【すぐそばにある星】


「晴れたな」
「そうですな」

下草に溜まる水を蹴り飛ばすように呂布と張遼は靴先を濡らしながら歩く。
昼過ぎまで振り続けていた雨はようやく上がり、夜空には一面の瞬く星。
雲はまだ残っていたが、それでも通り過ぎた雨を追うようにゆるゆると流れてゆく。

「ほら、見えて参りましたぞ」

張遼が指差す先には青々と茂る笹。

「これを軒先に吊るしておけば、風が通るたび心地よい音がします。寝苦しい夜にはよろしいかと」

体調が悪い時には煎じて飲めば大抵のことには効きますし…と付け加えると、俺は笹茶は好まん、と苦々しい声が返ってきた。それに笑い返し枝を一本ぽきんと折る。

「そういえば今日は七夕ですな」
「女児の祭りだろう」
「どこかの民族では、この木に願い事を書いた短冊を下げると星が望みを叶える、という言い伝えがあるそうです」

呂布はフンと鼻を鳴らした。

「そんなことで叶う願いがあるものか。己が力でつかんでこその望みだろう」
「…そういうものにしか縋れぬ望みもあるのでしょう」
「お前にもあるのか」

じっと見つめてくる視線から目を逸らし、張遼はいえ、と首を振った。

「まあいい」

詰めていた息を悟られぬように吐く。
笹をぽきぽき折っていた呂布がううん、と唸った。

「それにしても…これだけで帰るのもつまらんな」
「もうすこし遠くまで歩きますか」
「それも面倒だな…そうだ、どうせなら願い事をしていくか」
「え?」

呂布の気まぐれには慣れていたつもりでいたのだが、間の抜けた声が出てしまった。

「短冊も筆もありませぬが…」
「筆ならある」

呂布はごそごそ己の懐を探ると、一本の筆を取り出した。

「どう…なされた、それは」

呂布と筆というただでさえ見慣れぬ取り合わせに手と顔を見比べていると、

「陳宮から渡された」
「陳宮殿に?」
「頼むからこれを一日で痛むほどに使ってくれとな。朝渡されたんだがまだ使っていなかったからちょうどいい」

それは執務をしてくれという意味では…という言葉は、墨もあるし短冊は笹の葉でいいだろ、という声に遮られた。

「こちらに背を向けろ、張遼。お前を台にして書く」

はあ…と後ろを向くと、ぽんと墨壷を開ける音がした。そんなものまで懐に入れ歩いていたのかと呆れる。それでも動かぬようにと身を硬くしていると、首筋を冷たく柔らかいものが撫でた。

「わ…!」

びくりと体がはねた勢いのまま振り返ると、悪戯そうな呂布の顔。

「な、何をなさるか!」

首筋を押さえながらの抗議に、水で濡れた筆をひらひらと振ってみせる。

「項が見えるとな、つい」

悪びれない顔で言う呂布を僅かに睨もうとするが、肩を掴まれ再び後ろ向きにされる。

「相変わらず敏感だな」
「…いきなりで驚いたからです」
「予告付きでならどうだ?」
「早く願い事を、書いてくだされ」
「そうだな。だが、少し予定変更だ」

言葉と同時に張遼の襟が左右に引かれる。驚く間に肩から背が夜気に晒された。

「呂布ど…!」
「葉ではなく、お前に書こう」

振り返ろうとした肩を強く押さえ込まれ、よろめいて頼りなく伸びる笹にしがみついた。

「呂布殿!」
「大人しくしないと墨で着物が汚れるぞ」

するすると首から背を辿る穂先の感触。くすぐったさと淡い快感に鳥肌が立つ。
墨の匂いがしてこないことに気付いた時には、呂布の吐息が間近にあった。温かく濡れたものが首筋を這いだす。そちらに意識が集中しそうになったとき、反対側の首に冷たい穂先が滑った。自分でも驚くほどびくりと体がはねた。

「墨など、ついていないではありませんか」

うらめし気な視線を送ると、呂布は僅かに口の端を持ち上げてみせる。一瞬、嗅ぎなれた匂いが漂った。

「墨壷かと思ったら違うものだった」

目の前で振られたのは、いつもふたりが情交の時に使う香油だった。草花の香りがつけられたそれが入っている小さな壷は、星明りを鈍く弾いている。

「まさか…」
「言っておくが、わざと間違えたわけじゃない」

再び筆がするりと動く。

「ただまあ、ちょうどお前の項にそそられた今は、こちらのほうが都合がいい」
「こ、ここでするのですか!?」

言外に拒否を含ませるも、

「俺はやると決めたら、やる。愚図愚図抵抗して時間と体力を使うより、さっさと済ませた方が早いぞ、張遼」

うう、とのどの奥でうめいている張遼の腕を取り、呂布は地面に腰を落ち着けた。着物の裾をめくり、下穿きを下げる。
張遼は諦め膝をつくと、呂布の両足の間に顔を埋める。まだ半勃ちの性器を口に含むと、呂布の匂いより先に、雨露にぬれた草の青い匂いがした。
先端を舐めていると、頭をぐ、と押さえつけられた。張遼の口腔内を、呂布の雄がずぶずぶと犯してゆく。

