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HQ夢主と牛若がイチャイチャしてる話



「ほんっとに、バカップルのイチャイチャってムカつくよね!!」


青葉城西高校の屋上に、及川の怒りに満ちた叫び声が響いた。昼食を食べている最中の岩泉、松川、花巻は一瞬手を止めて及川を見たものの、すぐに無視して食事を再開した。


「なんでムシすんの!? ヒドくない!?」


「うるせえ、さっさと食え」


「どうせまた彼女にフラれたとかだろ、めんどくせー」


「ヤリチンのうえに他人に僻むとかサイテー」


「ちょっとマッキー、人聞きの悪いこと言わないでよ! むしろ俺は至ってプラトニックな付き合い方してるからね!」


「結局なんなんだよ、めんどくせえな」


怒りに任せて牛乳パンを頬張る及川に、岩泉が溜息を吐きながら聞いた。なんだかんだ話を聞いてやる岩泉の優しさに、松川と花巻は心の中で拍手を贈る。


「もう聞いてよ! 昨日ホントにムカつくことがあってさ!」


「ごめん、今の言い方が気に食わなかったから聞きたくないんだけど」


「なんで!? 今の切り出し方どこもおかしくなくない!?」


「松川ちょっと黙ってろ、永久に話が進まねえ」


「うぇーい」


松川がいつものように及川をからかって楽しんだ後、本格的に話を聞く体勢に入る。及川は食べていた牛乳パンを食べ終え、次のパンの袋を力任せに開けながら話し始めた。


「昨日さ、月バリ買いに本屋行ったら、そこに凛々ちゃんがいたんだよ」


「あー、及川がストーキングしてるあの可愛い子」


「違うからね!? 見かけた時にちょっかい出してるだけで、俺が追っかけてるワケじゃないからね!?」


大会の度に試合観戦に来る凛々に及川がちょっかいをかける為、松川も花巻も凛々のことは知っていた。青城の宿敵、白鳥沢のエースである牛島若利の幼馴染であることも、青城の3年の間では周知の事実となっている。


「まあせっかくだからと思って、凛々ちゃんにちょっかい出しに行ったんだよ。そしたらさ…」













「やっほー、凛々ちゃん! みんな大好き及川さんですよ〜」


「ヒィッ!?」


客のほとんどいない商店街のこじんまりとした本屋の雑誌売り場の前で、及川は凛々に話しかけた。凛々は手にしていた月刊バリボーを落としてしまい、咄嗟に後ろに飛びのきながら驚く。及川は凛々に逃げられないように、その細い腕をやんわりと掴んだ。


「久しぶり〜、凛々ちゃんも月バリ買いに来たの?」


「そそそそそそうですけど離してくださいませんか及川さん」


「えー? せっかくだしお茶でもしようよ、及川さん奢ってあげるからさ」


「イヤです結構ですお断りします!」


相変わらず小動物のような怯え方をする凛々に、及川の小さな嗜虐心と悪戯心がくすぐられる。好きな子ほどいじめたくなるというやつか、及川は凛々が怯えるのも構わずに肩を抱き寄せた。


「いいじゃんか〜、及川さんのことキライなの?」


「キライとかそういう以前に怖いんですってばーっ! 誰か助けてーっ!」


凛々がそう叫ぶと、途端に凛々の腕をぐいっと誰かに引き寄せられ、及川から引き離される。驚いた2人が凛々を引き寄せた腕の主を見ると、そこには制服姿の若利が立っていた。


「若ちゃん!」


「うげっ、ウシワカちゃん」


「その呼び方をやめろ、及川。それから、嫌がる人間に構うのもよせ」


「うぅ、若ちゃんナイスタイミング…!」


及川から離れられて安心したのか、涙目になりながら若利の背中に隠れる凛々に、及川はまた嗜虐心が煽られた。


「ヒドイなぁ、俺は凛々ちゃんともっと仲良くなりたいだけなのに。ね、凛々ちゃん」


「ひえっ、目が全然笑ってないんですけど…!」


それは敵視する相手、若利が傍にいるからなのだが。何にせよ、凛々はますます怯えて若利の背中に隠れる。


「何があったかは知らんが、凛々が嫌がっている。あまり構うな」


「ハイハイ、俺だって本気で嫌われるのはヤだから、さっさと退散しますよ」


「うぅぅぅ、若ちゃんありがとう…」


凛々が隠れていた背中から、若利を見上げた。すると若利は、涙目になっている凛々の顔を見て一瞬眉を寄せたかと思うと、凛々の顔にその大きな手を添えた。


「そんな顔をするな」


親指で凛々の目元を拭い、軽く頬をつねると、凛々はふにゃっと気の抜けた笑みを浮かべた。その光景を目の当たりにした及川は、何種もの衝撃を一度に受けたような感覚に、思わず開口した。


