(2009.11)


「飼いたい」

「駄目だ。」

「飼いたい」

「駄目だ。」

…先程から同じ会話がされている。
隣にいるペットショップの店長も呆れ顔だ。



***
今日はたまたま仕事が早く終わった。
久しぶりにアキラの働く姿でも見に行こうか、と考えた俺はアキラがいるペットショップに足を運んだ。

調度アキラも仕事が終わったようで、店長と話をしていたようだ。

「あ、シキ」

俺を見つけたアキラは少し驚いた顔で俺を見た。
以前、ここの店長には酔い潰れたアキラを迎えに行った時に俺達の関係を教えたため、店長も俺を見ても変な顔はしなかった。

「どうしたんだよ」

真っ青なエプロンを着て、腕まくりをしたアキラは自分の仕事を片付けてこちらにやってきた。

「仕事が早く終わったんでな、ちゃんと仕事をしているか見に来たまでだ。」

「…ちゃんとやってる。」

「シキさん、この間はどうも」

「どうも、お久しぶりです。…店長、アキラはちゃんと仕事してますか?」

「…シキ!!」

俺がからかって店長にそう尋ねるとアキラは顔を赤くして怒った。
店長はニコニコしながら頷く。

「ああ。アキラはよくやってくれてる。…そうだ、アキラ。シキさんに言いたいことがあったんじゃないか?」

「あ……はい……」

「言いたいこと?」

アキラはモジモジしながら俺と目を合わせようとしない。

「…あのさ、お願いがあるんだけど…」

「何だ」

「…その…家で猫を飼わないか…?」

「………猫」

予想外の話に少し驚く。

「…俺、猫が好きなんだ。」


そう言われても返答に困る。
アキラは依然としてじっと見てくる。

…いや、でも待て。
別に俺は動物が嫌いなわけじゃない。
でももし飼ったとしたらアキラはそっちの猫のほうに目がいってしまうんじゃないか…?


「…駄目だ。」

「…何で」

正直に言えるわけがない。


「…ほ、ほらあれだ。俺はアキラという名前の桜色で大タル爆弾の術、爆弾ダメージ軽減の術、爆弾強化の術が使える猫じゃないと……」

ちなみにコイツ↓



「モンハンかよ、今の、わかる人が少ないからな。……というか何ていう理由だよ。」

アキラが怒るのも無理はない。






***
『飼いたい』『駄目だ』が続き、今に至る。

「そこまで嫌がる理由がわからない。」

「……」

「理由が聞きたい。」

段々苛々してきたのだろう。アキラは睨むように俺を見た。

…どうしてわからないんだろうか、お前は。


ますます険悪な雰囲気になり、店長は片付けをすると言っていなくなった。

俺はアキラの腕を掴んでSTAFF FLOORと書かれた部屋にアキラを連れて行った。


「…んだよ…!!」

「…わからんのか、お前は。」

「…何が「理由。」

どこまで鈍感なのか。アキラは首を傾げている。

「猫を飼うことが嫌なわけじゃない。ただ…飼ったとしたらアキラはどうなる」

「…意味わかんない…」

「猫にばかり構うようになる。…違うか?」

「……!!!」


俺が遠回しに言った意味がわかったのだろう、アキラは顔を赤くした。


「…それが理由?」

「…悪いか?」

「…悪くない。」

そう言ってアキラは俺を抱きしめてきた。

「…ちょっと…考え直す。」

俺のスーツをギュッと握りながらアキラはそう小声で言った。



「…あの……お取り込み中悪いんだが…もう店を閉めたいから出てくれるか?」

店長が入ってきた。
アキラが俺を抱きしめているという、アキラにとっては恥ずかしい格好を店長に見られ、酷く狼狽した様子だ。

「…す、すみませ!いまでます!」

アキラの口調が片言になる。




店から出て、俺達は別れた。
反対のほうに進む店長の視線が痛いほど俺達の背中に突き刺さっていた…………





end
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