「この世界は、何なんだろうな」
「…、めっずらしー、スコールもそういうこと考えるんスね」
「……別に」

軽い気持ちで言葉を返したらスコールは拗ねてしまったようで、せっかく会話を続けてくれていたというのに顔を背けられてしまった。ごめん、ごめんな。スコールっていつも、そんなこと俺には関係ない、とか言うもんだから。なんて言葉を投げかけてみるもののやっぱり逆効果でスコールは当分俺の方を向いてくれそうにない。

「ほら、会話の続き」
「……」
「スコールー」
「っ、何故と問うなかれと教わって育ってきたが思考するなということじゃない」

あまり力を入れず脇腹を殴ったところ、スコールは会話を続けてくれるようだった。言いたいことは言っちゃえよ、なんて言ったこともあった気がするけど本当にスコールは言葉にしない奴だ。まあ今回はせっかくスコールが言葉を紡いだっていうのに邪魔してしまった俺がいけないんだけど。

「ふーん、この世界、か」
「あんたはどう考える」
「俺は、」

この世界が何かなんて上手く考えられなかった。ここは、秩序と混沌が戦い続ける世界だ。それで俺たちは秩序の戦士として召喚された。俺が知ってるのはそのくらいのことで、そういうものなんだと思っていた。だからスコールの求める答はきっとあげられない。隣を見るとさっきまで背を向けていたスコールと目が合う。視線が痛いくらいまっすぐに俺を見ていて気恥ずかしい。俺にわかることなんてスコールはもう知ってるはずなんだ。俺よりもずっと色んなことを考えてるんだから。そんな俺にもわかるのは、戦うってことと、いつかこの世界が終わるということ。

「俺さ、笑って旅がしたいんだ」

俺たちはこの世界の登場人物じゃない。それだけは、きっとみんな感じてる。だから終わりが来たらその先は別々の物語だ。いつか来る終わりのためにも、笑顔を。それに秩序の戦士は女神様にとっての希望なんだ。希望の象徴は暗い顔をしていちゃいけない。笑って、そして終わりの先に未来があると信じて進むんだ。

「終わるまでのこの世界を俺は目一杯感じたい」

なんとなくだけど戦いが終わった後、俺の物語は続かないような気がした。元の世界に戻るんだと思うけど何故だかそこに俺の居場所はない気がする。誰にも言ったことはない。言う必要がない。だってこんな悲劇のようなことを考えながら心は自然と穏やかなんだ。凪いだ海のように自分の心の中が泳ぎやすい。

「俺には、そんなこと出来ない」

終わりなんて考えたら動けなくなってしまう。スコールは普段言わない弱音を吐いた。いつか交わした約束の終わりが怖いと言った。スコールは、俺と同じ17歳で俺よりも少し背が高くてクールで大人っぽい振る舞いをしている。最初のころはそんな風に思っていた。だけど少しずつスコールを知っていくうちに認識が変わってきた。スコールは、すぐ拗ねるし、ふて寝するし、俺と一緒で寂しがり屋だ。

「大丈夫っスよ。終わりの先にはスコールの世界が待ってるんだから」

寂しがり屋のあんたには抱きとめてくれる人がきっといるよ。スコールと俺の過去は違う。だから寂しい理由も違う。同い年で、全然違う生き方をしてきた誰か。その誰かの表情はみるみるうちに険しくなって、だけど最後には悲しそうに歪んでしまった。

「そうじゃない」
「あ?」
「……」

スコールの体重を肩に感じる。その大きな体で泣いているようだった。まるで小さな子供みたいだ。スコール、わかってるよ。スコールは置いて行かれるのが嫌いなんだろ。俺も嫌いだっつの。俺が、みんながスコールを置いて消えてしまうって思ってるんだ。だけどそれは逆で、スコールが俺を置いて行くんだ。スコールは全然話さないけど本当は欲張りだ。

「大切なものを失うのは、もう嫌だ」
「……おう」

小さなその言葉に返事をして俺もスコールの肩に顔をうずめた。スコールは本当に、欲張りだ。俺はもう大切なものなんていらないのに。彼らとのそれだけで十分だったのに。



夢を見た気がする。赤々と燃える夕陽と涙の舞。綺麗で、心に響いて、そして悲しい舞だった。この世界に召喚されたことによって、バラバラに砕けちった記憶の中の一片。もう見たくないと思っていたものを、それでも夢見るのは失った記憶を求めているせいなのか。それともどこかでまた彼女が舞う姿を望んでいるのか。その夢は、断片的な記憶を投影していた。海があって俺がいて、そんでみんながいて、終わりに向かっていたんだ。それがどこだかも、どういう終わりなのかも、まだ思い出せないけれど。
(だけどあの言葉が君の受け売りだってことは、覚えてるよ)

20120409
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