「サイファー、の、変態…ぅあ!」
「…そんなこという余裕があるなんて、スコール様はまだまだ満足してないってことだよな?」
「あ…ん…っ」

どうしてこんなことをしているのかはあまり考えたくない。俺は何を間違えたんだろう。俺の下でよがっているこの男は本当だったら俺とこんなことしていちゃいけない奴だし、俺はもっと小さくてやわらかい、そう、最低基準として異性を抱きたいと思っている。だけど今こうして同性の小さくてやわらかくもない奴を組み敷いて、性器を出し入れして興奮している。自分自身に萎えそうだ。だけどスコールが、俺の下で気持ちよさそうに喘いでいる。罵声交じりだが俺がひたすら追いかけまわしていたあの頃を思い出して気分が良い。未来の魔女も何もなかった、俺たちがただ学生をしていた頃のあいつみたいで懐かしい。違う。そんなきれいな感情で流していい状況じゃない。俺とスコールはセックスをしている。それも、たぶん俺がそういう趣向の持ち主だということを理由にして。



やらなきゃいけない仕事があった気がする。任務自体は入っていないが報告書の提出や武器の手入れ、任務に必要な機材の整備。どれから始めようか悩んでいた、はずだった。とりあえず久々に帰ってきたからと部屋のドアを開け放ち換気を始めた。相部屋だったらこんなことしなくてももう一人がどうにかしてくれそうだが生憎この部屋は一人用だった。何せガーデンで一番の問題児の俺が使っている部屋なのだから、相部屋を希望する奴なんているわけがない。次は溜まっている洗濯だろうか、なんて考えていたらあの男がふらりとやって来た。

「少し休憩する」

それだけ言って俺のベッドで丸まりだしたスコールはそのまま仮眠をとりはじめた。文句を言う隙すら無かった。叩き起して部屋から追い出してやってもよかったがこの男は多忙極まりないSEEDの仕事に加え、ガーデンの運営にも口を挟まないといけないご身分だ。だからこうやって時々行方をくらませて一息ついている。それを知っているのはあの時の奴らくらいだ。きっと今頃こいつの分まで仕事をこなしている。どうせあとで申し訳なくなって謝りに行くのならこんなことやめてしっかり休めばいいのだと思う。それが出来ない馬鹿だってことも知っている。だからと言って勝手にベッドを使われるのは不本意だった。

「あとでハイぺリオンの手入れ手伝わせるか…」

本当に寝ているのかは知らないが俺のベッドに居座ることを決めたスコールを眺めながらそう呟いて、俺は作業を再開した。


「今度の任務どこだよ」
「ドールで護衛任務」
「ふうん」

少しして起きたスコールに銀色の部品を渡した。オートマチックはジャムるから嫌だとかなんだと文句を言いながらもスコールはそれを磨きだした。

「……サイファーは」
「…まあ、お前と遭遇するようなところには居ねえな」
「……」
「なんか言えよ」
「始末書ものにならない程度にしてくれ」
「うっせ」

特に意味のない会話を時折しながら時間が過ぎてゆく。ハイぺリオンはスコールの武器と同じガンブレードだ。多少の違いはあれど好んで使っている武器だからかスコールの手に迷いはなく、ハイぺリオンは美しく磨かれていく。ガンブレードを握って日が浅いとき、スコールにリボルバータイプを触れせてもらったことがあった。その時の俺は所詮は武器なのだからとぞんざいに扱ってしまいそれ以来スコールは俺にガンブレードを触らせなかった。今度気が向いたらもう一度聞いてみようか。まあぐちぐちと言われて俺が取り上げるのは、目に見えてはいるのだけど。

「…終わった」

その声に導かれるままスコールの方を見た。これで仕事は終わりだと言ってまた俺のベッドに倒れこんでいる。俺は思考に負けて滞っていた報告書の作成を前に溜息を吐いた。俺だってベッドで昼寝がしたい。


次に事が動いたのは、スコールが俺のベッドでもぞもぞと動き出した時だった。おとなしく眠っていればいいのに寝付けないのか人の私物を物色しているであろう音が聞こえる。安眠したいのなら自室で寝ろと声をかけたが返答はない。ベッド周りには何を置いていただろうか。適当な雑誌と目覚まし時計、それから風神と雷神が勝手に置いたフォトフレーム。それを見られているのかもしれないと思うと気恥ずかしくなってくる。やめさせようと思い振り向いた。そうしたらスコールはフォトフレームではなく俺を見ていた。その手もとには記憶にないものが転がっている。いや、思い出した。きっとジャンクションのしすぎで忘れていたんだ。そのまま忘れていたかったが、思い出してしまった。

「サイファー…」
「俺のじゃねえよ」

スコールはそれと俺とを交互に見ている。違う。俺のじゃない。

「それはやめちまった奴の部屋片付けてたらでてきたってんで騒いでる奴らがいたんだよ」

スコールがベッドの下から引っ張り出してきたのはそこに置いた俺ですら忘れていた、エロ本とアダルトグッズだった。思春期まっただ中のガキどもにはとても実用的で、しかし年少クラスだって存在するこのガーデンでそんなものが出回ることは著しい風紀の乱れを呼ぶだろう。そう判断した、当時風紀委員長だったこの俺が回収したものだった。決して俺の趣味でそれをベッド下に保管していたわけなじゃない。しかもその趣向が特殊だった。本はSM嬢特集だし道具の方は様々で男性器を模したものやたぶん手錠なんかもあったはずだ。

