無口な配達員から届けられたその手紙には、「放課後、もしお仕事がないようでしたらあの日の場所で待っています」とだけ書かれていた。それを見た後輩はラブレターッス!とその場で叫び、俺は頭の中が真っ白になって動けなかった。


どうしてこうなったんだろう。放課後、子供たちが戯れている公園に一人で立っている。どうにも落ち着かなくてそわそわしてしまう。腹の前に持ってきた両手をせわしなく動かしたり、気づいたら同じ場所をぐるぐると動き回ったりしている。春先なのに喉はカラカラで背中はじっとりと汗ばんでしまっている。緊張のしすぎだと自分でもわかってはいるけれど止まりそうにない。とりあえず制服の上着は脱いでみた。とにかく落ち着こうと、近くにあったベンチに腰かける。一度目を瞑って、深呼吸する。心臓の音が少し落ち着いてきたころ、ようやく目を開けた。

「わ!」
「はっ!?え、うわぁ!」

瞼を持ち上げると大きな声とともに変な顔をした後輩が現れた。それも鼻がくっつきそうな程の距離だったのでせっかく元通りになった心拍数が跳ね上がってしまった。

「ティ、ティーダ、なんで」
「あはは!フリオってば緊張しすぎだって!」

どうもティーダは俺の様子をうかがっていたらしい。あっちのほうから見てたんだ、と言うティーダの指差す方を見るとしゃがんで隠れるにはちょうど良さそうな低木が連なっている。そこには先程の配達員、クラウドの姿もあって、自然とため息が出てしまった。

「お前らなあ…」
「だってフリオニールだけじゃ心配でさ」

ティーダはへらへらと笑ってそう言った。俺自身も不安なんだがこうも茶化されると、いったい何のためにここに来たのか忘れてしまいそうだ。

「それで、なんでフリオは呼び出されたんだ?」

それも誰に、とティーダは続ける。

「それには俺も興味あるな」

音もなく近づいてきたクラウドがいきなり話に参加してきた。二人とも、さっさと話せと詰め寄ってくる。

「ああ…それはたぶん、」



週三日ほど、俺はアルバイトをしている。花屋で花を売るバイトだ。給料の大半は生活費に回ってしまう。だけど好きで始めた仕事だったから苦だとは感じていない。その日も俺は花の手入れをして、やってきた客に花を包み、何事もなく業務は終わった。業務中着けていたエプロンを外して店を出る。店の閉めを手伝っていたから少し遅くなってしまった。自分で包んだ赤いバラを二本持って帰る。生花を扱っているから、売れ残った花はやがて萎れてしまう。そうなりそうな花を買い取ってしまうのが、いつの間にか癖になっていた。夕飯は何を作ろうかと考えながら通り道の公園を歩いていた時、もう少し進んだ先で誰かが囲まれているのが見えた。近づいてみると女性が数人の男に囲まれていた。何か言い争っているようなことも聞こえてきたので俺は走って近づき、そしてそのまま男たちを殴り倒してしまった。

「あの…」
「あ、いや、無理強いをされているのかと思って…その、」

危ない、と思ってこちらが先に襲いかかってしまったから勘違いだったら大問題だったのだろうけれど、それは大丈夫そうだった。

「ありがとう」
「あ、ああ、無事でよかった…」

そばで見るととても綺麗な人だった。実のところ俺はあまり女性と話したことがなかったし、むしろ苦手な方だった。学校が男子校だというのもそれに拍車をかけている気がする。

「いつもはこの道を通らないのだけど、今日は急いでいて…」
「そうだったのか…」

彼女はおっとりとした口調で、ちょっと怖かったということを話してくれた。どこからどう見てもお嬢様だったと思う。彼女は急いでいると言っていたし、俺もスーパーのタイムセールに間に合いたかったのもあってそれじゃあと別れることにした。そこで俺は自分の手に握られたバラの花を思い出して、自分が持っているよりはと彼女に渡すことにした。彼女はそれを受け取ってくれたし綺麗な花が綺麗な人の手にあるのは良いことだと思った。そうして俺たちは帰路に着いたんだ。



「それで呼び出しって、脈ありじゃん!」
「…やっぱりそう思うか?」
「フリオニールにも春か」

ティーダとクラウドに話したところ、二人とも俺と同じ感想を抱いてた。やっぱり、これはそういうことなのだろうか。バラを渡したあの時はそんなこと考えもしていなかった。別に俺はそんなつもりで渡したんじゃないのだけど、と言ったら相手はそう受け取ったんだとクラウドが言う。しっかりと意識したら途端に顔が火照ってきてまるで茹でダコみたいだとティーダに笑われた。

「あ、彼女だ」
「どこッスか!」

ふわふわの薄いブロンドの髪を高い位置で結っていて、紺色のセーラー服にワインレッドのスカーフを巻いる彼女だと、俺は説明した。ティーダは口笛を吹いてクラウドは確かに彼女から手紙を預かったと頷いた。

「あの、先日はありがとうございました」
「あ、あんなこと気にしなくていいの、に」

緊張して上手く話せない。どういう言葉を返したらいいんだろう。こういった経験を今までしてこなかった俺はただただ舞い上がるしかない。彼女は小さく微笑んで、それからこう言った。

「先日のお返事をしに来たんです」
「……ん?」

彼女はとても悲しそうな顔をして俺を見つめている。一体何が起ころうとしているのかわからなかった。

「私、あなたとお付き合いすることはできないわ」
「え」
「愛ってまだよくわからなくて、ごめんなさい」

彼女は深々と頭を下げている。そう、俺に向かってだ。それからどれくらいの時間かわからないが、結構な時間俺は立ちつくしていたんだと思う。



「つーことは、フリオが君に告ったってこと?」
「えっと、友達に聞いたらきっとそうだって」

気付いたら公園のベンチに座らされていて、隣ではティーダと彼女が何やら話していた。

「それで?フリオニールは告白したのか?」
「こ、告白!?そんなことするはずないだろ!」

違うらしいとクラウドが彼女とティーダに告げた。

「じゃあ二人とも勘違いだったってこと?」
「二人とも?」

ティーダが俺が彼女からの告白を受けにここに来たことを言いそうになったので全力で口を塞いでやった。あまりにも力が強すぎたらしくとても怒られたが、それ以上に恥ずかしくてこっちが死にそうだった。

「あのバラには、そう言った意味は無いんだ…」
「そうだったの…私の方こそ誤解してごめんなさい」

こちらこそすまない、と告げてやっと彼女の顔を見ることが出来た。こうして勘違いから始まって勘違いに終わった俺の、一世一代の恋愛イベントは終わりを告げる。
彼女とは今度植物園に行く約束をした。

20120301
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