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HQ夢主と牛若のデートを尾行する白鳥沢



「今日こそは牛島さんに勝ってみせますっ!!」


白鳥沢学園男子バレー部の部室。数人の部員が着替えている中、唯一の1年生レギュラー、五色が高らかに宣言した。それを見て「がんばれー」などと呑気に応援する天童や獅音を尻目に、白布は呆れたように溜息を吐いた。


「そういうことはもっと実力をつけてから言えって、監督にも言われてるだろ」


「うぐっ…。こ、これから伸びるんです! 身長だってスパイクだって、まだまだ伸びしろだらけですから!」


「頑張って伸びてくれよ。それにしても若利、今日は珍しく遅いな」


「電車、遅延してるんだってさ〜。それより昨日の金ロー見た?」


「ほんとテレビっ子だなお前」


天童がテレビ番組の話をする中、五色は入念にシューズの紐を結んだ。今日こそあの大エース、牛島に「参った」と言わせてやる。そんな考えが丸わかりの表情を浮かべる五色に、白布がむっと眉を寄せる。後輩の未熟さは仕方ないとはいえ、それを棚に上げた分をわきまえない態度は気に食わないのだ。そのことを五色に言ったことで「ぶをわきまえないってどういう意味ですか?」などと頭の悪い質問をしてきそうなので、言いはしなかったが。


「工は見た? 昨日の金ロー」


「昨日の夜は腹筋500回やってました!」


「えぇ〜。せっかく『レシーブNo.1』やってたのに、バレーボーラーとしてそれはどうなのよ?」


「『レシーブNo.1』?」


ぽかんと口を開ける五色に、天童が意気揚々と解説する。『レシーブNo.1』とは15年前に放送されていた少年漫画を原作としたアニメで、怪我でアタッカーとしての道を断たれた主人公がレシーブを武器にリベロとしてインターハイ優勝を目指すという物語だ。当時、一大バレーブームを巻き起こした人気アニメで、このアニメを見てリベロを志した少年少女は数えきれない、らしい。


「そんで、昨日の金ローでやってたのは13年前に公開された劇場版。俺も昔、見に行ったんだよね〜」


「今になって見てみると、トンデモストーリーにバレー描写だけどな」


「でも、なんで今になってそんな昔のアニメが放送されたんですか?」


「それはだな、今日から『レシーブNo.1』の実写版が公開されるから! 要するに、その宣伝ってワケ」


「へぇ〜! そうなんですか!」


「五色、ほんとテレビとか全然見ないよな。天童とは正反対だわ」


興味深そうに眼を輝かせる五色に、瀬見が笑う。


「俺と天童、今日の練習が終わったら一緒に見に行くけど、お前も来るか?」


「えっ、いいんですか!? やったー! 行きます!」


「チケットは奢らないかんな〜」


「2年組は見に行かねえの?」


「俺はいいです、ぶっちゃけ地雷臭がするんで」


「川西と同じ理由で俺もいいです」


「はは、確かに」


淡白な2年生の反応に、獅音と山形が笑う。すると部室の扉が開き、遅れて若利がやってきた。その場にいる1、2年生が立ち上がり、挨拶をする。


「おはようございます」


「おはようございますっ!」


「おはよう。すまん、遅れた」


「おはよ〜。大丈夫っしょ、まだ練習前だし。若利君は昨日の金ロー見た?」


「見てない」


「お前わかってて聞いてるだろ」


「牛島さん、今日こそは俺がエースに相応しいと証明してみせます!」


「ああ、頑張れ」


いつもと変わらない雰囲気の中、白鳥沢の練習が始まろうとしていた。












練習が終わり、「用事がある」と先に帰ってしまった若利を除いた白鳥沢のレギュラー陣は、白鳥駅前のファミレスで昼食を取っていた。五色はというと、小学生の時以来の映画館、それも先輩と一緒ということで、そわそわとしながらカレイの煮つけ定食を食べていた。


