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「アキラ」

「ん?」

「祭りに行くぞ」


それはシキとアキラが結婚して初めての夏のお話



『なつのおもいで』




急にシキにそう言われアキラは驚いた。
シキはてっきり人込みの中に入って行くのは嫌いだと思っていたからだ。


「何でいきなり?」

「数日前からお前がやたらと商店街に貼ってある夏祭りのポスターを見ていたからな。」

「…うぅ…」


見られていたか……
アキラはかーっと顔を赤くした。
小さい頃『祭り』という言葉は聞いたことがあったがいまいちどういうものか知らなかった。
トシマに居た時は勿論、脱出した後もシキの介護やら何やらで祭りなどに構っている暇などなかったのだ。


「なんだ、行きたくないのか?」

「…別に…行ってもいい…」

「素直に『行きたい』と言えんのかお前は。」


呆れたようにシキが溜め息をつく。


「…シキは嫌じゃないのか?なんかそういう騒がしい事が好きそうじゃないから…」

「一人で行くのならパスだな。」

シキは含みのある言い方をした。
ということは逆を返せば『二人でなら行く』というふうに取れる。


「なら…」


アキラはテーブルの上に置いてある財布を手に取るとシキの腕を引っ張った。


「浴衣…買いに行こう」

ボソリと呟くようにアキラが言った。

これじゃあまるで俺が待ち望んでたみたいじゃないか……

アキラはシキの腕を掴んだ手を見て恥ずかしくなった………




***

近くのデパートに浴衣を売る店があることをアキラは知っていたので浴衣購入までの流れは非常にスムーズだった。

隣を見ればシキがクスクスと笑っている。


「…何だよ」

「いや、ここまでチェックしているとは思っていなかったからな。てっきり浴衣はどこに売っているのかとか言いながら捜す羽目になると思っていた。」

「…それは!…たまたま知ってただけだ…。ほら!買ったんだからさっさと帰るぞ!」

真っ赤になった顔を隠すように下を向き、ズカズカと一人で店を出ようとするアキラ。
そんな姿を見てシキは再び声を押し殺して笑ったのだった……




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