お年玉 | ナノ

クチナシとイチャイチャする話


※単体の夢小説となっておりますので、名前変換は『デフォルト名前』をご使用ください。













キャプテンとは、しまキングに任命され、島めぐりにおける試練の案内役となる、12歳から20歳までの少年少女のことを指す。ぬしポケモンを鍛え、島めぐりをする子供たちを導き、しまキングからの信頼を得たキャプテンに憧れる者は多い。
しかしキャプテンは20歳になると、その役目を終えて次の者へキャプテンの座を託す。そして今まさに、その座を辞さんとするキャプテンが、此処ウラウラ島にいた。


「…なのに、わかってるんですか、しまキング!?」


「よう、ナナシ。ちょうどよかった、ニャースの餌やり手伝ってくれ」


「だ・か・ら〜〜〜!!! わたし、来月でキャプテンやめるんですよ!? しまキングがいつまでもそんなんじゃ困るんですってばーーーっ!!!」


翌月に20歳の誕生日を迎えようとしている、ウラウラ島のでんきタイプのキャプテン、ナナシは、島中に響き渡る声で叫んだ。














「はぁ〜〜〜…。ライチュウ、本当に大丈夫かなぁ」


「ぢう?」


マリエシティの自宅にて、相棒のライチュウを膝の上に乗せたナナシは、深く大きなため息を吐いた。ライチュウは不思議そうにナナシの顔を覗きこんで、腹のあたりを撫でるナナシの手をふにふにと揉んでいる。最愛の相棒の可愛らしい仕草に、ナナシの頬がにんまりと緩んだが、最大の不安は消えることは無い。


「後任のキャプテンは、マーマネくんがやってくれることになったけど…。でも肝心のしまキングが、あんなぐうたらじゃあ…。はぁ……」


ナナシがキャプテンに任命されたのは8年前、12歳の頃だった。その頃のしまキングは、現在のキングであるクチナシではなく別の人物であったが、諸々あって7年前にクチナシがしまキングとなり、ナナシは悩みつつもキャプテンを続けた。しかし翌月になればナナシは20歳になり、キャプテンを辞する年齢となる。後任のキャプテンは、同じキャプテンの先輩でもあるマーレインの紹介で、島めぐりを終えたばかりの少年、マーマネが務めることとなった。
しかし、ナナシの最大の不安は、他ならぬしまキングのクチナシだ。クチナシという人物は、優れたポケモントレーナーであることは誰の目から見ても確かだが、しまキングとしての仕事に対して、とにかく不真面目だった。普段はポータウン近くの交番に籠りきりで、大試練を望む島めぐりの子供が交番まで行って、ようやく重い腰を上げる始末である。島めぐりを行う年齢になった子供にポケモンを与えるのも、他の島のキング・クイーンたちが人に懐きやすく御しやすいポケモンを用意するのに対し、クチナシはプライドが高くて扱いが難しいニャースを与えるので、ナナシは絶句したものだ。


「それに、わたしの後任を見つけるのだって、本当はしまキングが任命しなきゃならないのに『適当に探しといてくれ』とか言って…! あーもうっ、こんなんじゃ不安でキャプテンやめられないっ!」


「ちゅうぅ」


不安のあまり頭を抱えたナナシを、ライチュウは無邪気な眼で見上げた。ナナシの悩みなどよくわかっていないのか、機嫌よさそうにナナシの身体に尻尾を巻き付けてくる。ナナシのライチュウは主人の悩みなど気にもしない楽天的な性格で、そのことをナナシもよくわかっているので、頭を抱えながらもされるがままにされていた。


「…うん、やっぱりわたしがキャプテンやめる前に、あの人を何とかしなきゃダメだ!」


「ちゅ?」


「ライチュウ、ボールに戻って! ポー交番に行くよ!」


「らいちゃっ」


ナナシが差し出したボールのスイッチを、ライチュウが尻尾で叩き、素直にボールの中へと戻った。ナナシは腰のホルダーにボールを収め、机の上に置いておいたライドギアを引っ掴み、自宅の外へと走り出る。外に出るなりライドポケモンのリザードンを呼び出したナナシは、さっそくリザードンの背中に飛び乗ると、ポー交番へ向かって飛び出した。
マリエシティからポー交番までは、リザードンに乗って約20分ほどだ。それなりに距離は離れているが、島めぐりの子供たちなどに頼まれてクチナシのもとを訪れることの多いナナシにとっては、慣れた道のりだった。しばらく飛び続け、やがてポー交番が見えてくると、ナナシはリザードンを急降下させながら飛び降り、殴り込みに行くかの如き勢いで交番の扉を開けた。


