「次に好きになるなら、いなくならない奴がいい」
俺はスコールの深いところを知らない。好きな動物は獅子。好きな色は、たぶん黒。好きな食べ物は知らない。好きな人なんて、俺は知らない。
「ティーダは?」
「…保留だ」
「ひっでー。じゃあクラウドもダメだな」
「ああ。クラウドは俺なんて置いて消えるだろ」
あの二人がどれだけスコールに入れ込んでいるのかを知っている俺は笑ってしまうのを抑えられなかった。スコールが不思議がっているから笑うのをやめないといけない。だけどそう思えば思うほど何かが可笑しくて笑ってしまう。
「何が可笑しいんだ、バッツ」
スコールがむくれ面になってしまった。どうにか笑うのをやめてスコールから視線をそらした。今日はスコールを部屋に呼んだ。クラウドの部屋よりちょっとだけ狭いこの部屋には、実のところ未だに二人しか呼んだことがない。いつもならもう一人、小さいのがいるけれど生憎今日は都合が悪かったらしい。俺とスコールは結構長い付き合いだ。クラウドやティーダよりも少しだけ長い。家が近所だったから、もう一人と合わせて仲良く過ごしていた。
「好きになるなら性別は関係ないのか?」
「……わからない」
第一、どういう定義で好きになるのかもわからない。スコールはそう言った。俺はスコールのことをあんまりわかってやれていないけれどスコールの心の中に大きな壁があることには気付いている。その壁は大切な人とそうじゃない奴とをわける分厚くて頑丈な壁だ。
「別に、誰だっていいのかもしれない。置いていってほしくないだけで、そうしてくれるなら誰だって構わない気がする」
「それは…」
それはどうだろう。スコールはそんなことを言っておきながら理想が高いから、無理な気がする。ところで、今日のスコールはよくしゃべるなと思った。今日は泊まりで今は布団の中だけれど修学旅行みたいな雰囲気でもない。俺は酒を飲んだけれどスコールは飲んでいない。不思議だ。
「スコールがたくさん話すの、めずらしいな」
そう言ったらスコールは黙ってしまった。失敗したかもしれない。でもまあいいや。今更スコールは俺を嫌わないし俺もスコールを嫌いになんてなれない。それだけ長い時間を過ごしてお互いを少しずつだけど受け入れてきたんだ。その頃から置いていかれたくないって体中で訴えていた気がする。理由は聞いたことがない。スコールがいつか自分から話すだろうと思っているから。布団の中でもぞもぞと手足を動かしてみる。暗い部屋でスコールが動くのもわかった。
「ティーダもクラウドも勝手だ。とか思ってる?」
スコールは何も言わない。たぶん肯定ってことだろう。
「置いてくなって叫んでるのに死のうとするもんな」
小さく布団の動く音がした。つつかれたくない所をわざと攻撃する。
「じゃあ俺にしとけよ、スコール」
今度こそスコールが動いた。布団をめくって上半身を起こしたスコールと目が合った。目を見開いて動かないでいるスコールを俺も見つめる。視線をそらせたり合わせたり何度か繰り返して、ようやくスコールは口を開いた。
「……バッツも嫌だ。あんたは風のような奴だから、いつ消えてしまうのか不安になる。明日起きたらもういないかもしれない。そんな恐怖に耐えられるのかわからない」
「…わがままなスコールだな」
スコールは悪かったなと呟いて布団に包まった。本当にスコールはわがままだ。スコールの心の中には分厚くて頑丈な壁がある。大切な人とそうじゃない奴を隔てる境界線だ。きっと俺もティーダもクラウドもその壁の中にはいるんだろう。だけどスコールは一度壁を超えたらどこにも行かないで欲しいと願っている。心変わりなんてせずに死ぬまで、心を許したその人間がそばにいてくれないと困るんだ。俺は、俺には無理だなと目だけで笑って掛け布団を顔まで引き寄せた。
(失って初めて大切さを知るんだよ)
20121112