俺のいた世界には二つの世界があってさ。二つって言っても行き来とか、あんまり出来なくて。一つはスピラっていう世界。朝は登る太陽で海が輝いて、早起きして泳ぐと最高。昼はその太陽に照らされて気持ち良くて、夜は幻光虫が舞ってすっげー綺麗なんだ。だけど皆本気で笑うことのできない、世界。あんなにきれいな世界なのに悲しみに支配されてるんだ。もう一つは眠らない街ザナルカンド。こっちは俺の生まれた世界で、いや、うん、まあいいや。それでさ、どっちの世界にもブリッツボールっていうスポーツがあって俺、その選手。しかもエース。いつも言ってるけどブリッツボールだったら誰にも負けない自信あるんだ。スフィアプールっていう水の中でブリッツボールを奪い合ってそれを相手ゴールに叩きこむんだ。上手くパス回してゴールを目指すんだけどこれがまた大変で、相手だって黙って見てるわけないからボール持って泳いでるときに立ちはだかれたら殴り合いっス!タックルもされるしそれを押しのけるために蹴ったり殴ったり。ブリッツボールはそういので盛り上がるんだ。でもやっぱりシュートした時が一番歓声がでかい。スフィアプールを飛び出して高く高く跳んで打ったシュートが決まった時なんて本当にすごいんだ。地鳴りみたいな声が聞こえて、ああ俺はここにいるんだって感じられる。心が騒ぐんだ。ザナルカンドエイブスでエースやってた頃もビサイドオーラカで皆と優勝目指してた頃もどうしようもないくらい興奮して、気持ち良かった。たぶん、認められるのがうれしかったんだと思う。親父もやってたんだ、ブリッツボール。むかつくことに伝説みたいに扱われてて俺はその息子ってやつで。いつか越えてやるって思ったけどその頃には親父はもうどこにもいなくて、越えるための努力も何もかも意味なくて。そんなことないのかもしれないけど昔はどっかでそう考えてた。親父の名前がついたシュートとかもあったんだ。ジェクト様シュート3号とかダッセー名前のやつ!しかも3号なのは1号と2号の存在を期待させて試合を盛り上げるため、とかふざけてるよな。ほんとに、そんなこと言って笑ってる親父が嫌いだった。そんな全部を捨てて消えた親父が嫌いだった。俺、出来なかったんだ、そのシュート。スピラに行ってやっと出来たけど、だけど。

「こんな話してもつまんないよな」

一気にしゃべったから少し息が上がってしまった。話してる間スコールは何も言わなかった。途中で説明がめんどくさくなって言葉とか、わかんなかっただろうし。ごめん、と呟いて落ち着こうと思ったらスコールは瞳をそらしてくれなくて、苦しい。思い出話は思ったよりも苦しかった。楽しかったこと辛かったことなんでもかんでも浮かんできた。そうだな、あの時はもっと苦しかったっけ。スコールは何も言わないでくれた。だからこんな自己満足なことが出来た。だからダメだ。感想とかいらない。同情してほしいわけじゃない。楽しいことだけ話すつもりだったのに。何も言わないでくれ。スコールが俺の名を呼んだ。凛とした強い声だった。聞くなら落ち着け、とかそういう言葉がいい。そうしたら俺はスコールちゃんと聞いてたかって笑って言ってこんな話無かったことに出来るんだ。

「ちゃんと聞いてる」

ぐしゃりと顔が歪むのがわかって、急いで目の前に広がる海へと歩を進める。この世界の海は俺の見てきたどの海とも違う。あの太陽の海とも眠らない海とも違う。泳ぐのは好きだ。水に溶けて自分と世界との境が無くなる感覚が好きだ。チャプ、と音を鳴らして足を浸した。そのまま走りだして、泳ぎだす。水の中は好きだ。泣きそうな俺を優しく抱いてくれるから。泣いたって涙は溶けて消えてくれるから。
(聞いてくれてありがとう)

20120619
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