「えっ、うそ、いつの間にそんな仲に」


「どうかしたか、間の抜けた顔をして」


「ちょっ、このイケメンな顔によくもそんなことを…! ってそれはどうでもいいっ、凛々ちゃん! 俺には全然なびかなかったのに、っていうかそれ以前の問題だったのに…!」


「? な、なんですか?」


凛々も若利も、訳のわからないといったような表情を浮かべてキョトンとしている。この反応を見るに、及川が何を言いたいのか理解していない、そもそもそんな発想自体ないといった感じだった。つまり、こいつら全くの無自覚で、天然でこんな砂吐きそうなことをしてやがる。及川がその結論に至った時、なんだか妙に頭が痛くなった。











「あれで付き合ってないんだよ!? なんなの、あの天然バカップル!! さすがの及川さんも砂を吐きたい気分だったよ!」


「飯の最中に吐くとか吐かねえとかいう話をするんじゃねえ!」


岩泉に頭を叩かれ、及川は食べていたパンを飲み込み損ねてむせていた。しかし、砂を吐きそうだという及川の気持ちは、この場にいる岩泉も松川も花巻も同感だった。


「ウシワカこえー、付き合ってない子にそんなことすんのかよ」


「っていうかそれをされて何の反応もしない凛々チャンも凛々チャンでしょ」


「あいつら、2人とも天然だからな。おまけに周りがあの2人をくっつけようと画策してるから、それを止めないしな…」


「家族公認の恐ろしさを思い知るわー」


「そういや、俺も見たことあるわ、あの2人のイチャイチャ。しかもわりと最近」


「え、マッキーも?」


花巻が紙パックのジュースを飲みながら言った言葉に、及川が反応する。他の3人の注目が集まる中、花巻は記憶を辿りながらポツポツと話し始めた。


「先週の月曜日だったな。歯医者行った帰りで、電車乗ってたんだけどさ…」









その日は練習がオフであった為、花巻は学校の最寄駅から3駅ほど離れた駅前にある歯医者で、定期検診を終えた帰りだった。どうやら人身事故があったらしく、その影響か電車内は満員だった。運良く手すりの近くのポジションを位置取れた花巻は、自宅の最寄駅に到着するのを今か今かと待っていた。


『間も無く、白鳥、白鳥ー』


アナウンスがなり、電車が白鳥駅に停車する。ただでさえ人の多い車内に、更に何人もの乗客が乗ってきた。その時、白鳥沢の制服を着た若利も乗車してきた。


(うわ、ウシワカ)


及川の影響か、何となく敵対心を持ちつつある相手に、花巻は顔を背けた。するとその時、狭い車内によく響く明るい声が聞こえた。


「すいません、そこ通してください!」


人の根をかきわけ、座席に座っていたらしい凛々が入り口の方までやってくる。


(あ、及川がいつもちょっかい出してる子だ)


「おばあさん、あそこの席空いてますから、どうぞ!」


「あら、いいんですか? すみませんねぇ…」


凛々は先ほど乗車してきた杖をつく老婆の手を取り、それまで自分が座っていた席へ案内した。ぺこぺこと頭を下げながら席に座る老婆に笑顔を見せ、凛々は比較的スペースのある入り口側へ移動する。良い子だなー、と花巻が思っていると、扉が閉まり電車が発車する。しかし、発車して間も無いというのに急に停車し、車体が大きくぐらついた。


