「ホワイトクリスマスって、体験したことある?」
ふいにナナシが変なことを聞いてきた。
「・・・まだ11月だぞぉ。」
「街はクリスマス一色だよ。それで、どうなの?」
「・・・あるぜぇ、1回だけな。それがどうしたぁ。」
ナナシの方を向けば、ナナシは窓の外を眺めていた。別に、雪が降るわけでもないのに。
「ちょっとね。気になったの。クリスマスに雪が降る確率。22分の1かぁ。」
「安直すぎねぇかぁ・・・。」
「間違ってはいないっしょ。」
ナナシは窓の外から目を離さない。この女の目は、時々どこに向いているのかわからなくなる。面と向かっていても、自分を見ているのか、それともどこも見ていないのか。今は、窓の外のどこを見ているのか、それとも最初から窓の外など見ていないのか。
「スクアーロ。」
「ん゛?」
「メリークリスマス。」
急に何を言い出すのかと思ったら、拍子抜けのことを言い放った。何を言っているんだ、こいつは?
「まだ11月だろうがぁ。」
「私もあんたもいつ死ぬかわからないじゃん。あんたなんか明日ザンザスが投げたグラスの当たり所が悪くて死ぬかもしれないし。」
「・・・その死に方だけはしたくねぇ。」
「あはは。」
笑い事じゃない。冗談にしてはタチが悪いうえ、真っ向から否定も出来ない。
「まあ私も明日から任務だし、ここで死ぬかも。だから、先に言っとこうと思って。」
・・・こいつはクリスマスが祝いたくてこういうことを言っているんじゃない。自分が死んだ時、何かを残していきたいだけだ。こう言っておけば、クリスマスが来る度、雪が降ればなおさらナナシのことを思い出す。たった1年だけしか覚えてなかったとしても、一度だけでも思い出して雪の降る空を見上げさえすれば、それで満足なんだ。
「・・・ナナシ。」
「なに?」
「メリークリスマス。」
「・・・メリークリスマス。」
今年のクリスマスに、来年のクリスマスに、これからのクリスマスに
メリークリスマス
タイトルは坂本教授の名曲から。