昨日の夜は楽しかった。いや、別にいかがわしい遊びをしていたわけじゃないよ。俺だって、高校二年生になったら彼女が出来て四六時中構い倒して夜は遅くまで電話したりするんじゃないかって思ってた。だけど現実は部活中心の汗臭い青春で、部活休みの放課後にデートする相手は男二人という灰色っぷりだった。だから、昨日の夜も俺は女の子と楽しくしていたわけじゃなくて男三人で遊んでたんだ。これがまた楽しかった。

いつものように学校に行って授業を寝て過ごして、放課後。部活が休みだったからいつもの二人を誘って街に繰り出した。二人は高校で仲良くなった友達で、スコールとヴァン。一年生の時は三人とも同じクラスだったんだけど二年生になって俺だけ仲間外れになった。しかも俺だけ部活が急がしくて二人は一緒に帰っているなんてずるすぎる。それが悔しくて放課後の空く日は三人で何かするっていうのを決めた。一度仲間外れのことで俺が不機嫌になった時に二人がそう約束してくれたんだ。今思うと子供じみていて恥ずかしい話だけど、俺は二人との時間を作ってもらえてとてもうれしい。それで、昨日はなんだったかな。最初は服屋に行ったんだ。これが似合いそうとか、それはダサいとか、女の子たちみたいにウインドウショッピングをした。三人とも好みが違うからあまり参考にはならなかったけどそこそこに楽しかった。その後はシルバーアクセサリーの店に行ったんだ。スコールがショーケースを覗きこんでいる間(スコールはシルバーアクセサリーが好きで、放っておくとずっと眺めている。その店もスコールのお気に入りの店だった)、俺とヴァンはヴァンに似合いそうなものを探していた。俺やスコールはピアスだったりネックレスだったりをしているけどヴァンは飾りっ気が無い。欲しいものが見つかったら買うよと前に言っていたのを思い出して何個か候補を出してみたけれど、結局ヴァンの目に留まるものは無かった。そうこうしているうちにスコールがショーケースから離れてこちらに向かってきた。若干名残惜しそうだったのは見間違いじゃないはずだ。
店を回った後はジャンクフードで腹を満たして夜の公園へ。ヴァンと俺はブランコを漕いでどっちが遠くに跳べるかを競ったりした。スコールはそれを横で見ていた。砂場でトンネルも作ったしジャングルジムのてっぺんまで登ったりしたしとにかく遊んでみた。途中でヴァンが勝手にスコールの携帯をいじっているのがバレて(俺の携帯が被害にあわなくて本当によかった)スコールがヴァンを追いかけまわした。それを適当に観戦してたらヴァンがスコールの携帯を投げてよこすものだからすっげー怖い顔したスコールに追いかけられる羽目になったんだ。もう馬鹿みたいに走って逃げて、一番楽してたのはヴァンだった。疲れ切った俺は地面に倒れ込んで、スコールは座り込んでついでにヴァンも胡坐をかいて、三人で笑った。
そんでさ、そろそろ帰るかってなったんだけど二人ともひどいんだ!俺はさ、水中に生きる男だから陸上じゃダメなんだよ。その辺をわかってない二人は運動部の癖に情けないなんて言ってさ。その罪は重かったわけで、俺を置いて帰ろうとする二人を後ろから引きずり倒してやった。怒られたけど誰も本気で怒ってなかった。地面に大の字になって夜空を見上げて青春っスねーって言ってみた。言ったらなんだか込み上げてくるものがあって、俺はそれを隠すためにもう一度走ることになった。それが、昨日の夜の話。

「ふゎ…ねみー」
「ティーダ本当に眠そうだな」

昨日の夜は楽しかったけど、そのせいで寝不足だ。今日は朝練がなくて本当によかった。そのおかげでヴァンと一緒に登校できているわけだけど、気になることが一つあった。横を歩くヴァンを見る。うん、いつも通り何考えてるか分からない顔してる。そうじゃなくて、その隣。いつもはいるはずのスコールがいない。俺にもヴァンにも何も連絡は来ていない。

「もしかしてスコール、寝坊っスかね」
「昨日はしゃぎすぎて?そうだったら機嫌最悪だろうな」

そんなことを話しながら学校に向かった。登校時間は始業ギリギリ。クラスが違うから途中で別れて自分の教室へ。授業が始まる前にスコールにメールを打った。だけどそのメールに返事は来ないままだった。

昼休み、予想以上に機嫌の悪いスコールに会った。ヴァン曰くスコールは一限の途中で登校してきたらしい。スコールが遅刻なんてそうないことだから(時々ふて寝して学校を休んだり、仲の悪い上級生と喧嘩をしたとか、そういった特別なこと以外ではスコールは真面目だ)、先生も驚いていたとのこと。もっとも、遅刻したことよりもスコールの機嫌が悪いことの方が問題だったらしいけれど。

「で、なんであそこまで眉間にしわが寄ってんだよ」
「なんか昨日帰ってすぐ倒れるように寝ちゃったんだって」

スコールが座る席から少し離れたヴァンの席で昼ご飯を食べた。机に頭を乗せながらスコールの様子を観察してみる。昼休みが始まってすぐに話しかけに行ったけれど一睨みされて終わった。ヴァンからの情報をもとにスコールを見ているとどうやら放課後提出の課題をやっているらしかった。

「ヴァンはあの課題終わってんの?」
「いや、全然」
「やれよ…」

どう考えてもスコールは真面目だった。だけど案外諦めも早くてきっと昨日は疲れきって課題とかどうでもよくなっちゃったんだろうな。挙句の果てには寝坊して、切羽詰まってる。

「もう俺たちと遊んでくれなかったりして」
「それはないだろ。だってスコール俺たちのこと好きじゃん」

手に持っていたパックのジュースを落としそうになった。ヴァンって時々変なことを言う。間違ってないんだけど、だけどストレートすぎる。そのままジュースを飲みほしてパックを潰した。俺はスコールのこともヴァンのことも好きだよ。スコールだってヴァンだってそう思ってる。今スコールが機嫌悪いのだって自己管理が出来なかった自分自身に苛立ってるんだって、わかってるよ。確かに俺の高校生活は部活中心の汗臭い青春で、部活休みの放課後にデートする相手は男二人という灰色っぷりだけど、それが楽しいんだからしょうがない。今度の試合もきっと二人は見に来てくれる。それだけで、どうしようもない程幸せだと思える。

「あ、フリオニール」

ヴァンの言葉で顔を上げると一つ学年が上のフリオニールが教室に来ていた。どうやらスコールに用があるみたいでスコールの席へと近づいていく。フリオニールの元気で優しい声が聞こえた。

「スコールが課題をやってないなんて珍しいな。どうかしたのか?」

ああ、ダメだってフリオニール。機嫌の悪い獅子への生贄は何も知らずにきょとんとしている。俺たちは何も悪くはい彼に向かって合掌した。ちょっとしたら助けに行こう。そんでもってスコールを目一杯甘やかしてやろうと思った。
(どうか終わりのチャイムはまだ鳴らないで!)

20120526
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