「きゃっ!」


その時、凛々がバランスを崩して前向きに倒れそうになる。危ない、と思った花巻が手を伸ばしかけた時、それより先に若利が手を伸ばし、凛々の身体を受け止めた。


「大丈夫か」


「あっ、若ちゃん! ありがとう、今日は帰り早いね。予約入れてたっけ?」


「ああ、急に入れてもらった」


若利に支えられながら、凛々が体勢を整える。その時、停止信号が出た為、安全を確認しているという旨のアナウンスが流れ始め、車内に溜息が広がった。電車が止まっている隙に、凛々と若利はスペースのある入り口前の空間に移動した。


「あれ、掴まるとこない…。混んでるもんなぁ」


「危ないから掴まっていろ」


「いいの?」


「また転ばれて怪我でもしたらたまったものじゃない」


「じゃあ、遠慮なく!」


そう言って凛々は若利の右腕に手を伸ばし、まるで恋人の腕に抱きつくかのように掴まった。てっきり若利が肩から下げているエナメルバッグの持ち手部分だとか、そういうところに掴まるのかと思っていた花巻は思わず「えっ」と呟いてしまう。っていうか腕に掴まるとしてもその掴まり方はどうなんだ、そう思っていると今度は若利がとんでもないことをし始めた。


「凛々、もう少しこちらに寄れ」


そう言って若利はもう片方の腕で凛々を抱き寄せ、腕の中に収めた。右腕に抱きつく体勢が取りにくくなったため、凛々は若利の胸に抱きつくようなった体勢になる。確かにこの満員電車の中ではコンパクトに固まってくれた方が助かるのだが、そのあまりの迷いの無さに、花巻は思わず目をまん丸にして見てしまった。


「何時に予約したの?」


「8時だ」


「その時間だったら間に合うかな。早く電車、動けばいいのにね」


恋人同士でも顔を赤くするような距離感で平然と話す凛々と若利に、この車内の誰もが「リア充爆発しろ」と思ったであろう。全然関係ないはずの花巻の方が、何故かいたたまれなくなってしまった。









「及川がそれやったら痴漢だな」


「うわっ、及川きっしょ。こっち来んな、エンガチョエンガチョ」


「ちょっと、俺別に何もしてないんだけど!? 無実なんだけど!? むしろウシワカちゃんの方がどうなのそれ!?」


松川と花巻に理不尽な物言いをされ、及川が膝をバンバンと叩いて異議を唱える。弁当を食べ終えた岩泉は、及川の購買の袋から勝手にパンを取り出して食べ始めた。


「もうあれは名物みたいなもんだろ。好きにさせてやれよ、どうせそのうち付き合うんだろうからな」


「くっそムカつく、この及川さんを差し置いてウシワカちゃんがリア充化するとか…。爆発しろ、木っ端微塵に爆発しろ」


「テメーが爆発しろクソが」


「しかしまあ、思い返してみると結構あの2人のイチャイチャって、お馴染みの光景になってるよなー。俺も去年の大会の時に見かけたわ」


「えっ、そんな前から? 幼馴染パワーこわっ」


今度は松川に全員の注目が集まる。松川はゼリー飲料の蓋を開けながら、今にも砂を吐きそうな表情を浮かべた。


「去年の新人戦の時、女子の決勝中にトイレ行ったらさ…」











大会会場である市民体育館で白鳥沢の女子と新山女子の決勝が行われる中、松川は男子の決勝前にトイレで済ませるものを済ませ、チームメイトが待つ更衣室へ戻ろうとしていた。決勝の相手は毎度お馴染みの白鳥沢、十分に気合を入れる及川や岩泉を適度にからかって肩の力を抜かせ、試合への準備も万端だ。軽い手首のストレッチをしながら体育館入り口のロビーを横切ろうとした、その時だった。


(げっ、ウシワカ)


決勝の相手である若利が、ユニフォームにジャージを羽織った姿でロビーに立っていた。何となく気まずい気分でその背後を横切ろうとした時、若利が何やら呟いているのを耳にした。


「そこを右に曲がれ、あとは真っ直ぐ来ればいい」


「?」


何を言われているのか、と思って再度若利を見ると、どうやら携帯電話で誰かと話しているようだった。しばらくすると、体育館に向かって一目散に走ってくる人影を見つける。携帯電話を手にした、凛々だった。


「つ、着いた…! 若ちゃんありがとう、このまま辿り着けないかと思ったよ」


「いや、呼んだのはこちらだからな。悪いが頼む」


「よし、お父さんほどは上手くできないけど、任せて!」


凛々がそう言って腕まくりをすると、若利は羽織っていたジャージを脱いで、ロビーの椅子に座った。何をするのかと気になって松川が物陰から覗いていると、凛々は若利の左肩のあたりを触って何かを確かめた後、何を思ったのか若利の肩甲骨のあたりを膝で押さえ、両手で若利の左肩を思いっきり後ろに引っ張った。


(!?)


