ガラス細工みたいで綺麗だと思った。キラキラと光を乱反射させていて目が離せなかった。だけど人の形をしたそれをガラス細工と言うには無理がある。ガラスの体に淀んだエネルギーを内包していたし、何よりそれは意思を持って動いていた。その無機質な生命体はこの世界に召喚された俺たちを基に造られているらしく、姿形はこの世界にいる戦士の誰かのものだし繰り出してくる技も威力は違えどその戦士のものだ。そう、それはただのガラス細工じゃなくて生きていて、しかも俺たちの敵だ。最初襲われた時は本当にびっくりした。だってまず動くなんて思わないじゃんか。この世界にいる誰かの姿をした偽物。俺たちはそれを壊していく。そこには何の憐れみも存在しない。

相手の体に剣が食い込むことはない。肉を斬る感触もないし飛び散る体液もない。致命的な攻撃を与えれば粉々に砕けるその体は本当に、ただの人工物だ。夢の終わりのあの場所にいる幻光虫とは違う、ただ光を反射しているだけの輝きが奇麗だった。剣を構える眼前のイミテーションはもう虫の息だ。まあ息をしているのかは怪しかったけど、ひび割れた声は出すんだよな。それも、基にした戦士に似たやつ。このイミテーションは太めの剣を持って姿勢を低くして、今にも飛びかかってきそうだ。どう見たって俺の偽物だった。地面を蹴って距離を縮める。相手が偽物の俺の剣を投げてきたからそれを避けて斬りかかる。またガラスが宙を舞った。こんな浅い攻撃じゃダメだ。胴体を真っ二つにするくらいの勢いでいかないとこの偽物は止まってくれない。イミテーションがよろけた隙をついて突進。足を掬って体が浮いたところを思いきり上方に突き上げて、最後に空中から渾身の力を込めてシュート。本当はこういうの、水中でやるんだけどな。バラバラになった記憶を辿って浮かんでくるのは大きな歓声と、シュートを決めるシーン。俺はブリッツボールの選手で、ザナルカンドエイブスのエース。着地して敵の行方を見れば、見事地面に叩きつけられたイミテーションは粉々のガラクタになっていた。

「ふう…そろそろ皆と合流しないと叱られるっつの」

一息ついて辺りを見回した。これで最後だと助かるけど、なんて淡い期待をしたけれどそうはいかなかった。またもう一体、偽物が現れた。小さな歩幅でこちらに近づいてくる。その体は小さいけれど、その中にある彼女の強さを俺は良く知っている。頬に嫌な汗が伝った。ああもう、どうしてこんな時に出てきちゃうかな。

厄介なことになったと自分でも思う。皆とははぐれてしまったしおまけに敵に囲まれてしまった。五、六体のイミテーションが現れて攻撃された。こっちは一人なのに向こうは大勢だなんて本当に卑怯だ。そんな愚痴を吐きながらそれでも一体ずつ確実に倒していった。もう絶対に動かないよう粉々になったのを確認した。自分のイミテーションを倒したところで戦いが終わったと思った。だけど、終わらなくてもう一戦だ。
召喚された炎の化身が殴りかかってくる。その召喚獣はガラスみたいなのに近づけば熱い。イフリートを避けたら、次はシヴァが襲ってきた。距離を置いても良かったけどそうしたらヴァルファーレの餌食だ。知ってる、彼女はこの世界のとは違う召喚獣を使う。冷気の攻撃を体を捻ることで回避して、浅い一撃。彼女の体の表面を削るように薙いだ軌道上、彼女の破片が散っていて綺麗だ。少し現実が遠くなった。

「……、っう!」

竜のような凶悪なその体躯から繰り出される衝撃波を受け流せずにもろにくらった。投げ出された体は、だけど受け身をとって体勢を立て直し、彼女へと剣を向ける。ガラス細工のようなその体はどう見たって偽物なのに。破壊を躊躇する俺はいないはずなのに。それなのに息が詰まって苦しい。イミテーションは戦士を模した偽物。だけどもしかしたら俺たちをもっと動揺させる為に俺たちの記憶から作り出されたイミテーションがいるんじゃないかって考えたことがあった。それを仲間の何人かにそれとなく聞いてみたけれど、そんな経験はないって言う。気持ちが悪い。これ以上はダメだって心の奥で誰かが叫んでいる。
杖と剣がぶつかって甲高い悲鳴が響いた。心臓がうるさい。下から振り上げた剣に力を入れて杖を弾き飛ばす。喉はカラカラで、息を吸うと重い痛みが走る。返す軌道で彼女の体に刃を立てた。下瞼に力を入れて込み上げるものを押さえつける。ミシリと鳴ってひび割れてゆく彼女を剣に体重をかけて、両断。バラバラとイミテーションが崩れ落ちてガシャリと大きな音がした。

「う、うう…」

堪えていた涙が溢れて止まらない。鼻がツンとして痛い。手放した剣が足もとに転がっている。足に力が入らなくて立っていることが出来なかった。

「なんで、なんでユウナなんだよ……!」

握った拳を地面に叩きつけた。その拍子にイミテーションのかけらが跳ねた。あの子は戦士でもなんでもないのに。どうして。皆、仲間の偽物なんていないって言う。じゃあ目の前のこの子はなんだ。崩れ落ちたガラスはもう生きていない。さっきまで動いていたそれはもうただのイミテーションだった。ぐしゃぐしゃになった頭に記憶が映る。いつの記憶なのか何の記憶なのかわからないけれど、俺はあの子のそばで倒れている。知らないはずの何かが俺を責め立てる。俺、帰らなきゃ。帰ってあの子に謝らなきゃいけない。

遠いあの世界であの子は幸せになっている。俺のいない世界であの子は笑ってるはずなんだ。こんな所にいるはずない。そうだって、誰か肯定してくれよ。
(こんな救いのない世界に君はいない)

20120605
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -