【幸せの条件】
トントンと軽い太鼓の音が聞こえてくる。
豊作を願う春の祭りが行われている村の喧騒を背負い、張遼と臧覇は並んで歩く。
風はゆるく、辺りは沈み行く太陽が投げかける朱に染まり始めていた。
臧覇の手には団子。
昨年はまれに見る豊作で、土産にと手渡す村人たちはみな笑顔だった。
夕日に照らされ歩く張遼の顔も、穏やかで。
思わずその髪をくしゃりと撫でると、怪訝そうな顔を向けてきた。
「…なんだ、臧覇」
「なあ張遼」
「うん?」
「今、幸せか?」
「…不幸せそうにでも見えるか?」
「他意はない。言葉通りだ」
ふうん、と大きな図体から子供のような相槌が返ってきた。
「いや、な」
「なんだ」
「お前が幸せなら俺も幸せだなあ、と、思ったりしただけだ、ちょっとな」
「…なんだ、それは」
「他意はない、ない」
ふと思いついたことだったが、改めて口に出してみると妙に気恥ずかしい。
後頭部をポリポリかいていたら隣で微笑む気配がした。
「幸せだとおもう。…いい主に、仕えることができた」
「そうか」
「夏侯将軍のようにはいかないが、信頼も得ることができた。思う様、武を振るう場がある。そしてそれを、必要とされている。それに、」
「それに?」
「それに、俺が幸せかどうか、聞いてくれる奴がいる。これが幸せじゃなくてなんだというんだ」
かじりかけた団子がぼろんと落ちる。
「お前、そりゃー…、口説いてんのか?」
「口説いたのはお前が先だろ、馬鹿」
お前が幸せなら俺も、だなんて気障なことを!と、怒ったような声で先を行く。
それが照れ隠しなのだということを、長い付き合いから臧覇は分かっていた。
その素直じゃないところが堪らなく可愛いのだと言ったら、今度こそ本気で怒られるだろうか。
「どうした、置いていくぞ」
「ん、ああ」
立ち止まってしまった臧覇に張遼は振り返るが、緩んだ表情を見て怪訝そうな顔をする。
「…なんだよ」
「いやあ…なんかなあ、幸せだと思ってな」
満面の笑みで張遼の手を握ると、何やってんだ馬鹿!と怒鳴られた。
お前が幸せならば、ああ、本当に。
本当に俺は、幸せだよ。
ひとつだけ不幸せなことといったら
この辺に今お前を連れ込む藪が見当たらないことくらいだ。
「幸せだなあ…」
「一生言ってろ!」
夕日より赤い張遼の横顔に、繋がれたままの手に、改めて幸せを感じるのだった。
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蒼天版臧遼でした〜。
いい年こいたおっさんたちがなにやってんの!と、ちっともおもわない自分がいいかんじです。
このあと臧覇は団子をハイアーンてやって、まっかな顔した張遼に睨まれていればいい。
(06/06/20)