ミッシングリンク/皇子

夜鳴き鳥がなく頃、孤独癖が一層強まる。
寝所の見張り番が交代するまでの間に、床に転がる瓶がひとつ増えた。
こんな夜はいくら飲めども酔えないものだ。
今日は両親の死んだ日。いいや、俺が殺した日。
取り巻くもの全てが目障りだった。
父を殺し、母を殺し、臣を殺し、民を殺した。
我が行く手を阻むものは容赦せぬ。
父は我を疎み、臣は我が政策の異を唱え、民は怯え…母は何をしたのだったか。
微笑む母、微睡む母、慈しむ母。母の顔は愛に満ちていた。
母を手に掛けたとき、我は何を思った…?
論理の輪が切れている。失われた継ぎ目を探そうと記憶を巡らすと意識が混濁し、それ以上進むことが出来ない。

ふと、我が名を呼ぶ声に意識が引き戻される。
女は気遣わしげな顔を向けていた。
いつの間にか盃が手から離れ、赤い酒が寝具に染みを作っていた。

「考え事をしていた。」
「御注ぎしなおします。」

女は酒を運んできた籠に手を伸ばす。
女の髪を掴むと口付けた。
興奮も情緒もない、ただ口付けたというだけだ。
女の頭を押しのけ、もう良いから行けと手を振る。
と、ぐらりと視界が、いや自分が傾いた。
床に倒れ伏し、首を伸ばして傍らの女を見上げる。
女は冷ややかに、足元に伏す男を見ている。
そこには憎しみも憐れみも何の感情もない。

「貴様、酒に盛ったな。」
「いいえ、さっきのくちづけ。」
「まんまと一杯食わされた。」
「狂気の皇子は今夜でお終いです。」

扉が開かれ、何人もの男の影が踏み入って来る。
無礼な。ここを何処だと思っている。






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