「マジか、最後に行ったの小学生の時なんだ」


「ふぁい! 中学の時はバレーの練習で、むぐ、映画とか行く暇なかったです!」


「あー、それは仕方ないな」


「五色、食べながら喋んなよ」


「むぐっ…」


「はいはい白布、飯の時くらい、しかめっ面するのはやめなさい」


獅音が白布を宥める中、定食を食べ終えた五色は「ごちそうさまでした!」と手を合わせ、ふと窓の外に視線を向けた。それなりに発展した地域である白鳥市とはいえ、時間帯のせいか駅前に行きかう人は少ない。何となく駅前の様子を眺めていると、そこによく見慣れた男がいるのを見つけた。


「牛島さん!?」


「え?」


「あそこです、駅前のベンチ!」


「あれ、帰ったんじゃなかったっけ?」


五色の叫びに、その場にいる全員が反応して窓の外を見る。先に帰ったはずの若利が、駅前のベンチに座っていた。まるで誰かを待つように、たまに携帯電話を見ては駅の入り口をじっと見つめている。
その時、駅から黒いジャージを着た少女が出てきた。若利はその少女に気付くと立ち上がって、辺りを見回す少女のもとへ近づく。少女は若利に気付くと、笑顔を浮かべて駆け寄ってきた。その光景に、五色はあんぐりと口を開けて驚いている。


「うっ、牛島さんが女の子と一緒にいる!?」


「若利君、今日も女バレと一緒に練習してたじゃん」


「いや、空知さんとか鷲匠さんとかじゃなくて、ちゃんと背の低い可愛い女の子と…!」


「おい、空知さんに失礼だろうが殺すぞ」


「やめろ白布、ステーキナイフを構えんな! …っていうか、あれ凛々だろ? 別に珍しい光景でもないだろ」


「へ? 誰ですか?」


聞き覚えのない名前に、五色がきょとんとした表情を浮かべる。その間に、若利と凛々と呼ばれた少女はそのまま並んでどこかへ消えていく。「あっ!」と五色が叫んで、慌ててレシートを手に取り会計へ急いだ。


「すいませーんっ、お会計お願いしまーすっ!」


「あっ、五色! 何する気だお前!?」


「牛島さんが俺より先に彼女できてるとか認めませんっ! バレーはまだ敵わなくても、女の子の扱いに関しては俺の方が上だって確認してきますっ!」


「おいコラ、2人に迷惑かけんな! っていうかあいつらまだ付き合ってねえから! 時間の問題だとは思うけど!」


「面白くなってきたじゃ〜ん! 行こ行こ、英太君!」


「あの馬鹿、いい加減にしろっつーの…!」


「あれ、白布も行くの」


「牛島さんに迷惑かけたりしないかどうか見張るだけ!」


「気を付けろよー」


「迷惑かけねえようにだけしろよ」


牛島を追う五色、その五色を追う瀬見と白布、面白そうな展開に心躍らせる天童を、残された3人は生暖かい目で見送った。












並んで歩く若利と凛々を、五色、白布、瀬見、天童の4人が少し離れた場所から尾行する。第三者から見ればかなり異様な光景ではあるが、尾行されてる2人は全く気付いていないようだ。白布は自分の行動の間抜けさを嘆きながら、徐々に歩行速度を上げて2人に近づいていく五色の首根っこを引っ張って止める。


「やめろ、気付かれる!」


「すっ、すいませんっ! …でも、結局あの子は誰なんですか? そんな全員公認みたいな子なんですか?」


「あの子は若利君の幼馴染ちゃん! インハイの時に巴と若利君がべた褒めしてた子ダヨ」


「なんですって!? あの子が話に聞く…!」


よく話に聞いていた高いテクニックを誇る選手が目の前の少女と知り、五色のライバル心に火がつく。瀬見はそんな五色を見て、やれやれと溜息を吐いた。
2人を追っていくと、若者たちが行きかう繁華街へやってきた。この場に全く似つかわしくない若利の姿に、天童が面白そうに携帯電話で写真を撮り始める。


