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もし殺し屋探偵とスクアーロが結婚していたら



「10年バズーカぁ?」


談話室にやってくるなりルッスーリアが大仰に見せてみせたバズーカ砲を横目に、スクアーロは「くだらねえ」とでも言いたげに顔を歪めた。明らかに乗り気ではないスクアーロの様子など気にせず、ルッスーリアはクネクネと腰をくねらせながら、問題のバズーカ砲を高く掲げる。


「そうよ、聞いて驚きなさいスクちゃん! これがあのボヴィーノファミリー秘伝の武器型タイムマシン、その名も10年バズーカよ!」


「ボヴィーノ? 何それ知らねー、どこの三流マフィア?」


「呆れた、それでもヴァリアーの幹部かい? 沢田綱吉の雷の守護者…あの牛柄の小僧の古巣だよ」


「牛柄の小僧…!!」


かつてのリング争奪戦での敗北を思い出したのか、レヴィが額に青筋を浮かべながら書きかけの報告書を握り潰した。一方、ベルは面白そうな匂いを嗅ぎつけたのか、マーモンを抱えながらルッスーリアとスクアーロのもとへとやってくる。


「何でも、このバズーカを人に向けて打つと、10年後のその人物と入れ替わるんですって! 効力は5分だけみたいですけどねっ」


「う゛お゛ぉい、そんなくだらねえガキのオモチャをどこで手に入れやがったぁ?」


「前に任務で日本に飛んだ時、あの牛の坊やとばったり出くわして、特大チョコレートパフェをご馳走する代わりに1つ貰ったのよ〜」


「う゛お゛ぉぉぉい!!! なに敵にパフェなんざ奢ってんだぁ!!!」


「ししっ、そのまま殺しちゃえばよかったのに。で、どうすんのコレ?」


弾の装填されたバズーカをルッスーリアやスクアーロ、マーモンに向けたりして、ベルが遊び始める。スクアーロがそれを咎めるように、バズーカを乱暴に取り上げた。


「ちょっと、何すんのさー。針千本にされたいワケ?」


「う゛お゛ぉい、このマヌケがぁ! これがバズーカ型タイムマシンなんかじゃなく、本物のバズーカだったらどうしやがる気だぁ? テメーのその足りねえオツムで試してやってもいいが、ガキに嵌められておっ死ぬなんざ冗談にもならねえぜぇ」


「成る程、それは一理あるね。そんな訳だから、そのバズーカは特別にタダで僕が処分してあげるよ」


「ふざけんな銭ゲバ野郎、テメーそれ売っ払うつもりだろ。このアホザメ隊長は騙せても王子は騙せねーかんな」


「ちょっとー! そうやって人をすぐに疑ってかかって、心の醜い人たちだわっ! プンプンッ!」


「五月蝿えぞ、カスども」


ゆるい雰囲気にそぐわぬ低い声に、その場にいた幹部たちは鞭で一打ちされたかのように姿勢を正した。レヴィなどは即座に立ち上がり、声の主である男に深々と頭を下げる。突然現れたヴァリアーのボス、ザンザスはスクアーロから10年バズーカを奪い取り、つまらなさそうに一瞥した。


「10年バズーカか」


「う゛お゛ぉい、そうベタベタと弄るんじゃねえ!! 何か仕込まれてたらどうす……」



ドカァァァン!!!



スクアーロの忠言を最後まで聞かぬうちに、ザンザスは明後日の方向に向かってバズーカを撃ち放った。轟音を立てながら砲身から弾が放たれ、豪奢な装飾が為されている窓が粉々に砕け散り、弾が飛んで行った屋外から『ボンッ!』という破裂音と「えっ」という声が聞こえてくる。今まさにとんでもないことをしでかしたザンザスは、呆然とする周りの者達に目もくれず、弾が無くなったバズーカ砲をその辺に投げ捨てた。


「う゛お゛ぉぉぉい!!! 何やってんだこのクソボスゥゥゥッ!!!」


「スクアーロ、貴様!! ボスに対して何という口の利き方を!!」


「ししっ、マジおっかねー。っていうか誰に当たった? 死んだ?」


「ちょっとちょっと、洒落にならないこと言うのはよしなさいな〜! それに、10年バズーカには殺傷性は無いから死んではいないはずよ〜!」


バズーカ発射の衝撃でずれたサングラスを直しながら、ルッスーリアは割れた窓の向こうを覗く。ヴァリアー本部の正門前の一帯に白煙が漂っており、その中心に人影が見える。偶然通りかかった何者かが、ザンザスの凶行の餌食となったようだ。


