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『酒は飲んでも呑まれるな!』




些細なことでシキと喧嘩をした。

そう、それは2日前のこと…




***

最近、シキの帰宅が遅い。
仕事が忙しいのだろうと思い、アキラは夕飯も食べずにシキの帰りを待っていた。


時計を見ると、既に針が11時を指していた。


ガチャンと玄関の音が聞こえ、シキが帰ってきたことが分かるとアキラは立ち上がり、冷めてしまった夕飯に再び火を通した。


「お帰り。」

「あぁ。」

「今日も遅かったな。」

「あぁ。」


素っ気無いシキの言葉にイラッとしたが、何も言わずに料理を並べた。


「アンタ帰りが遅いから料理が冷めただろ」

「アキラ。」


いきなり呼ばれたため、何だとシキを見る。



「夕飯、食べてきたからいらん。」


「えっ…?」




いらない

その言葉に胸がチクッと痛んだ。



何時間も帰りを待っていたというのに、連絡の一つもなければこの言葉。

アキラは猛烈に腹が立った。



「…ふ…ふざけるな!俺が何時間アンタの帰りを待ってたと思ってるんだ!」

「別に、俺は待っていろと言った覚えはないがな。」

「…っ…もう知らない!!!」


注いでいたお茶をテーブルに勢いよく置くとアキラはシキを残し部屋から出て行った。






どうしてそんなことを言われないといけないのか…。

ただ俺はアンタと一緒に夕飯が食べたかっただけなのに…。

気が付くといつの間にかアキラの頬に一筋の涙が伝っていた……






***

それから…
アキラはシキと全く口を聞いていない。
シキが側にくると自分から距離を開けたりして避けた。
別に…シキが嫌いになったわけじゃない。ただ…自分がどれほど想っているか分かってほしかったのだ。


今日も何も言わずシキが家を出て行く。
アキラのほうが出勤時間が遅いので普段なら玄関まで見送るのだが、今は違う。

「行ってらっしゃい」の言葉もなければ「お帰り」の一言もない。
どちらかが先に折れてしまえばすぐに済んでしまうような幼稚な喧嘩をもう2日も続けている。





支度を済ませ家を出る。
天気とは裏腹に、清々しくないこの気持ちはさっさと仕事をして忘れてしまおうと思った。




「アキラ、どうした?昨日から元気がねぇなぁ。」

店長に言われてはっとする。無意識に手が止まっていたのだ。
慌てて箒を持ちフロアの掃き掃除を始めるが、急に店長にその手を止められた。


「どうしたんだ?具合でも悪いのか?」

「…いえ…そうじゃないんですけど…。」

「嫁と何かあったのか?」


店長はアキラが結婚していることは知っているが、まさか相手が同性だということまでは知らない。
嫁…ではないが、店長の言うことがあまりに図星だったため言葉がなくなった。


「……。」

「おっと。図星だったか…。まぁ…一緒に生活してりゃ色々あるわな。」

「…店長。」

「ん?」

「もし、夕飯を作って旦那の帰りを待つ嫁がいたとして、旦那が帰ってきて『夕飯は食べてきたからいらない』って言われたら嫁はどう思いますか?」



急に変な質問をしてしまったため、店長は困った顔をしている。


「ちょっと待て。…アキラ、お前そんなこと嫁さんに言ったのか?!」

「えっ?あ…違うんですけど…。」

「そいつぁ最低な旦那だな!」


店長は血相を変えて怒り始めた。

「だってせっかく嫁さんが夕飯を作って旦那の帰りを待ってんだろ?なのに旦那のその吐き捨てるような言葉はなんだ?!それは嫁を愛していないんじゃない

か?!」

「…愛していない…」



決定打を受けた…そんな気がした。





「ちょっ!アキラ?…ど、どうしたんだ!」

「…て…店長もそう思いますよね……っ…」



自分でも情けなくなったが、知らぬ間にアキラは泣き崩れていた。
まだ店は開いていない時間だったため、客に見られることはなかったが、店長にそんな姿を見られてしまって自分が嫌になった。


「…っく…ただ…一緒に夕飯が食べたいだけなのに…もっと一緒に話がしたいだけなのに…」

「…アキラ…」


店長からしてみればよくわからない話だが、アキラがそれほどまでに苦しんでいるのだと分かり、いたたまれなくなる。
気持ちを落ち着かせようと背中を擦ってやるが、一度壊れてしまった涙腺はなかなか治ることはなく、暫くの間アキラは泣き続けていた。










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