◆桜散る、散る(惇操)◆


はら、はら。

花びらが

草の上に 石の上に

ひら、ひら。

肩の上に 君の上に


*

「孟徳、いい加減にしろ」

「…」

「重くてかなわん」

「……」


夏侯惇は城の中庭に座っていた。その膝に頭を乗せて、曹操は散る桜を眺めている。

一向にどく気配のない主にこれみよがしなため息をついてみせるも、夏侯惇は動かずそのままでいた。

「散った花を見ているのだ。なかなか風流ではないか」

「…そうか?」

花を見ること自体に興味が湧かないのか、酒を流し込みながらのそっけない返答が降ってきた。


はら、はら。

ひら、ひら。

次々と絶えることなく花びらは落下し続ける。

その役目を終えて。


「おぬしは風雅というものを理解せんのか。使命を全うし、潔くも儚く散るその姿を…愛しいとは思わぬか?」

(もし、もしだ元譲。わしが魏王でなくなったら―)

次いで口をついて出そうになった言葉を飲み込む。


それきり黙った曹操を夏侯惇は少しの間見つめていたが、ふいに木を見上げた。

「俺はヨボヨボ落ちてしまう奴より、こうして散り際もわきまえずにてっぺんでふんぞり返っている花の方が好きだな」

にやりと笑みを浮かべ、再び曹操に視線を移す。

「…っ!わしのことではないわ!」

思わず起き上がってしまった。

「俺も別にお前の事とは言っていない」


にやにやと自分を見つめる夏侯惇の視線を手でぶんぶんと振り払い、今度は敷いていた布の上にごろりと寝転がった。


「うちの花はご機嫌斜めか」

「うるさい!」

桜に己を重ねた事を気付かれた事が恥ずかしく、曹操はそっぽを向いて目を閉じた。


*

はら、はら。

花びらが

草の上に 石の上に

ひら、ひら。

肩の上に 君の上に






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