「ン、ぐ…」

喉近くまで埋まるとようやく手が離れた。ゆっくりと頭を上下させているうちに、どんどん呂布の幹は育ち、たちまち硬くなった。その間張遼の着衣は器用に脱がされてゆく。

「もっと舌を使え。自分がされていいようにしてみろ」

いつも呂布にされていることを思い出しながら、唇を絞り口腔をせばませ舌を絡める。いつしか夢中になってしゃぶっていると、耳を筆の穂先がくすぐった。

「…っふ」

口いっぱいに詰まっているもののせいで言葉にはならない。そうしているうちに筆は耳から首筋に、胸に、くすぐるような愛撫を加えてくる。
呂布の雄の匂いとその軽い愛撫だけで、張遼のものもゆるく勃ちあがりはじめていた。
背から腰にかけてを撫でられ、思わず腰が浮く。筆はそのまま双丘の谷間を滑り落ちようとする。

「…っ!!」

その行き先を悟った張遼は顔を上げようとしたが、再び頭を押さえつけられた。腰を揺らして穂先から逃れようとするが、その光景はかえって呂布の欲を煽っただけだった。ぐ、と口内で呂布のものが質量を増す。
敏感な蕾に、穂先が触れた。入り口を撫でられ、毛先のちくちくがむず痒い。嫌々するように頭と腰を振る。
一度離れたと思ったすぐ後、ぬる、と水気とは違うものを含んだ穂先の感触がした。香油が塗られたのだ。円を描くようにくすぐっていたそれはやがて、蕾のひだを縫うように入り込んでくる。

「ん、んー!」
「力を抜け」

腰の強い馬の毛は、折れることなく内に収まりはじめた。にゅち、と粘着質な音に、張遼は耳を塞ぎたくなる。道具で遊ばれているという羞恥から一刻もはやく逃れたかった。
それでもほんとうに恥ずかしいのは、そんな行為でも感じてしまっていることだった。

「すごいな、張遼」

笑いを含んだ声が頭上から降ってくる。

「勝手に呑み込んでいくぞ」

かあっと顔が熱くなった。後孔は更なる刺激を求め、もっともっとと貪欲に蠢いている。
耐え切れず、張遼は口内の呂布に歯を当て強く噛んだ。
硬いが弾力のあるそれに、きゅうと歯がめり込む。

「おい、喰いちぎる気か」

たいして慌てた様子も無く呂布が押さえつけていた手を離す。筆は張遼が上半身をおこしたはずみで抜けた。やっと顔をあげて呂布を睨みつける。

「物で遊ばないでくだされ!」
「感じていただろう」

悟られ、張遼は羞恥で朱に染まる。
涙に滲みながらも上目で睨む目から、怒りにふるえる肩から、強く握り締められた手から、たまらないほどの羞恥と官能が匂いたち、その様子は簡単に呂布から最後の理性を取り払った。
気付いた時には、張遼は仰向けに押し倒されていた。覆いかぶさる呂布の後ろに雲が晴れた星空が見えた。

「お前はどれだけ俺を煽れば気が済むのだ」
「煽ってなどおりませぬ!」
「星に願うなどまどろっこしい。俺の望みを叶えられるものは今手の中にいるのだ」
「何を…」

呂布は一度星空を見上げると、にやりと笑って見せた。

「女が気をやる時には眼の裏に星が飛ぶそうだが、お前もそうか?」
「し、知りませぬ!」
「ならば今、見せてやる。今夜の星のように見事なやつを」

わざと耳元で掠れた声で呟いてみせる。吐息交じりの熱いそれは、張遼の耳朶から爪先まで甘い予感となって駆け抜けた。

「…では、見ることが出来なかった場合、笹に呂布殿は下手くそと書いて吊るしますのでお覚悟を」

悔し紛れに吐いた言葉に、ああもう、と呂布はそそりたった雄を張遼の腿に押し付けた。

「だからもうそれ以上煽るな」
「ですから、そんなつもりなどー」

言いかけた言葉は呂布の唇に塞がれ、水をかけられた火のように消えた。
舌を絡ませ、呼気を奪い合い、ようやく唇が離れる。それでも睫毛が触れるほどにしか離れていない。
すぐそばにある、望み。私の星。

「呂布殿の望みを私が…叶える事は出来ましょうか」

呂布の瞳を見つめ、整わない呼吸のまま呟く張遼の頬を、優しく指が撫でた。

「貴方の望みならば、この張文遠、命を賭してでも…」
「…そうか」

満足気に笑むその顔を引き寄せ、張遼は呂布に口付ける。

「呂布殿の望みは、何ですか?」
「とりあえず今現在の、切羽詰った望みからでもいいか?」

呂布の言葉に張遼は笑い返すと、両足を大きく開き、その首に腕をまわす。

「この張文遠、命を賭してでも」

もう一度唇が重なった。



翌日、昨日の星すごかったですな!という高順の言葉に、真っ赤になって慌てる張遼と、不敵な笑みをみせる呂布の姿があったとか。



* * * * * * *

2006年度の七夕話は呂遼でした。
筆プレイとかだいすきです!
張遼を筆でいっかいイかせたk(自重自重)

06/10/05 up (06/07/07の日記に加筆修正)
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -