『あつくないですか』






遅い休憩中、携帯が震えた。
メルマガと同じフォルダ設定、宛先は『楽●』。
珍しいと驚きつつ開けば、たった一言あの言葉が。
暑いっちゃ暑い、でも。
こんなことわざわざメールしてこない。
しかも変換なし、全てひらがな。

(…デレたのか?)

そんなバカな。
あいつはこんなことしない。
遠回しにかまって欲しい、なんて連絡したりしない。

(…なんだ?)

嫌な予感がする。
電話してもコールが切れない。
たった今メールがきたばかりなのに。


休憩後の仕事は何が残っていた?
昼食を掻き込みながら頭を回転させた。







渡されていた合鍵、今まで使うことはなかったけど。
ドアを開けて、玄関に足を踏み入れる。
湿気を含んだ熱気が纏わりついた。
ざわりと騒ぐ胸、足早に部屋の中へと入る。

「そ、」

くたりと横たわって、短く呼吸する総悟がいた。

「総悟?!」

「…あれ…?ひじかたさん、だ」

あつい…と一言呟いて盛大なため息をこぼす。
部屋の中は熱気、熱気、熱気。
真夏日をゆうに超える外の気温、それはこいつだって知ってるはずだ。
それなのにクーラーがついていない。
なら扇風機は、と足元に転がるガラクタの元の姿はきっとそれだったもの。

「何やってんだよ!」

「いやァ…クーラー、壊れちまっ、て」

「はァ?!」

「ヤバイと思って、あんたに、」

すいやせん…と消えそうな声で呟くから、叱るつもりが毒気を抜かれてしまった。
バカだ、本当に。
どれだけ不安に駆られたか、きっとわかってないんだろう。

「ったく…」

「怒りやした…?」

「当たり前だろーが」

「ごめんなさ、」

「謝んな」

「…」

「…もう怒ってねーから」

「…ほんとに?」

「ほんと」

仕事も投げてきた。
僅かな、わずかな二人きりの時間。


「涼しいとこ行くか?」

「…しね」




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