A






視界が靄に包まれ、人間が二重にも三重にも見えたかと思うと身体の中から意識を持っていかれる感覚に陥る。


その瞬間、会議中に大きな音が鳴り響いた





「アキラ様っ!!」
「しっかりしてください!!」
「アキラ様!!!」


薄れる意識の中で見た紅い瞳は一瞬大きくなり、何かを言おうと口を開くが、会議中、そして立場上、会議を中断するわけにもいかず、場内に住み込みの救急隊がアキラを担架に乗せて会議室を出ていった……







***
「…っ……」

頭が割れそうに痛い


目を覚ましたアキラはシキの寝室にいた。


「…気がついたか」

「…総帥……」

「全く。体調が悪いのであれば何故朝言わなかったんだ。」


呆れた顔でアキラを見る。


「…すみません…」

「…倒れるほど無理をすることもなかっただろ。」

「…ぅ…」


3日前ほどから咳が出て熱っぽかった。アキラはすぐに治るだろうと思いあまり気にかけていなかった。

しかし、アキラの考えとは裏腹に治るどころか酷くなってしまったのだ。

その結果がこれだった。


「己の体調管理も出来ん奴は俺の所有物としていかなるものか。」

「総帥っ!!…本当に申し訳ありません。」

「声を荒げるな、病人が。……お前も知っていると思うが、今から他国との大事な会議に行かなくてはならない。俺が戻るまでに完治させておけ。…わかったな。」

「…わかりました。……あの…総帥。」

「何だ」

「…貴方がお休みになられる場所に俺なんかが居ていいのですか?」

自分のベットならともかく、シキの布団で…と思うと申し訳なくなってくる。


「別に構わん。ここの部屋くらい厳重に警備されている部屋でなければ見舞いに来たという口実で害虫が入ってくるだろう?それがもしお前の身体を求めてきたらどうだ?病人であるお前が対抗できるはずもあるまい。」


害虫=高嶺の花と呼ばれアキラのことを好む兵士たちのことを言っているのだろう。

アキラはシキが自分にそこまでしてくれることにとても嬉しかった。




「…仕事の事を今は考えず、治すことだけに専念しろ。……では、行ってくる。」

出掛け用の黒いコートを羽織り、アキラの元を離れようとする。

アキラはそんなシキのコートの裾をギュッと握った。


「…アキラ?」

「総帥…早く…戻って来て下さい……」


何を言っているのだと自分で恥ずかしくなり俯く。そんなアキラを見てシキはアキラの頭を撫でた。


「可愛いことを……。お前がそれを望むのであればそうしよう。」

そう言うとシキはアキラの頬に軽く口付け、出て行った。


アキラはシキの枕に顔を埋め、眠ったのだった………






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