飛んできた氷の塊を避ける為に大地を蹴って空を舞う。その軌道は魔法の撃ちだされたその場所に向かっていて、ちょうど彼の背後に着地できるようにと調整している。彼を飛び越え真っ逆さまに落ちるようにして彼に近づく。彼の背中が見えたくらいに、剣を握る力を強め彼を切りつけるために地上すれすれで体をひねり彼のその身長にしては細い腰と平行になるよう剣を振るった。けれどその剣は彼を吹き飛ばすことはなく空振りに終わる。そのまま受け身を取って体を起こすと彼は俺の頭上へと回避していて、そこから彼は俺に向かって踵落としを決めようとする。咄嗟に横へと飛びギリギリのところでそれを避けると俺の代わりに技をくらった地面が抉れていた。あんなものをもろにくらったら腰が砕けてしまうかもしれない。ぞっとした。そんなことを考えたその一瞬が命取りだった。彼は体勢を整えることなく俺に向かって跳躍し、銃と剣とが一体化したその武器のトリガーに指をかける。まずい、と思った時には手遅れで俺の周りの空間には微かだけど確実に火薬が飛散している。そう、彼お得意の技の、あれだ。俺は覚悟を決め最後の賭けにでた。自分の持っていた剣を捨て、こちらに向かって剣を構える彼に向って突進する。その行動に驚いた彼は一瞬トリガーを引くのを躊躇した。その隙に飛び出した勢いを殺さずに彼の腹に抱きつく。俺はそのまま彼を押し倒すように力の向きを調整する。これくらいの攻撃では戦闘を止めてくれない彼はその状態でトリガーを引いた。瞬間、宙を舞っていた火薬が爆発し背中が少し焦げたような気がした。フェイティッドサークル。致命的、だなんて本当に彼らしい。こんなものまともにくらったら大火傷が俺を待っていたことだろう。

「くっ…」

爆発を逃れたことに安堵していたらまだ彼の戦意は失われていなかったようで俺が下敷きにした彼が彼の武器、ガンブレードを俺へと向けようとした。その腕を地面に縫い付けて彼の手を蹴り、ガンブレードを遠くへ飛ばす。これでようやく俺自身の安全が保障された。組敷いた彼が噛みついたりしてこない限り、たぶん。

「はぁ…はぁ…スコール、今本気で技しかけただろ…」
「…はっ……はぁ、まだ、終わって…ない」

スコールの発言に俺は今日何度目かもわからない大きな溜め息を吐いた。そして腰をスコールの腹の上に降ろす。疲れた。誰だよスコールをこんな風にした奴。

「…ったく、なんで相手が俺なんすか?戦いたいならクラウドあたりが良いっスよ」

俺の下で未だに瞳をギラつかせる獰猛な獅子を見てそう言ってやった。本当は戦闘が始まる前に言うつもりだったのだけれどスコールは話を聞かなかった。秩序の聖域、時間は夜。星空が奇麗な静かな夜に、俺はベースから少し離れて戦闘で酷使した体のクールダウンをしていた。そこにスコールがふらりとやってきて、俺を見つけるなり勝負をしろ、なんて言い出してガンブレードを突き付けてきた。意味がわからなかったけれどスコール相手に、というかこの世界に召喚された戦士相手に力なんて抜いたらすぐに地面とキスをすることになる。だから仕方なく戦った。そうしたらどうだ、スコールの奴全力で俺を殺そうとしてきた。

「……ティーダが、一番近くにいたから、だ」
「はぁ…」

お互い息を切らしながら会話を続ける。スコールの上からはどかない。いつまた戦闘を再開されてしまうのか怖いから。でもなんでスコールがこんなことになっているんだろう。模擬戦なら皆よくする。だけどスコールは俺のことを戦士として見ていないのかいつも消極的で、いつもはクラウドと剣を交えていた。スコールは傭兵で、クラウドは兵士だったらしいから共通する何かでもあるんだろうと思っていた。だから今日スコールと戦って驚いた。本当に殺されかけた。まだ、心臓がばくばくと煩い。

「いつもクラウドとこんな風に戦ってんのかよ」
「ああ…」

信じられない。これが戦場を生きる場所とする人間の鍛錬なんだろうか。スコールは動かない。俺も動けない。動けないから、俺はスコールをまじまじと見た。息が上がっていて頬が少し赤い。その瞳はどこか焦点が合っていなくてもしかしなくても正気じゃあないのかもしれない。心臓が動いている。その鼓動に合わせてどくんどくんと脈打つ何かがあった。嘘だろ。

「もしかしてスコール…勃ってる?」

これはあれだ。たぶんジタンだかが言ってた、スコールはバトル野郎だっていうのと関係があるんだろう。だってスコールはすごく俺と戦いたそうな眼をしている。怖いけど惹きつけられた。

「今日の俺は…おかしいんだ」

スコールは右手で顔を覆いそう呟いた。おかしい、と言われればおかしい。もう一度注意深くスコールの様子を伺ってみると少しだけど、酒の匂いがした。

「……酒、弱いんすね」
「知らない…、だけど飲む前からバトルはしたかったはずだ」

はぁ、とまた溜め息を吐いてしまった。きっとスコールは酔わなかったらクラウドか誰か、本気で戦ってくれる誰かの元までたどり着いて俺の知らないところでこうやって戦っていたのだろう。そうしたら他の誰かにこんな姿を見せたんだろうか。酔っているから身体が素直に反応してこうなったのか、素面でもこうなるのかはわからない。だけど、もしこれがいつものことなのだとしたらなんて暴力的な色気なんだろう。手のひらで覆われた顔からちらりとその凶暴な瞳が見えた。奇麗だと思った。そうしたら身体の中心に熱が集まるのが分かって絶望した。抗えないそれにさっきとは違う意味で心臓が痛い。

「ティーダ、もう一度だ」
「は?」
「戦ってないと、生きてる心地がしない」

乱れた息が整ったところでスコールが俺の下から起き上がろうとした。もう一度、俺とバトルしろとスコールは言った。冗談じゃない。俺は戦闘なんかじゃ発散できない。

「スコール、今日はもう嫌っス」
「ちっ…、じゃあ他の奴に」
「だから、違う方法で生きてる心地を味わってくれよ」

スコールが怪訝な顔をした。俺はそれを無視して口を塞ぐ。もちろん、方法はあれしかない。
(ねえ、愛することでその命を感じてよ)

20120314
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