「そのまま廃棄したらよかっただろ…」
「そうしたいのは山々だったが先公にも女どもにも見つかりたくなかったんだよ」

こんなもので騒いでいた男どものためにも。俺のためにも。いつか捨てる機会があるだろうと仕舞ってしまったのがまずかった。まさか今になってスコールに見つかるとはあの時の俺は考えもしなかっただろう。見つけてしまったのなら捨て時なんだろうと思いそれを伝えようとしたところでスコールが何か言いたそうな顔をしていることに気が付いた。

「あんた、拷問の時といい、こういうの好きなのか」
「……は?」

最低だな。スコールはそう呟く。まさかこの男は俺の説明を聞いていなかったのだろうか。俺はこれが俺の趣味趣向でこの部屋にあるのではないことを説明したはずだ。だがスコールは俺のことを最低と言う。しかも以前こいつにした拷問の話題を出して、だ。あれは敵から情報を引き出すために行ったもので決して性的な意味はない。つーか好きな奴相手にあんなことしたいと思わない。俺の性癖はまともだ。

「仕事に戻る」
「おいスコール、」
「頼むからガーデン内で発情するなよ」
「てめえ少しは人の話聞けよ!」

部屋から出て行こうとするスコールを壁際に追い詰める。逃げないように腕と壁とで囲ってしまう。こんな勘違いをされたまま帰すわけにはいかなかった。

「……」
「……」

お互い何も言わずに睨み合っていた。追い詰めたはいいがどう伝えようか悩む。とにかく誤解を解くためにと口を開いた。そこでスコールの腕が動いた。意図を考えるよりも前に体が動く。しかしその腕は俺の腹でも顔面でもなく首へとまわりとたんにスコールの顔が近づいた。おい、と声を発したはずだがたぶんその音はのまれ、そして俺とスコールはキスをしていた。噛みつくようなそれに理解が追い付かない。すぐに舌が絡み合って逃げる隙など無かった。至近距離でスコールの顔を拝み、誘われるままに快楽を与えあったところで思い至る。この男は相当に欲求不満らしい。

「ん…、あ…」
「……はぁ…、」

互いに声が漏れだしたところで、ちらりと周囲に視線をやった。そういえば換気のためにとドアを開けていた。

「スコ―、ル。ドア」

唇を離してそう伝えるもスコールはまた近づいてきてそのまま口を塞がれた。最低なのはどっちだ。

「…、はっ、いい加減にしろ」

今度は思い切り引きはがし、そのままその体をベッドの方へと放り投げた。抗議の声は聞こえない。聞こえたところで対応する気は無かった。まずはドアを閉める。まわりに人影は無いように思えた。それから鍵をかける。振り向くとスコールはベッドの上でショックを受けたような顔をしていた。ショックを受けてるのはこっちの方だ。このままこの男を部屋の外へと放りだしてしまえればよかったんだ。だがそうもいかなかった。俺もスコールも、どちらも欲望には忠実でいたいらしい。

「とりあえず、鍵くらいかけさせろよ、司令官」



思い出せば思い出すほど理不尽だ。最中、スコールはずっと俺のせいだと言う。絶対にお前のせいだろうが。スコールの額の傷にかかる髪をすくう。その傷をなぞってやればスコールは心底気持ちよさそうに背中を浮かせた。ずくり、と下半身が反応する自分に嫌気はさすもののそれ以上に欲望が後押しする。

「あ゛、んんっ、」

女の声じゃないその喘ぎ声に興奮する。自分よりかは薄いが引き締まった腹筋に舌を這わす。汗でしっとりとしたその肌の味を堪能する。挿入した自身が張りつめ、それに合わせてスコールがうめいた。征服感が増していく。

「はあ、ん、んぁっ」
「さっさとイっちまえ…っ」
「い、やだ…!あ!?おい、あぁああ!」

快楽に身をまかせながら駄々をこねるスコールのそれを、出し入れするのと一緒にしごいてやる。前への刺激にスコールが身を強張らせた。押し寄せる快感を殺せずに目には涙を浮かべているのを見る。ああ、なんていうか、本当に残念なことだが俺はコイツに興奮している。たまらなくなって喘ぐスコールにキスをした。そんな風に、俺たちのセックスは終わりを迎えた。



全部終わってから考えた。このことがリノアにバレたら、きっと俺が怒られるんだろう。隣でぐっすり眠っている男を見て俺は頭を抱えたくなった。体がベタベタする。風呂に入りたいが現実を見るのも嫌で眠ることにした。リノア、泣くかな。この魔女の騎士には、あいつを泣かせるようなことをするなと文句を言いたい。

もっとも、俺が言えたことではないのだろうけれど。

20140505
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