ゴキッ、という恐ろしい音が閑静なロビーに響き、松川の心臓がどきんと跳ねた。しかしその心臓に悪い音を鳴らした当の本人の若利は、平然とした顔で左肩を回し始めた。


「どう?」


「ああ、だいぶ違和感が消えた。助かった、すまないな」


「ううん、最近うち来てなかったもんね。後でちゃんとお父さんにやってもらってね」


「ああ」


そういえば、凛々の家が整体院であるということを岩泉が話していたことを思い出し、松川は目の前の光景に納得する。凛々は安心したのか、大きく息を吐いて額の汗を拭った。


「はぁ〜…もう道わかんないし、女子の決勝は3セット目入ったとかいうし、すごい焦ったよ…」


「すまん。俺は平気だと言ったんだが、監督とコーチがな」


「そりゃ心配するよ、大切なエースなんだから。身体の管理はしっかりしなきゃね」


「…凛々、少し止まっていろ」


「え?」


凛々が疑問に思いつつも大人しく動きを止めると、若利が凛々に近付き、少し乱れたポニーテールに手を伸ばした。そして髪についていたらしき落ち葉を取る。


「髪に葉がついている」


「あ、ありがと」


ここまでは微笑ましい光景として、松川は「リア充爆発しろ」と思いつつも和やかに見ていた。しかし、状況はここで一変した。若利は何を思ったのか、凛々のポニーテールを解いて、その滑らかな黒髪を手で梳きはじめた。凛々の髪からぱらぱらと落ちる落ち葉に、松川は今度こそ声をあげそうになってしまった。


「えっ、わっ、そんなついてたの!?」


「一体どの道を通ってきたんだ」


「あ、多分、近道しようと思って垣根を突っ切った時についたんだと思う…」


「お前が道に迷うのは、その短絡的な思考のせいだ」


まるで当然のことのように平然としている2人に、松川は何だか胸がムカムカとしてきた。髪についた落ち葉を取るのはまだ納得できる、髪を解いてそれを手で梳く必要がどこにある。それに加え言わずもがな、当然見ているのが恥ずかしくなるほどの密着状態なのだ。このままだとあのウシワカが解いた髪を自分で結び直す、なんて光景が繰り広げられ兼ねない。松川はさっさと更衣室に戻って、及川をとことんからかうことにした。











