純粋に、死んでもいいかなって思った。そうしたら色んな事が終わるんだと思ったら、ここで死んでしまうことが正解のような気がしてきた。こんな俺を異常だと、咎めてくれる正義感溢れる友達は、非常に残念なことだが、漫画の中でしか出会ったことがない。だけど友達がいないってわけじゃない。たぶんこんな俺でも許してくれるような良い奴らばっかりなのが問題なんだ。曲がったことが大嫌いな自分の信念貫き通してるようなあの人も俺がこんなだって知ったら、それも君だろうなんて優しく撫でてくれる。一個上の熱いあいつは泣いて止めるに違いない。だけど俺のことを嫌わないでいてくれる。最近仲良くなったちびっこはどうスかね。あいつは鼻で笑って、それから手を繋いでくれそうだ。ああ、一番怒りそうなのは彼だけど、彼は最後には何でも許してくれる人だ。年上なのに俺よりも馬鹿やってるあの男なら、足のすくんだ俺の背中を押してくれる。泥をかぶるのが一番上手いから、絶対にやらせたくないけれど。そこまで考えて一呼吸ついた。俺の周りは良い奴ばっかりだ。目の前に広がる景色を眺めてみる。雲ひとつない空と力強く世界を照らす太陽。それからそこいらじゅうに広がっている誰かさんたちの家。ううん、校舎の屋上ってなんでこんなにも死にたくなるんだろう。別に、俺は何も不自由してない。学校にも通ってるし、小さい頃から続けてきたスポーツではついにプロデビューを控えている。まあひとつ心当たりがあるとしたら長らく行方をくらませていた親父様がどこかで生きているかもしれない、という情報を得たことだろうか。俺にとっては衝撃だったんだ。だって俺のこと置いていって、母さんは連れて行ってしまったあの男が俺の知らないところでよろしくやってるかもしれないんだ。いや、別にそれはいいんだ。生きててうれしかったよ。この間電話もかかってきた。それで、大人なのに俺よりも拗ねた調子で一緒に暮らそうと言ってくれたこともまあいいさ。さて、良い感じに飛び降りたくなってきたわけだけれど、こんな俺のことを心配こそすれ軽蔑しないでいてくれる友達はまだいる。俺の隣にちょこんと座って理由も聞かずに一緒にいてくれるような女の子もいる。彼女は皆の宝物を集めたような愛おしさの結晶だ。俺の、この感情を一番わかってくれそうな年上もいる。彼は俺よりも死にたそうだもんな。でも彼は友達が死ぬところなんて見たくないだろうから必死になって止めてくれるんだろうな。さっきまで世の中なんてどうでもいいって顔してたのに顔面蒼白で俺の手を掴んで離さない。ともすれば彼の方が死んでしまいそうな顔をしながら、なんて、そんなことを考えたらあの年上が可愛く見えてきた。あとは、そうだ。一つ下にとんでもない男前がいるんだよ。俺は女じゃないから扱いはぞんざいだろうけど、もうすでに俺が空中に放りだされていたとしても飛び出してきてくれそうな小さな英雄を俺は知っている。なんて素晴らしい人たちだろう!俺はフェンスを乗り越えて細い足場に足を降ろした。フェンスに寄り掛かって、準備万端。あとは一歩踏み出すだけで俺は途方もない達成感に包まれるだろう。心の中で皆への挨拶も済ませた。

そこで不意に扉の開く音が聞こえた。台本通りとはまさにこのこと。

そうそうあと一人、俺には友達がいまして、その、彼のことを意図的に忘れようとしていたのは今の俺にとって非常に都合が悪いから、なんですが。

「俺、死ぬから」
「そうか」
「いつもみたいに止めたって無駄ッス」
「止めた覚えはない」

その通りです。彼は死にそうな俺を見ても何もしない。心配してくれない。

「俺って異常かな」
「じゃなかったら他の人間が異常だろ」

俺のこと異常だって言うし、他の友達とは違うんだ。片足を空中に放ってみる。風に押されて危ない。下手したらこのまま落ちて死んでしまいそうだ。いや、それが目的だったんだけど。ほら、俺ってもともといなかったような気もするし。こないだは夢の中で、俺は存在自体夢で最後には好きな女に何も言えずに消えてしまうような奴だったし。

「なあ」
「俺は、」
「あ?」

気付いたら彼はとても近くに立っていた。驚いて体を揺らしてしまう。あっ、落ちそう。

「俺は、フリオニールみたいに泣くこともしないし、バッツみたいに背中を押してやることも出来ない」

俺の肩を掴んで彼は言った。フェンスを挟んで俺たちは空を見ている。不格好なタイタニックだと思った。

「じゃあ、何してくれんだよ」
「何も」
「何も?」
「無駄だからな」
「うん…」

何もしないなんて嘘だ。彼は心配も軽蔑もしない。だけどお前は、死ぬじゃないか。

「う、うう」
「どうした?死ぬんじゃないのか」
「スコールが死んじゃうから、やっぱりやめる!」

大きく叫んで体を反転させる。持ち前の運動神経でフェンスを軽々飛び越えて、スコールと同じ側へと戻った。スコールはそんな俺を見て手を差し伸べる。その手をとればこの劇はおしまい。最初はスコールだって気が動転して叫んでたりしたような気がする。だけど何をしたって無駄だったからどうしようもなくて、悲しくて、これしかないって思ったんだろう。俺は自分のことを夢のような存在であって欲しいと願うから、誰かを道連れになんて出来やしない。そういえば昔スコールが言っていたような気がする。

「今度目の前で誰かがいなくなるようなことがあれば俺は神を裏切ると決めている」
「そうそう、それ」

死んでもいい気がしている。世の中は平和だし俺には良いことばっかり起きるし。だけどそのせいでスコールが死んでしまうというのなら、俺は死ねないなあと思うしかなくて、今日も俺たちは生きている。
(めでたしめでたし)

20121017
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