手当 目の前には陸上部のユニホームを着た男子が、私に覆いかぶさるように立っていた。 「大丈夫?新条さん。怪我ない?」 優し声が、降ってきた。 「あ、だ、大丈夫です」 答えると同時に顔をあげた。 神咲(かんざき)君だ。 神咲君は頭もいいし、顔もいいし、しかも陸上部のエース。 みんなの憧れの的だ。 そんな彼に助けてもらった。 「すいません!大丈夫でしたか!?」 野球部の男子が走って謝りにきた。 「あぁ、大丈夫だよ」 神咲君がそう答えると、野球部の男子はホッとしたような顔をして、練習に戻っていった。 「あの、本当にありがとう。神崎君こそ大丈夫?」 私をかばってくれたんだから、いくら運動神経のいい神咲君でも、ボールにあたってないハズがない。 「あ、うん。大丈夫だ…よっ!」 見るからにおかしい。 神咲君、絶対に怪我してる。 「ねぇ、ボール、あたったでしょ?保健室行こ?」 そう私が言うと神咲君は、大人しく、「うん。」と頷いてくれた。 保健室に行くと、先生は居なかったから、私が手当することになった。 冷たい空気が保健室の窓から入り込む。 「どこにボールあたったの?」 私が尋ねると、 「背中」 と神咲君がいった。 ユニホームをめくり、手当を始める。 ユニホームをめくるのに、少し抵抗はあったが、私をかばって怪我したんだから、と思い恥ずかしい気持ちを押さえ込んだ。 神咲君の背中には、ボールがあたったところに痣が出来ていた。 痛々しい痣にシップを貼り、手当を終えると少しの間沈黙が続いた。 [mokuji] [しおりを挟む] |