留守番って、とにかく暇だ。ベースキャンプを守ることは大事なことだし、その意味もわかっている。だけどここまで攻め込まれることはまずない。だってそうなる前に他の皆がどうにかしてくれる。それが前線で戦う者の仕事だ。だから、留守番は本当にやることがない。一応、洗濯だったり食事の準備だったりはあるけれどそれ以外の時間は何をやっててもいいんだ。

「あー…暇」

呟いた言葉は輝く青空に吸い込まれていった。ここが、そう、海のそばだったら泳いだり出来るのに。草むらに大の字に寝っ転がって空を見ていた。同じ青なのにあの空は泳げない。暇だ。両手を伸ばしてみても届かない。わかってる。暇だ。

「スコール、暇」

何も一人で留守番をしているわけじゃない。今日はスコールと二人で残っていた。呼んでみたけれど返事はない。上半身を起こしてスコールの方を向く。スコールは俺から少し離れたところで何かしていた。たぶん彼の愛剣の整備だ。のろのろと近づいて横に腰を下ろす。手元を覗きこんで、それから視線を顔へと移すとスコールの眉間には深いシワが寄せられていた。

「……、なんだ」
「暇」
「……武器の手入れでもしていればいいだろ」

そう言うとスコールは作業を再開した。スコールは分解されたガンブレードの部品をまるで愛しているかのように優しく扱った。もしかしたら愛しているのかもしれない。たぶん俺のことよりかは好きに違いない。そう思っている。スコールの顔を凝視すると無表情だったけれど目元が少し緩んでいるのがわかった。こいつ、きっと今この部品のことしか考えてない。スコールに大層愛されているその部品を見るとそれは銀色で、鈍く光っていた。手入れの最中だからかスコールは手袋をはずしている。いつもは見られないスコールの手を観察してみる。細いけれど骨ばっていて女っぽくない。でも奇麗だった。爪はちゃんと切りそろえられていて危なくない。そしてその指には同じく銀色の、指輪。胸元の大きな獅子を盗み見るとやっぱりそれも銀色で。

「スコールってシルバー好きだよな」

俺も結構好き、と胸の銀色を手でつかんで持ち上げる。俺の声に少し反応してスコールは銀色を撫でる手を止めた。俺が持ち上げたそれを見て、結局俺を見ることはなく作業を再開する。

「もう少し興味持っても良くないっスか…」

せっかく共通の話題を得たのにそれは一瞬にして終わってしまった。コミュニケーション下手にも程がある。小さくため息を吐く俺のことを瞳を動かすだけで見て、スコールは口をきゅっと結んだ。うん、わかってるよ。スコールの頭の中は色んな言葉だらけなんだろ。弁解とか文句とか、もしかしたらシルバーアクセサリーのことが頭に引っかかってくれてるかもしれない。だけどスコールは何も言わないからわからない。バッツやジタンあたりなら言葉を引き出してやったり読み取ってやったりするんだろうけど俺にはそんなこと出来ない。だから、俺はスコールの言葉を待たない。

「指輪、見せて欲しいっス」
「……」
「ちょっとだけ!」

顔の前で両手を合わせてお願いした。スコールはとても嫌そうな顔をしていたけれど、その顔を覗きこむと渋々と言った感じで口を開いた。

「気に入ってるんだ、これ」

なるほどスコールはこの指輪を他人に渡すのが嫌なのか。じゃあつけたままでいいよと言ってスコールの手を取った。いきなり掴んだ手はビクついて、少し硬くなった気がする。その手に輝く銀の指輪には小さな獅子が居た。じろじろと見ていたらもういいだろと言ってスコールは手を引っ込めてしまった。その指輪を大事そうに見るスコールを見て、いいなあと思う。ここにある銀色たちはスコールに愛されてる。優しい愛情を与えられて身につけられるそれらが羨ましい。だって絶対スコールって大切なものに優しいじゃん。

「あーあ、スコールがガンブレードと同じくらい俺のこと好きになってくれたらなあ」

そうしたらもっと、何かがどうにかなる気がするんだけど。そう思って俺は首を傾げた。俺はどうなってほしいんだ?
スコールは完全に俺の方を向いていた。眉間にシワは寄っていなくて目を見開いてる。手に持っていた整備道具を落として銀色と接触。甲高い音がその場に響いて時間が止まったわけではないことを教えてくれた。動きの止まってしまったスコールをしばらくの間眺めているとどうやら思考を再開したのかどんどんと難しい顔になっていくのが見てとれた。

「意味不明だ」
「…そっスよね」
「は?」

俺だって別にあの部品のように愛してもらいたいわけじゃない。だから俺にもよくわからなかった。スコールは俺の返答に益々眉間のシワを深くする。あ、これは怒っているかもしれない。

「さって、そろそろ食事の準備、しないと」
「おい」
「スコールも手入れさっさと終わらせて手伝えよ!」

スコールが何か言おうとしているけれどそんなものは無視して俺は立ち上がった。スコールを置いて走りだす。きっとスコールの機嫌は最悪に違いない。追いかけっこのような気持ちで逃げるようにベースのテントに向かって走っていたら胸元のそれがチャリ、と音を立てた。今度はお前も愛してもらえるといいな、なんて馬鹿な独り言を吐き出した。さて、自業自得とは言え機嫌の悪いスコールの相手は嫌だ。はやく皆帰ってこないかな。帰ってきたら皆がどんな戦いをしてきたか聞こう。そうしたら誰かしらから退屈だったか聞かれるんだろう。そうしたら、そうでもなかったって答えよう。
(わがままだってわかるんだけど、俺はそれが欲しいんだ)

20120402
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