「何その少女漫画チックなの! そういうのやっていいのは、俺レベルのイケメンだけだから!」


「ふざけんなクソが、テメーは髪についた芋けんぴでも取ってろ」


「なにそれどういう状況!?」


ギャンギャンと叫ぶ及川を、岩泉が面倒くさそうに制した。昼食を食べ終えたばかりではあるが、4人が4人とも、食事中には向かない甘ったるい話に胃もたれしてくる。


「そういえば岩泉、こないだ凛々ちゃんを家に送ってやったんでしょ? そん時とか何かなかったの」


「あぁ、このクソの尻拭いでな。そういや結局、ウシワカの野郎もいたな…」


「まだその話すんの!? 俺もうお腹いっぱいなんだけど!」


「言い出したのは及川じゃん」


聞きたくないと耳を塞ぐ及川は無視して、岩泉は満腹になった胃を摩りながら話し始めた。


「前も言ったと思うけど、凛々の家って整体院なんだよ。そん時、ウシワカが客で来てたらしくてな…」










辺りは既に暗く、街灯の灯りが道を照らしていた。岩泉は、追っかけの女子高生から逃れる為に及川に付き合わされた凛々を、彼女の家まで送る最中だった。


「いつも悪りぃな、あのクソ野郎には俺から言っとくからよ」


「いえ、岩泉さんは悪くないですから! でも、できたら及川さんのストッパーになってくれると助かります…」


「…善処する」


とはいえ、完全に止めきることはできないんだろうなと、心の中で凛々に詫びた。しばらく歩いて行くと、小谷整体院の看板が見えてくる。凛々の家だ。


「あ、よかったらうちの名刺、貰ってってください! 持ってると初診は割引きなんで!」


「おお、商魂逞しいな。わかった、うちの連中にも肩が痛えとか言ってる奴らいるし、ありがたく貰っとく」


整体師の娘らしい逞しさに、岩泉の顔がほころんだ。及川はやりすぎだが、ちょっかいをかけたくなる気持ちは何となくわかる。岩泉から見ても、凛々は純粋に可愛らしいし、それに良い奴だと思えた。そう思いながら整体院の前まで行くと、入り口前にぬっと立っていた人影に、凛々も岩泉も驚いた。その人影はご察しの通り、若利だ。


「あれ、若ちゃん?」


「ウシワカ?」


「凛々、遅かったな。なぜ岩泉が?」


「いや、かくかくしかじかで…。あれ、今日の予約って7時だよね? もう9時だけど、どうしたの?」


「お前の顔を見てから帰ろうと思っていただけだ」


今日はいい天気ですね、とでも言うかのように若利がサラリと述べた言葉に、岩泉は近くにある壁を殴りたくなる衝動に駆られた。何の恥ずかしげもなくそんな台詞を言える牛島若利という男に、はっきり言ってドン引きしつつある。しかしそれ以上に頭を抱えたくなるのは、それを言われた凛々の反応だった。


「そっか。えへへ、今日は若ちゃんに会えないのかなーなんて思ってたから、会えてよかった」


「そうか」


そうか、じゃねーよ!! 及川だったらそう叫んでいただろう。良くも悪くも天然で、周りを一切気にしてない無自覚バカップルに、岩泉は脂汗をかきそうになってきた。


「じゃあね、気をつけてね!」


「あぁ。岩泉、凛々が面倒をかけた。礼を言う」


「お、おう…?」


なんでお前が礼を言うんだよ、そう思ったが言及しないことにした。若利はロードワークを兼ねてか、走って帰路につき始める。それを見送った凛々は整体院の中から数枚の名刺を持ってきて、それを岩泉に渡した。


「はい、どうぞ!」


「お、おぉ、サンキュ。…なぁ、お前ら付き合ってんのか?」


「へ?」


「いやだから、ウシワカと付き合ってんのかって」


「えええ!? いやいや、そんなわけないじゃないですか! 若ちゃんは私なんて、ちょっとバレーのできるちんちくりんくらいにしか思ってないですよ!」


ちょっとバレーのできるちんちくりんの顔を見てないからと、2時間近くも帰らずに待っている男がどこにいる。そう思ったが、言っても無駄な気がしたので黙っていた。


「じゃあ、凛々はどんな奴が好みなんだ? うちのボケ川は顔だけはまあまあだけど」


「お、及川さんはそれ以前の問題というか…。好みかぁ〜、顔は別に気にしないです。やっぱり優しくて、それから甘えられる人がいいですかね?」


照れ笑いをしながらそう言った凛々に、今さっき凛々にだけベタ甘どころかゲロ甘に優しくて甘やかす奴がいたぞ、と言いたくなった。しかしそれ以上に、岩泉は「及川ざまぁ」と笑いたくなった。












「なんか…清涼感のあるものが飲みたくなってきた…」


苛立ちすら沸いてくるほどの甘ったるい話題に、及川が心底疲れ切ったような表情を浮かべた。一番最初に話題を切り出したのはお前だろ、と岩泉も、松川も、花巻も思ったものの、腹立たしいことに及川の言葉に賛同できてしまった。


「わかるわー、俺サイダー飲みたい」


「俺ウーロン茶、サッパリしたい」


「俺はアクエリ。というわけだから頼んだ、及川」


「えっ!? ちょっと待って、俺が買いに行くの!?」


「お前があんな話しはじめなきゃ、こんな砂吐きそうな状態になってねえんだよボゲ」


「さっさと行けよ及川ー」


「40秒で買ってきてー」


「あーもう、これだからウシワカちゃんなんて嫌いなんだよ!!」


「知るかクソが」


屋上に再び、及川の叫びがこだました。

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