出会い。想い。

「カタン」


「彼」の近くで物音がした。


慌てて辺りを見渡すと、一人の女性がいた。いや、女性というには幼すぎる。一人の「少女」がこちらを見つめていた。


「彼」は一瞬、驚いたような表情を見せたが、すぐにもとの表所に戻り、そして、吸血をした女性の首に残る傷にキスをした。


「見ていたのか?」


「彼」はさっきの「少女」に声をかけた。冷たい声で。


「……」


「少女」は無言のまま、メモとペンを取り出した。


『はい』


そう紙にかくと「彼」に見せた。


(声がでないのか?)


「少女」は「彼」の行いを見ていたはずなのに、怯える様子も見せなければ逃げようともしない。


ただ、「彼」を見ている。否、「彼」の目を。


「彼」の目は既に熱を失っていた。見とれているわけではない。


「少女」の目は「彼」の目に似ていた。


「少女」の目は灰色のような色だ。色こそ違うが、何かを諦めたような目。


「少女」は「彼」に近づいた。「彼」の綺麗な肌にそっと触れると、頬に付いていた血を拭った。


そして、「彼」に笑顔を見せた。


月明かりのせいか、「少女」の笑顔はとても幻想的で神々しい笑顔だった。


天使のような「少女」
悪魔のような「彼」


「こんな時間になぜこんなところに一人でいる」


「彼」はそう「少女」に訪ねた。


『散歩です。昼間は日の光が強すぎて、歩けないので』


メモにかきみせる。


「お前は、私が怖くないのか?」


『怖い?怖いなんて思いません。どうして怖いと思わなければいけないのですか?』


「少女」は首をかしげながら尋ねた。


「彼」は驚いた。


なぜ、怖いと思わないのか…目の前で人を殺めたと言うのに…


「なぜ怖いと思わない」


『だって、それが貴方の食事なのでしょう?貴方にとって、生きるすべだもの。ちっとも怖いなんて思いません。生きるために必要なことだもの。血を飲まないと、貴方が死んでしまうのでしょう?』


驚いた。今まで「彼」にそんな言葉をかけた人間は、誰一人といなかった。


「少女」は笑顔で「彼」を見つめている。顔が燃えるように熱を発する。青白い肌が、真っ赤に熟した林檎のような色に変わる。



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