※原作







厳かだ、静閑だ、高潔だ。
時期を過ぎた墓場の緩んだ空気は、潔癖さを失うことなくそこかしこを漂っている。
枯れ気味の仏花、灰が零れる墓石、そして突き抜ける晴天。
晩夏のコントラストが目の前に広がる。

(今年も、か)

色褪せ始めた花の、合間。
数日前の大雨で泥が跳ねた墓石の、合間。
白百合の添えられた、陽を反射して光る墓石。
盆の参りにそぐわない大輪がこちらを見つめていた。

「チッ」

おれがやろうと思ってたことを全部やっちまいやがった。
毎年のように先を越されて、結局おれは花を添えて手を合わせるだけ。
どうにも居心地が悪い、どうにも腑に落ちない。
いいとこ取りの男は何をどう思って毎年のように先陣切るんだろう。

「姉さんどう思います?墓参りの礼儀もわからねェ男なんて」

「なーにが不満だってんだ」

大体が毎年姉さんの墓石の背後で煙草ふかしながら、ぼけっとしてることが不満だ。
しかも寄り掛かって、今にも寝そうな勢いで!

「毎年毎年不満だらけなんでさァマヨ野郎」

「毎年毎年減らねェ口だな総悟」

ちょっとコンビニまで、とでも言いそうな着流し。
半分寝ていたような呆けた顔。
悪党面のくせに煙草の吸殻はきっちり持って帰るからムカつく…!

「毎年ご苦労さんでさァ、実の弟差し置いてやること全部やってくれて」

「悔しかったらおれより早く来いよ、」

わかってるけど、

「おれが毎年同じ日に来てんの、もうわかってんだろ」

わかってる、けど。


これは間違いだ。
何も救わない、救われない間違い。
無のループを繰り返すのはお互い様、気付かない振りをして自己満足に浸っていた。
思い出の共有?傷の舐めあい?
そのくらい実直な思いならきっと、この後悔も救われたのかもしれない。
交わりそうで交わらない、触れられないような距離感を保って捩じれていく。



「帰りは乗せてってくだせーよ」

「おう」


そしてまた、離れていく。
じくじくと潤む傷の痛みが増した気がした。




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