鈍痛/W


丸くて小さな、子どもみたいな爪でも傷口に突き立てられれば痛かった。柔らかい爪は皮膚に抉りこみながらも湾曲しているのが感じられた。二枚爪になるぞ、と口を開きかけてやめた。あいつの目にいっぱいに溜まった涙が古い鏡のように薄笑いを浮かべた歪んだ男の像を結んでいる。知らずのうちに作った笑みだったが此奴を激昂させるには充分だったようで、俺はこのチビに雪崩かかられ椅子から引きずり降ろされ、緋色の絨毯に同じ色の髪を散らしている。
「なんで、なんでVまでがッ」
「あの子はあなたのように復讐を望んだわけじゃない!」
「W、勝手…、人を蟻の子のように踏み潰して得る優越感はどう?」
次々に浴びせられる罵倒を聞き流し、痛みで鈍った頭にまで通じるように、頬の痛覚神経に集中した。ジリジリと焼けるような痛みに、この十字傷が出来た日を思い出す。鉄骨が肉を抉ったのは一瞬だった。今はじわじわと傷口だけをあの日に巻き戻すような痛みを与えられている。潤んだ眼球に映る俺を見る。ふいに水がぼとんと降ってきた。こいつの眼球が溶けてきたかと錯覚した。





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