「しまキングっ!!!」


「…………ん?」


どうやらクチナシは昼寝中だったらしく、何匹ものニャースに埋もれながら、ソファの上に寝そべっていた。一応、真昼間であるので警察官としては就業中だろうに、だらしない格好で寝ぼけ眼を浮かべるクチナシに、ナナシは思わず溜息を吐いた。


「もーっ、仕事サボってなに寝てるんですか! ニャースたちも、人の上に乗って遊ばないの!」


「うにゃあー」


「ああっ、制服が毛だらけになってるじゃないですか! しまキングはお巡りさんでもあるんですから、大事にしないと駄目ですよ! 毛取りしますから、一回脱いでください!」


「いいよ別に、洗濯機回すから」


「ダメですよ、他の服にも毛がついちゃうでしょ! ホントにずぼらなんですから、しまキングは!」


ナナシはぷんすかと頬を膨らませつつ、クチナシが羽織っている上着を無理やり脱がせると、慣れたように鞄の中から毛取りブラシを取り出し、上着にブラシをかけていく。みるみるうちにニャースの毛が取れていく制服を見て、クチナシは感心したように「上手いもんだな」と呟いた。


「で、今日は何の用だ?」


「むっ、何ですかその言い方! まるで用が無かったら来ちゃダメ、みたいな」


「んなことはねえよ。ただ、最近バタバタしてただろうから、何か悩みでもあんのかと思ってよ」


「ええ、悩みに悩んでますよ! 悩み過ぎて頭痛がしてきて、毎日コダック気分なんですから!」


「そりゃご愁傷さま、頭痛薬でもいるか」


「いりません!」


クチナシの上着をブラシし終わると、「ズボンは自分でやってください」と言って、上着とブラシの2つをクチナシに突きつけた。クチナシは仕方なしに両方を受け取り、気だるげに自身の毛まみれのズボンにブラシをかけていく。


「わたしがキャプテンをやめた後も、しまキングがそんな風にぐでんぐでんだと、マーマネくんやアセロラちゃんが苦労するんですから! だから今日こそしまキングに、しまキングとして相応しい立ち振る舞いをしてもらうよう、約束してもらいに来たんですよ!」


「しまキングとして相応しい、ねぇ。カプ・ブルルからは何の文句も言われてないけどな」


「そ、それはともかくとして、です! しまキングがこんな場所に引きこもってると、大試練を希望する子供たちが来にくいんですよ! スカル団を見張る役目のこともわかりますけど、せめて定期的にマリエシティに来てくれるとか、そういう努力をするべきだと思うんです!」


「マリエにはほぼ毎晩行ってるんだがな」


「おスシ食べにでしょ! しかも食べ終わったらすぐに帰っちゃうし! そもそも、ちゃんとおスシ以外のものも食べてます? 今日のお昼とかなに食べました?」


「カップ麺」


「なっ、なんて不摂生な食事してるんですか! お野菜とかちゃんと取らないとダメですよ!」


「男の一人暮らしなんてそんなモンだよ」


ああ言えばこう言うクチナシに、ナナシの勢いもどんどんヒートアップしていく。ナナシは思い立ったかのように交番の奥の居住スペースに足を踏み入れると、狭いキッチンにドンと置かれた冷蔵庫を開け、中身を見た。


「ちょ…ちょっと、なんですかコレ!? 缶ビールと缶詰ばっかりじゃないですか!」


「んなことはねえだろ、調味料も入ってるよ」


「ああっ、しかもこの缶詰、消費期限が半年前だし…!」


大量の缶ビールと、これまた大量の缶詰(おかずやおつまみなどが詰められたもの)がぎっしりと詰まる冷蔵庫の中身に、ナナシは思わず絶句する。ずぼらで、ものぐさで、面倒くさがりなクチナシの性格は知っていたが、これはさすがのナナシも予想外だった。ナナシは冷蔵庫から消費期限の切れた缶詰をピックアップして、処分の為に次々と取り出していく。


「いいよ、そんなことしなくても。勿体ないし、そのうち食うって」


「ダメですよ、お腹壊したらどうするつもりなんですか! 仕事を面倒くさがるのはともかく、食事まで面倒くさがってるから、こんな風に残っちゃうんですよ!」


「まあなぁ、自分で用意するのが面倒だからって、ついつい外で済ませちまうからなぁ」


「自炊しろとは言いませんから、せめてまともな食生活を送ってください! ホントにもう、これじゃ心配でキャプテンやめられないですよ…!」


帰りにマリエのゴミ処理場で処分するため、ナナシは取り出した缶詰を適当な袋に詰めた。交番に来てからずっと溜息を吐きっ放しのナナシに、その溜息の原因であるクチナシは、マイペースに毛取りブラシをかけている。その様子を見ていると、「本当にこの人を1人にして大丈夫だろうか」と、ナナシは心配になった。


