空回り


「なぁ、アキラ…」

「…?何だよ」

「…俺…お見合いをすることになったんだ…」

「…あ…そうか…」





『空回り』





信じられなかった
ケイスケがお見合いをする、と言った時頭の中が真っ白になった。

でも…それはケイスケが決めたことなのだから俺がとやかく言う筋合いはない。
ケイスケは少し困った表情で頭を掻いていた。







それから俺達の口数は少なくなっていった。一緒に住めるのはあと僅か……なんて女々しいことが脳裏を過ぎってしまい頭を振った。

キッチンで会話もなく夕飯を食べていると、ケイスケが急に箸を置いた。


「…アキラ…ゴメン……」

「…何がだよ。」

「俺…もっと早くアキラに伝えるべきだった…」

「…別に…。ケイスケが決めたことなんだ。わざわざ俺に報告する必要もないだろ。」


思っていることとは違う言葉が出てしまう。
…俺は…なにやってんだ…



「…で?相手ってどんな人なんだよ。」

「確か…俺より一つ年下で、親がいないらしい。今は隣町の飲食店で働いてるみたい…。」

「…そっか…。…顔は…?」

「あぁ…写真あるから見る?」



ケイスケは引き出しから写真を取り出し俺に差し出した。

…まぁ…普通な感じだ。
俺はそういうものには全く興味がないから美人なのかはわからないが、見た目的には静かそうな感じがした。
黒髪をサイドで一つに縛り、大きめの目が印象的だ。


「…どうかな…?」

「ケイスケは垢抜けたタイプより静かな人のほうがいいと思う。…お似合いなんじゃないか?」


一瞬、ケイスケの表情が曇った気がした。
しかし、それはすぐに消え、「ありがとう。」とだけ言うと席を立ってしまった。




夜、隣で眠るケイスケの横顔を見て溜め息をついた。

ケイスケは…それでいいんだよな。
俺はアイツに何をしてやればいいんだろう?







***
それから数日が経って、いよいよケイスケのお見合いの日がやってきた。

馴れないスーツに袖を通し、いつもは無造作にしていた髪も今日はワックスでセットしていた。

俺は別に参加するわけでもないから普段着でいた。


「アキラ…可笑しくない?」

「別に変じゃない。…ただ、見慣れないだけだ。」

「ははっ、俺だって生まれて初めてスーツを着るんだもん。」

「……ケイスケ!」

「…!!…アキラッ…」


俺は無意識のうちにケイスケを抱きしめていた。
自分でも何がしたいのかわからなかった。ただ…何となく…もうケイスケには会えなくなってしまう気がしたからかもしれない。

「…ケイスケ…色々あったけど、俺は…お前と一緒に過ごせてよかった…」

「…アキラ…」

「…たかが見合いで、とか思うかもしれないけど、…俺っ……」


いつの間にか涙が出ていた。
別に一生会えなくなるわけじゃないのに…


「…お前には…幸せになってほしいんだ…」

「……あ…」




ピンポーン……





タイミング悪くチャイムが鳴り、俺は涙を服で拭い玄関を開けた。

訪問者は工場長だ。
今回の世話役は工場長なのだ。お見合いの話しを持ってきたということで、自然にそういう流れになっていた。


「…?アキラ、どうした。目が真っ赤だぞ?」

「あ…いや…二日酔いで…」

「そうか。……おっ!ケイスケも準備出来てるみたいだな。」

「…はい…」

「じゃ!まずは工場に行こうか。」


突然工場に行こうだなんて工場長が言ったもんだから俺は驚いた。

そのまま俺とケイスケは工場長に連れられて工場に向かったのだった…………








***
工場に着くと何故か従業員も揃っていた。しかも何故か全員の顔がにやけている。


「アーキラ!!」

ケイスケがケラケラ笑い出した途端、凄まじい数のクラッカーが鳴った。
何がなんだか訳がわからなくて目を白黒させていると、腹を抱えて笑い転げながら工場長が俺の肩を叩いてきた。



「アキラ、今日は何の日か知ってるかー?」

「……あ……エイプリールフール…」

「大正解!!!アキラ本気にしちゃってるんだもんなぁ…」

「…ということは…ケイスケの見合いの話は…」

「そう!嘘だ。」

「………」


なんだか全ての力が抜けてしまい、ヘナヘナと座り込んでしまった。ケイスケは俺のほうに来るといきなり皆がいる前で抱き着いてきた。


「…ん…やめろってケイスケ!皆が見てるだろ!!」

「…騙しちゃってゴメンネ。でも嬉しかったんだ、アキラが俺と一緒に過ごせてよかったって言ってくれたこと。」

「…前言撤回だ!ああ!イライラする!」


段々腹が立ってきてケイスケを一発殴り、睨み付けてやった。


「…アキラ…」

「…工場長も皆も…なんで俺を…」

「あぁ、アキラは真面目だからカワイイなぁ…と思ってな。ケイスケにも協力してもらったんだ。まぁ、ケイスケも始めはアキラがかわいそうだ、とか言って拒否してたんだけどな、途中から『意識調査』だ!とか言い出してな。悪かったな。」


何の悪びれもなくサラリと話す工場長。

この数日、俺は何モヤモヤしていたんだ!と泣きたくなった。でも…何故だろう、気分は晴れ晴れとしていた……………









end




エイプリールフールですよ!
ケイスケ、まさかの見合いにアキラドキドキ!……単純にアキラを騙したくなっただけです(笑)


2009.04.01







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