解けていた。

付き合ったいきさつを聞いても爆豪が教えてくれるはずもなく、どうしてそんな2人が付き合っているのかと常々疑問に思っていたのだが『正反対な方が惹かれやすいものなんだよ』と、昨日寮の談話スペースで女子たちが観ていた恋愛ドラマの主人公が言っていた台詞を思い出す。その言葉を聞いたときに、まさにこの2人のことだなと思ったのだ。実際2人の付き合いはもう1年以上続いているらしい。緑谷曰く、ミョウジさんと一緒にいるときだけ爆豪は少し雰囲気が丸くなるらしい。いや、あれで?あいつさっき彼女に向かって舌打ちしたぞ?


「わたしもわがまま言ってることは分かってるんだよ?」
「わかってんならやめろや」
「でもさ、勝己くんだってもうちょっと寂しそうにしてくれても良くない?」
「……」
「勝己くんはわたしに会えないの、寂しくないの…?」

「勝己くんと一緒にいる時間がどんどん減っていくの、わたしは寂しいよ…」と壁に付いていた手を力なく下ろして斜め下に視線を落とし、泣きそうな声で小さく呟いたミョウジさんを見て、あ、これ押してダメなら引いてみろ作戦だ、と気付いた。なぜならミョウジさんの台詞と仕草が、昨日のドラマのヒロインとほとんど同じだったからだ。

「チッ…そんなことねぇよ…」
「え…?」

ほんとに…?と震える声を出し、潤んだ瞳で見上げるミョウジさんを演技派だなぁ…と思うものの、昨日の夜も早々に部屋に戻り寝てしまった爆豪はそれが全て計算だとは知る由もない。

「嬉しい」
「クソ髪なんかに嫉妬してんじゃねぇよ」
「ん、もうしない」

「勝己くん、だいすき」と言って爆豪の背中に腕を回してぎゅっと抱きつくミョウジさん。ホッと安心したような顔を見せる爆豪から見えないところで一瞬ニヤリと笑ってみせたミョウジさんに気付き、背筋がゾワッと粟立った。さすが、爆豪と長く付き合っているだけある。どうやら彼女もなかなか強かな一面を隠し持っていたようだ。


「勝己くん…」

しかし次の瞬間にはまた潤んだ瞳で甘えるように見上げながら爆豪の首に腕を回して……おぉっと!?この先は見ちゃいけないやつじゃねぇか!?

覗いていた扉の隙間から慌てて目を逸らし、その場を離れようとしたとき

「ん…」
「…ナマエ、あとで俺の部屋」
「いいの?」
「来るとき誰にも見られんなよ」
「いや、それは無理じゃない?」

こんな会話が聞こえてしまった。
あとで、爆豪の部屋…つまりそれは俺の隣の部屋である。

造りはしっかりしているが、意外と壁が薄いハイツアライアンス。うん、今日は上鳴の部屋にでも避難させてもらうとしよう。そんなことを考えながら教室へと戻る。

あ、やべ爆豪に午後の実習の場所変わったって伝えるの忘れてた。

無垢な少女のふりをして

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