「まあ、そう心配すんなって。ウラウラにはマーレインもいるし」


「マーレインさんに頼る気満々ですよね!? っていうか、マーレインさんはマーマネくんの面倒も見なくちゃいけないんですから、お1人で頑張らないとダメなんですよ!?」


「何とかなるだろうよ、あんまりサボりすぎてもカプにどやされっからな」


「むしろ、何でカプが今までクチナシさんをどやしていないのか、不思議です…」


ナナシが深く溜息を吐きながら、クチナシに眼を向ける。すると、クチナシはいつもの無表情を少しだけ崩し、丸い眼でナナシを見た。驚いたナナシに、クチナシは物珍しそうにこう呟く。


「初めてだな」


「な、なにがです?」


「ナナシが俺のことを『クチナシさん』って名前で呼ぶの。いつもは『しまキング』って、他人行儀な呼び方してるのに」


クチナシの指摘に、ナナシは「あっ」と何か気付いたようなリアクションを浮かべ、やがてかぁーっと顔が真っ赤になった。それまでの勢いはどこへ行ったのか、ナナシの声が少しずつ小さくなっていく。


「そ、それはホラ、しまキングとしての立場を考えてもらおうと思って、そう呼んでたんじゃないですか」


「じゃあ俺はナナシの中で、とうとうしまキング失格になったワケか」


「ち、違いますよ! そういうことじゃなくてですね…!」


「冗談だよ。ナナシなりに、俺に親しみを持つようになったってことだろ」


クチナシがそう返すと、ナナシは「うっ」と呻いたかと思うと、黙り込んでしまった。クチナシの発言がまさに図星だった、そんな反応だ。


「…さ、最初、クチナシさんがしまキングになった時、わたしって態度悪かったじゃないですか。『アローラの生まれじゃないよそ者がしまキング?』って感じで…」


「ナナシだけじゃなくて、どの島民もそんなモンだったよ。だからそんなこと気にすんな」


「で、でもわたし、ホントに態度悪かったですから…。そんな風だったくせに、途中から『クチナシさん』だなんて呼び方したら、手のひら返したみたいになるかなって…」


「そんなことねえだろ。実際、俺はしまキングとして、誇りも責任もへったくれもねえんだから」


「…た、確かに普段から不真面目ですし、わたしも怒ったりしますけど…。でも、クチナシさんがしまキングだっていうことを認めない人は、今じゃ1人もいませんよ。だからこそ、わたしはクチナシさんにもっとしっかりしてもらって、クチナシさんを尊敬する人を1人でも増やそうと…!」


「はいはい、わかってるわかってる」


クチナシは口の端を吊り上げてニヤッと笑うと、その骨ばった手をナナシの頭に乗せて、わしゃわしゃと撫でた。アローラの強い陽の光を浴び続け、色素の抜けたナナシの茶髪を、クチナシの白い手が掻き回す。ナナシはその行為に、顔を真っ赤にしながらすっかり大人しくなってしまった。


「今までお疲れさん、ナナシ」


「…クチナシさん……」


「俺にとってナナシは、頼りになるキャプテンだったよ。…ま、俺が褒めても嬉しくねえか」


「そ、そんなことないですってば! う、嬉しいですよ、本当に…」


顔を真っ赤にしながら、ナナシはクチナシの言葉を胸の中で噛み締める。クチナシを心から尊敬するようになり、尊敬とは少し異なった感情を抱くようになってから、いったい何年経つだろうか。あと十数日もすれば、自分はキャプテンの座を退くことになるが、例えキャプテンではなくなったとしても、こうしてクチナシと共にいたい。心の中でそう思いながらも、照れ隠しをするように、ナナシはいつものふくれっ面を作る。


「でも、クチナシさんにはやっぱり、もっとしっかりしてもらわなきゃダメです! とりあえず、もっと健康的な生活を送って、もっと島めぐりにも積極的になってもらわないと!」


「………はあ、世話焼きすぎるのも考えモンだなぁ」


「なに面倒くさそうな顔してるんですか! 言っておきますけど、わたしはキャプテンをやめたとしても、アローラにはずっといるんですからね! これからもずっと口うるさく言い続けますからね、クチナシさん!」


ナナシはビシッとクチナシを指差し、自分への宣誓も兼ねてそう叫ぶ。クチナシは困ったように眉を寄せたが、心の底から嫌というわけではないようで、微かに笑んでいる。その表情を見たナナシは心の中で嬉しく思い、その心中をサイコパワーで読み取ったのか、ライチュウのいる腰のボールがわずかに振動して、ナナシの身体を揺さぶった。

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