[無限ループ]
ジャラ、と切れた手錠の鎖が音をたてた。
「これで何度目だ張遼神父。犬猫とてもう少し聞き分けがあるものだ」
太いだみ声が月の光と共に上から降ってくる。ひざまずいた張遼のあごを強引に上に向かせると、脂ぎった顔をぐいと近づけにやりと笑った。
「躾がなっていないものは、躾けねばならんなぁ」
言うと、強引に張遼のからだを引き倒す。ひゅ、と風を切る音がした。
「…っ」
すぐさま背に熱い痛みを感じた。鞭打たれたのだ。これが何度目の事か最早覚えてはいなかったが、何度打たれても慣れるものではなかった。
「お前だ、お前が悪いのだ。お前の罪を、咎を、ワシが浄化してやらねばならぬのだ!おお、だが、打つ者の痛みは誰が癒してくれるのか、神よ…!」
金でその地位を買った司祭はオーバーな演技で嘆いてみせる。
仕置きや躾と称し鞭をふるうときの、舌舐めずりの音やパンパンに膨らんで法衣を押し上げている腹の下の欲望に張遼が気づいていないとでも思っているのだろうか。
「うっ、く…っ」
張遼の痛みに耐える喘ぎはますます男の熱弁と熱鞭を煽る。いい加減腕が疲れないものだろうかと痛みとは裏腹に冷静なことを考えた。
音が止む。
「ふん、これはお前の雑費から引いておくからな」
新しい手錠がかけられ、体温と馴染んだ古い手錠が外される。重くて、今は腕を上げられない。
「もう逃げ出そうなんぞ考えるなよ。お前は、この教会の…ワシのものだ」
どこに控えていたのか、男がふたり現れ張遼を抱え上げた。憔悴した顔の張遼を見て、司祭は骨付き肉を目の前にした野良犬のような顔をした。
自室に連れていかれ、粗末なベッドに放り投げられる。手錠の片方がベッドのパイプに繋がれた。しっかりと施錠される。
男たちは終始無表情のまま出て行った。
張遼は投げ出した腕の先、鈍く銀色に光る手錠をみつめ細く長いためいきをついた。絶望と諦めが混ざり合ったそれは銀の表面を薄く曇らせる。
何度目の脱走で、何個目の手錠なのか。
それも覚えていない。
あの男が司祭としてこのちいさな教会に派遣されてから、張遼は夜手錠で繋がれるようになってしまった。思い出すのもおぞましいような、教義に反するような行為を強いられたこともある。
ジャラ、と鎖の音。
張遼の自由を奪う新しい枷は、すでに体温と馴染み始めている。
確かに手錠は張遼をこの教会に縛り付けるものの象徴だった。でも、逃げ出せずにいるのはそれのせいだけじゃないことは知っていた。もちろん、あの男の鞭のせいでもない。
窓の外、教会の屋根の上。月明かりを受けて輝く十字架が見える。
首にかけていたクロスが冷たく肌の上をすべり、シーツに音も無く、落ちた。
* * * * * * *
わたしすき放題しすぎじゃないでしょうか(笑)
司祭はとうたくイメージでお願いしますハァハァ。なんでこんな妄想になっちゃったんだハァハァ。絵を描いてる時は全然なにも考えていなかったのに…!
張遼の、信じるもののために思いつめすぎるところがとてももどかしくてすきです。
(張遼が捨てられないもの=信仰)