「このクソボス、もし一般人だったらどうしやがる気だぁ!!」


「そうだよボス、記憶の改ざんだってタダじゃないんだよ。もし死んでたら後始末に膨大な時間とお金がかかるんだから」


「そういう問題じゃないでしょ、マモちゃんったら! あ〜あ、一発分しかもらってなかったのに〜」


スクアーロらが室内でギャアギャアと騒いでいる間に、白煙が晴れて中にいた人影が明らかになった。ベルやマーモンが物見遊山に、スクアーロが舌打ちをしながら窓の外を覗く。
その人物は、腰まである長い赤毛を持った女性だった。年若く見えるが、その瞳はどこか老獪さを感じさせる。そして何より一番目につくのは、彼女が身に纏っている服にあった。
彼女は何故か、純白のウェディングドレス姿だったのだ。花嫁姿の彼女は驚いたように辺りを見渡し、室内からこちらを見ているスクアーロの姿に気付くと、ほっとしたように目を細めた。


「スクアーロ君、久しぶりだね」


その声は、紛れもなく『segugio』と称される殺し屋、メルのものであった。スクアーロはそのことに気付いた瞬間、生涯で一番といってもいいほどの大声で、最早言葉になっていない叫び声を上げたのだった。
















「ちょっと! なんでそんな恰好なのよ!? お相手は誰なのよ!? 洗いざらい吐いてもらうわよ〜!」


「そう急かさないでほしいんだけど」


「だってだって、制限時間は5分だけなのよ! こんな面白そうなネタ、10年後のお楽しみにするワケにはいかないわ!」


10年バズーカにより10年後のメルが現れたと知るなり、ルッスーリアをはじめとした幹部たちは即座にメルを連行し、四方を囲んで尋問し始めた。純白のドレス姿のメルはめんどくさそうに顔を歪めるも、ルッスーリアの質問攻めを無視するのも面倒だと感じたのか、仕方なしに返答する。


「こんな格好なのは結婚式の前だったから。お相手はスクアーロ君」


「………あ゛!? お相手は誰だって!?」


「だから君だよ、スクアーロ君。まあ、10年前のスクアーロ君には考えもしなかったことだろうけどね」


平然と答えるメルに、スクアーロが驚愕を通り越して呆然とした表情を浮かべた。スクアーロとは違い、ルッスーリアとベルは面白そうだと言わんばかりに破顔し、レヴィやマーモンですらニヤリとあくどい笑みを浮かべている。ザンザスはというと、いつの間にか姿を消していた。


「きゃ〜〜〜!! そういうのを待ってたのよ!! やっぱりスクちゃんも男の子だったのね〜〜〜!」


「ししっ、スクアーロは何をトチ狂って探偵なんかと結婚したワケ?」


「う゛お゛ぉぉい、そんなことは俺が一番知りてえんだよ!!! 10年後の俺に何があったんだぁ!!!」


「厳密に言えば10年前じゃなくて、5年前だけどね。つまり今のスクアーロ君にとっての5年後」


「何があった5年後の俺!!!」


普段のスクアーロの姿はどこへ行ったのか、困惑を通り越して混乱しているスクアーロの姿を見て、他の幹部連中は心底面白そうな表情を浮かべる。


「で、で、で? どういう成り行きでそうなったワケ? あと3分しか残ってないんだから1分半で説明して頂戴!」


「…随分楽しそうだね。言っておくけどこのドレス、あんたが用意したものだよ」


「あら、道理でセンスがいいと思ったわ〜! …って、話を逸らさないで頂戴な! さぁ!」


「10年前でも相変わらずうるさいんだね、あんたは…」


濃い化粧に覆われた顔を近づけてくるルッスーリアを押しのけながら、メルは淡々と未来の状況を説明し始める。


「今から5年後、ヴァリアーはボンゴレ本部からある任務を任されるんだよ。その任務ははっきり言って無理難題と言ってもいい、ヴァリアーという組織を完全に無力化するための、長期にわたる危険な任務だった。それで、その任務の作戦隊長にスクアーロ君が就いた」


「それと俺の豹変に何の関わりがあるんだぁ…!?」


「作戦実行の前の晩、スクアーロ君に呼び出されてね。『任務を成功させて生きて戻ってくる為に、生き残る意志を失わない為の命綱が欲しい。お前がそれになってくれ』って言われてね。私が『まるでプロポーズみたいな台詞だね』って言ったら、『そのつもりだ、言わせんじゃねえ!!!』って怒鳴られてね…」


「う゛お゛ぉぉぉぉぉいっ!!! それ以上口を開くな、何も聞きたくねえええええ!!!」


凡そ10年前の彼女には考えられないような、女を帯びた表情でそう語るメルに、スクアーロは衝動的に剣を抜いて叫んだ。ベルがゲラゲラと腹を抱えて笑い、ルッスーリアが頬に手を当てて「きゃ〜っ!」と黄色い声を上げ、レヴィは厭味ったらしくニヤニヤと笑う。マーモンはそれらの様子を見ながら、「泣く子も黙るヴァリアーの幹部が泣ける話だね」と呆れ気味に呟いた。


