狩りは遊びじゃねえんだよ/W

 Wくんがわたしの首に鼻を押し付けた。もさもさした髪がくすぐったい。

「いい匂い」
「…クエストあと20分で終わるから…」
「気にしないで続けろ」

 腕を回され、締め付けられたお腹。ここひと月で1kg太ったから気になる。お菓子控えよう。運動しよう。画面の中では運動をしているのに。
 腕に力が込められ、密着度が高まった。細身なのに胸周りが意外と厚い。比較するものがべたべた触りっこする女の子しかいないからそう思うだけで、男の子の中ではそう筋肉質ではないのかもしれない。首の付け根にふよふよしたものを繰り返し押し付けられる。獲物から目を離すことは死を意味する…からふよふよの正体を確認するわけにはいかない。いつもの事だからわかっている。皮膚を緩く挟まれる。舌と上顎が立てる音が大きくなる。大きく開けた口に首の肉を食べられた。唇で覆われた皮膚の範囲を舌で舐められる。魚の表面みたいにぬるぬるする。
 Wくんのせいで首が変な方向に曲げられる。Lボタンから指が滑る。緊急回避で雑魚のホーミングを避ける羽目になった。くやしい。早く追わないと眠ってスタミナを回復されて時間切れになってしまう。 ガチ装備にして20分で切り上げればよかった。でも蝶の羽の方がかわいいんだもん。Wくんを背中に装備してからほとんど攻撃できてない。後ろから左脚が手元より下の視界ににゅっと侵入した。腰が圧迫されてより体が傾く。まだ針は赤くなっていない。

「あと10分我慢して」

 首元の黄色いかたまりは返事もせずにちゅうちゅう皮膚を吸って遊んでいる。ゲームに熱中すると体温が上がる。それに加えてお腹の中にかあっと熱い塊が生まれる。Wくんに遊ばれている部分だけどくどくと血がたくさん流れている。つい半開きになった口を引き結んで残り時間を集中する。脚を引きずって逃げる獲物に追い打ちをかける。先回りしてシビレ罠を仕掛ける。睡眠玉もすぐ使える位置にして準備万端、あと3分。

「んあっ?!」

 内腿がぞわわと粟立つ。ゲーム機を落とすところだった。よし、そのまま罠の上に来い来い来い。ちらっと視界に入ったのはWくんの浅黒い右手だった。

「やーめーてーよ」
「いやだ」
「もうちょっと、時間切れしちゃう」

 細くて真っ直ぐ伸びた指には性のイメージがある。そういうことはまだ、かなと思っている。嫌ではない。少し早いと思う、それだけ。もっともWくんにしてみれば厳しいおあずけ状態である。それでも我慢してくれているのはうれしい。我慢する代りか、執拗なスキンシップ、撫でられたり突かれたりつままれたり、は多い。触られてぞくぞくする感覚がきもちわるいからきもちいいに変わったのはごく最近の事だ。ちょっとずつ慣れていけばいいと思う。なめくじの速度で太ももを這う指は止まらず、腰がびくついてしまう。脚の付け根は恥ずかしいし一番くすぐったい。Wくんはいつもこの関節をなぞって意地の悪い笑い方をする。今日はその笑いが聞こえず、耳元で熱い息が吐かれるだけ。変だ、と体を放す前に、脚と脚の間から体が跳ねた。何をしているかはスカートの下の事で見えない。下着の上の方にWくんの指が位置していると触覚だけが伝えてくる。

「なに、してるの」
「直接はしねーよ」
「でも、はずかしい、へんなかんじ」
「それでいいんだよ、……ん」

 Wくんが無言になると、また首と唇の間で音が鳴る。腕から逃れたくて動くのとは別に腰が浮いて、頭がぼうっとしてくる。ちいさく名前を呼ぶと、意地悪な笑い声がした。いつもより嬉しそう。
 ふと気付くと画面の中でわたしの分身ががっくりと膝をついていた。






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