ねえスコール。きっと、世界中の誰が思っているよりも私は私を許してないよ。

約束の場所がわからないの。どこにいったらいいかわからなくてずっと、ずっと走ってた。どうしても会いたくて今まで行った場所、全部回ったの。だけどどこに行ってもスコールには会えなくて、そのうち足が動かなくなって呼吸が上手く出来なくなって、だけど私どうしてもスコールに会いたかった。そんな夢を見たこと、スコールに言ったんだよね。そうしたらスコール、ちゃんと約束してくれた。ここで私を待ってるって言ってくれた。あの時ね、すごくうれしかったんだ。スコールはまだ覚えてるかな。戦うことの代償に記憶を失ってしまうあなたたちだから、もう忘れちゃってるかもしれないね。

「忘れてない。まだ覚えてる」
「本当?」
「絶対、忘れない。一生忘れない」

小さな花畑。約束を交わしたその場所に座ってスコールのための指輪を作る。スコールの指輪は私が貰ってしまったから、その代わりに私がスコールの指輪を作ってる。向かい合わせで座っているスコールはなんだかソワソワしていてかわいい。時々そばに咲いている花に触れては手折ることはしないで手をひっこめている。

「リノアは器用だな」
「小さい頃ママが作ってくれたの。どんなに素敵なドレスよりも、髪飾りよりも花で紡がれた指輪がうれしかった。だから私も作れるようになりたくて、練習したの」

結局子供の頃は上手く作れなくて両親に渡すことは出来なかったけれど。そう話したらスコールが頭をそっと撫でてくれた。人と戦う、大きな手。だけどその戦いの中にはスコールの、戦っている皆の苦しみとか悩みとかがぐちゃぐちゃになって存在しているのを知っている。だから怖くない。それにこの手は私を守ってくれる手だから、尚更。

「はい、出来た!」

シロツメクサで作った花の指輪を、スコールの左手の薬指に慎重に通す。ゆっくり丁寧に、まだその時じゃないけれど、予習のつもりで。

「リノア」
「うん?」
「ありがとう」
「どういたしまして」

スコールが隣にいてくれて幸せ。きっとスコールもそう思ってくれてるよね。ずっとこんな時が続けばいいって、いつも思ってるよ。だけどそれが叶わないっていうこともわかってるよ。


「ねえスコール。どうして私は魔女なんだろう」

そんな、そんな今更どうしようもないことを言葉にしてしまった。スコールの顔は見る見るうちに悲しそうになって申し訳なくなる。スコールは魔女だってかまわないって言ってくれた。それを信じてない訳じゃないよ。あなたは魔女の騎士。私を支えてくれる人。

「人だった頃と、この目に映る世界は何も変わらない。だけど私を見ている世界の目が変わってしまった。怖い、嫌いって伝わってくる」

未来の恐ろしい魔女はもういない。だけど今度は私がその魔女になるのかもしれない。皆そう考えている。私も考えてしまう。だってスコールがいなくなったら私は世界に独りぼっちなんだよ。魔女は魔女の騎士がいないと寂しくて世界を恨んでしまう。憎んでしまうよ。だって世界はどうしたって魔女を嫌うから。私も同じ人だったのにそんなこと関係ないから。かつてこの力の根源であるハインは人間から、世界から逃げるために魔女になったと言われている。きっとハインも怖かったんだ。支えてくれる人のいない、理解してくれる人のいない世界なんて、怖くて、逃げ出してしまいたくなるよね。

「私、スコールよりも先にいなくなりたい」
「リノア!」

スコールが声を荒げた。ごめんね。そんなこと言ったらスコールを悲しませちゃうよね。だけどやっぱり私には耐えられないよ。スコールの大きくて優しい手と自分の手を重ねて指を絡ませる。両手とも繋いでおでこを合わせてスコールの瞳を覗いた。灰青の綺麗な瞳。繋がったところからスコールの体温を感じる。さっき贈った花の指輪がチクチクあたってこそばゆい。ごめんね、スコール。私ははっきりと自分に言い聞かせるために口を開いた。

「私はスコールより先に死ぬの。私が誰かを不幸にする瞬間をあなたは見ていてね」

自然と優しい声が出てきた。目を瞑る。繋いだ両手に力を込めた。魔女は、その身に受け継いだ魔女の力を継承しないと死ぬことが出来ない。この恐ろしい力を誰かに渡す時が絶対に来る。それはその誰かを不幸にするということ。私は死ぬ時でさえ世界を巻き込む。生きていても死んでも恐れられ、嫌われる。だからスコール。どうか私の罪を見ていてほしいの。繋がっていた体を離してスコールを見る。スコールは泣いていた。静かに、だけどボロボロと涙が零れている。

「ごめんね」

頬を伝う涙を手で拭った。スコールはその手をた掴んで離さない。スコールが悲しむのを知っていても、そう願わずにはいられない。だって私はスコールのいた世界を嫌いになりたくない。私に優しくしてくれた皆を嫌いになりたくない。嫌われたくない。そしてもしまだ望んでいいというのなら。

(愛して、ほしいよ)

20120823
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