「イイわッ! ハードボイルド映画に出てきてもいいぐらいのプロポーズよ! スクちゃんの株がうなぎ登りだわ!」


「で、探偵はそのプロポーズに何て答えたワケ?」


「まあスクアーロ君に死なれるのも嫌だったし、寝首を掻かれることもなさそうだし、『赤縄でよければどうぞ』って答えたよ」


「あらまぁ! メルちゃんの赤毛と『赤縄の契りを結ぶ』を掛けた言葉遊びってことね! オシャレな言い回しはルッス姐さん的にはポイント高よ!」


「そういうことはいちいち言わないで欲しいんだけど」


赤縄の契りを結ぶ、とは『夫婦になる約束をする』と言う意味の、中国の故事が由来の言い回しである。つまり、メルとスクアーロが婚姻関係を築き上げたのは、今から5年後の未来のことらしい。


「で、それから5年ほどスクアーロ君は任務に就いて、今から10年後のつい昨日にその任務が終了した。そしたらあんたたちヴァリアーの幹部連中が、5年越しの結婚式だ何だのと私を飾り立てたってワケ。これで満足?」


「満足もクソもあるかぁぁぁぁぁっ!!!」


スクアーロは真っ赤を通り越して真っ青になった顔を怒りに歪ませ、憂さを晴らすように剣を振り回し始めた。音速の速さで繰り出される剣撃が空を切り裂いて室内だと言うのに風が生じ、ベルが「すずしー」などと呑気に呟く。しかしスクアーロは、その途中であることに気が付いたのか、ピタリと腕を止めた。


「う゛お゛ぉぉい、読めたぞぉ…。さては10年後のクソボスの差し金だなぁ…!!」


「何だいそれ、どういう意味?」


「俺は断じて結婚などしねえと、棒切れを振り回してた3歳のガキの頃から誓ってるんだぞぉ! 第一、いくら9代目のジジイが耄碌したところで、ヴァリアーの無力化なんぞするはずがねえ! 現段階でのボンゴレ幹部の4割がザンザスの駒なんだからなぁ!」


「5年後の話なんて、今の私たちが予想できなくてもおかしくないんじゃない〜? スクちゃんだって心変わりするかもしれないし〜」


「う゛お゛ぉい、誰が何のために5年後のことを考えて裏で動いてると思ってやがる!! 第一、ウチの掟を忘れたかぁ? ヴァリアーは成功率90%を下回る案件は引き受けねえ!! 例え本部からの命令だったとしてもなあ!! 俺がそんな弱音を吐くようなら、そいつは成功率0%の案件以外は有り得ねえ!! つまりこいつの三文芝居は、この時代のザンザスが10年バズーカをメルにぶちかますことを想定して、10年後のザンザスが仕掛けた悪ふざけってワケだぁ!! 違うかぁ!?」


スクアーロが自信半分、祈り半分にメルに視線を向けると、メルは驚いたようにスクアーロを見つめ返し、そして白い手袋に包まれた手で拍手をした。どうやらスクアーロの推測は当たっていたようだ。メルから反応が返ってくると、スクアーロは心の底から安堵した。


「スクアーロ君、さすがに私のパルトネルだっただけのことはあるね。確かにそんな任務は存在しないし、私がついさっきザンザスさんに拉致されたのは真実だよ。私は金さえ貰えば大抵のことはやるけど、まさかスクアーロ君をからかうためだけにザンザスさんに雇われるとは思わなかった」


「な、何ですって〜っ!! まさかそんなオチだなんてぇ〜!」


「ししっ、つまんねーの。王子さっさと昼寝しよ」


「ボスも人が悪いね。さすがは『趣味:スクアーロいびり』」


「マーモン、貴様! ボスに向かって何たる口の利き方を!」


「う゛お゛ぉぉい、テメェら他人事だと思いやがってぇ…!!」


「でも、1つだけ本当のことを話したよ」


メルは深紅のソファから立ち上がると、純白のウェディングドレスを重たそうに引きずりながら、スクアーロの真正面へと移動した。スクアーロは改めて、10年後のメルと相対する。よく見ればこの時代のメルに比べて、少し老けたような気がする。年齢のせいか丸くなった目尻が、ふっと細くなった。


「10年後、ボンゴレはあるファミリーと抗争になる。それがきっかけで、スクアーロ君は日本に飛ぶ。その時に言われたんだよ、『命綱になってくれ』って台詞はね」


メルがそこまで言うと、途端に『ボンッ!』という破裂音と共に、メルが白煙に包まれた。どうやら5分が経過し、10年バズーカの効果が切れたようだ。白煙が晴れると、よく見慣れたこの時代のメルが、何故か大皿に乗った生肉を手にその場に現れた。


「……なんか前髪を下ろしたザンザスさんから、『施しだ』って言われて押し付けられたんだけど……」


状況を呑み込めていないのか、一切の熱が込められていない口調でそう告げたメルに対し、去り際に爆弾を投下されたスクアーロはもう一度、言葉にならない叫び声を上げるのだった。


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