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「早く…来て…」
『また一人で空回り』
今日は仕事が休みだったので、朝からアキラは家事をしていた。
早朝出勤だったシキのために早く起き、見送ったあと、食器洗い、洗濯、と慌ただしく動く。
リビングで掃除機をかけていると、ふとテーブルの上にA4サイズの茶封筒が置いてあった。
「…これ…シキが今日会議で使うって言ってたやつか…?」
確証がもてないので、一応中身を確認する。するとそこにはアキラが見ても全く分からない言葉が羅列してある紙が何枚も入っていた。
「…よくわからないけどやっぱりシキのやつだ…」
内容はさっぱりだが、その書類には今日の日付が書いてあったので間違いないだろう。
…となると早くシキの仕事場に届けなければならない。
「…シキって会社の人に結婚してるってこと言ってるのか…?仮に言っていたとして…同性結婚ってこともみんな知ってるのか…?」
もし、シキが同性結婚しているということを知らなかった場合、アキラが行くことによってシキが変な目で見られたらかわいそうだ。
でも自分が届けなければ……
どうすればいいのか…
アキラは困ってしまった。
そこで誰かに解決策を求めるべく、携帯を手に取った。
プルルルル……ガチャ
「あれ?アキラ、どうしたの?」
「…ケイスケ…」
「あっ!てかアキラ、具合は大丈夫?」
「あぁ、おかげさまで大丈夫だ。今日はそんなことじゃなくて…」
「シキさんに虐められたとか!?」
ケイスケはアキラの言葉を遮り喋る喋る…
「………でさー、それならアキ…「ケイスケ!…急ぎの用なんだ…」
「…どうしたの?」
かくかくしかじか……
アキラはケイスケに相談した。受話器の向こうではケイスケが真剣に考えているようだった。
「…うーん…俺がもしアキラの立場だったら女装をしていくと思うんだ。少し声のキーを上げてさ。アキラなら…か…可愛いからいけるんじゃないかって…」
女装……考えもしなかったことだ。
「…そんなことしてバレないか…?」
「だってフロントに渡すだけだろ?それなら大丈夫な気もするんだけどなぁ…。」
「…なるほどな……わかった、参考にさせてもらう。」
「お役に立てなくて悪いな…」
「いや、女装なんて俺の頭にはなかったことだから。んじゃ、本当にありがとな!」
「アキ……………」
電話を切る間際、ケイスケが何か言っていたが、とにかく早く持って行かなければいけないという気ばかりが焦って切ってしまった。
「ちょっと待て……女装って言ったって女物の服とかウィッグとか持ってないぞ…」
どうすれば…とアキラは考えていたが、手をポン!と叩くと再び電話をかけた。
プルルルル…ガチャ!
「どうしたのだね、君から電話なんて珍しいじゃないか。」
「…アルビトロ…ちょっと聞きたい事があるんだ…。なに…そのー…女装道具と俺の髪と同じ色のウィッグって持ってたりしないか…?」
「な…なに?もしかしてそっちの道を開拓したのかね!す…素晴らしい!!勿論だとも!私が持っていないわけがないじゃないか!!
……ふんふん、今必要……?……わかった。今すぐグンジに届けさせよう!では、健闘を祈る!」
一方的に電話が切られ、アキラは茫然と立ち尽くした。
…何か勘違いされた気がする…が…まぁいい。
この時ばかりは自分の知り合いの幅広さに感謝したのだった……
***
しばらくして……グンジがやってきた。
「ネコちゃーん!!女装シュミ開拓だってぇぇえ!スッゲーじゃん!何、シキティとのプレイで使うわけー?なんか楽しそうだぜぇえー!!!」
「プレイって何だよ、これは…「ネコちゃん毎晩シキティのために頑張ってんだろー??子供出来たら教えろよー!!!」
「…はいはい、わかったから。もう帰れ。急いでんだよこっちは!」
馬鹿に真剣に付き合うつもりは毛頭ない。
追い払うようにグンジを家から追い出しドアを閉めた。
意を決してアキラは着替え始めた。
慣れないスカートに違和感と開放感を感じ、慣れない長髪に苦戦しながらも着々と着ていく。
「…化粧は…やり方がわからないから口紅だけでいいか。」
肌の色が白いのが幸いだった。
アルビトロが選んだであろう薄いピンクの口紅を付け、全ての準備が整った。
「…うわ…嫌だな…こんなのでホントにうまくいくのか…?」
アキラは様変わりした自身を見て溜め息をついた。
結婚式の時も化粧などをしたが、今回は自分で全て行ったため、ちゃんと出来るか自信がなかった。
しかし、何の問題もなくアキラは女になっていた。
こうしてはいられない、早く行かなければ。
アキラはバックと書類片手に家を出たのだった……………
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