「あーおもしろっ! 若利君がこんなところ来るとか想像もつかなかったわ〜」


「ってか、どこ行くんだあいつら? この辺を通り過ぎたら、あとはめぼしいところと言えば映画館くらいしか…」


「…まさか、あの2人も『レシーブNo.1』見に行くとか?」


「ぶっふぉ!」


白布の言葉に、天童が吹き出す。「しーっ!」と五色と瀬見に注意され、天童は慌てて口を押えた。


「いやだって、若利君が映画見るってだけでも面白いのに、スポ根アニメの実写版を見に行くとか面白すぎて…! ぶふぉっ」


「天童さんは牛島さんを何だと思ってるんですか」


「あっ! 映画館の前で止まりましたよ!」


五色が指さした先に、赤い壁が印象的なシネコンの映画館の前に立つ2人の姿があった。4人は少し離れた位置で2人の会話を盗み聞きする。入口前に展示されている、バレーボールを持った有名な男性アイドルを中心に出演俳優が並ぶポスターを、凛々が指さして笑った。


「ほらこれ! 若ちゃん覚えてない? 再放送やってたの、小さいときに見てたじゃない」


「あのバレーの描写が荒唐無稽なアニメか」


「こうとうむけい…?」


「根拠がなく、でたらめだということだ」


「ま、まあ子供向けだから…。でもあのロケットレシーブは憧れたなぁ〜。アタックラインより前に打ってくるカミソリアタックをレシーブするために、後衛に構えてた主人公がロケットみたいにドカーンと飛んでいってレシーブするの!」


「なぜ後衛にいるリベロが、前衛に打たれたスパイクをレシーブするんだ? それは前衛のレシーバーが上げるべきだろう」


「…若ちゃん、そこ突っ込んじゃダメなところ。けどね、どんなアタックも自分がレシーブしてやる!って気持ちが大切だって、私はこのアニメで学んだんだよ」


「そうか。それは、いいことだな」


「うん!」


照りつけるような陽射しが差す真夏日であるにも関わらず、その一帯だけ春風が吹き柔らかな陽射しが差しているかのような雰囲気に、五色は開口しすぎて顎が外れそうになっていた。他3人は慣れているのか、どことなく和やかに若利と凛々を見守っている。2人が映画館の中に入っていくと、耐えきれなかったかのように五色が叫んだ。


「誰ですかあれは!?」


「若利君」


「若利だよ」


「牛島さんだよ」


「嘘つかないでください、間違いなく中の人が違いますよね!?」


「中の人などいない!」


白布が五色のおかっぱ頭を叩いて突っ込む。それでも、五色は目の前の光景が信じられなかった。いつも自分が勝負を挑んでも、冷徹と言ってもいいほどの無表情で「ああ、頑張れ」としか言わなかったあの牛島若利が、柔らかな表情を浮かべて少女を見つめていたなどと。おまけに『若ちゃん』などと呼ばれているなどと。


「ま、でもちょうどよかったんじゃん? 俺らも同じの見る予定だったわけだし。せっかくだし賢二郎も見ようぜ〜」


「え、いや俺はいいです。地雷を踏むのはごめんなんで」


「そんなの見てみなきゃわかんないじゃ〜ん」


乗り気でない白布を無理に連れて、天童が映画館へ向かう。それに続いてショック状態の五色を引っ張って瀬見が映画館へ向かうと、またもや見覚えのある人物が映画館から出てきた。


「あれ? 天童と白布じゃん」


「それに、瀬見くんと五色くんも」


「空知さん!」


「あと、巴? なにしてんの?」


映画館から出てきたのは、練習後そのままのジャージ姿の白鳥沢女子バレー部の主将とエース、空知小鳩と鷲匠巴だった。白布の背がぴしゃりと伸び、他の5人は小鳩に促されて他の客の邪魔にならないような位置に移動する。


「巴と一緒に『レシーブNo.1』見に来たの。バレーの実写映画って珍しいし、私も昔アニメ見てたから」


「そうなんですか、どうでしたか?」


「すっげーつまんなかった! 超クソ映画! チケット代かえせって感じ!」


「ちょ、これから見に行く奴に向かってそういうこと言うなよ!」


「っていうか役者が全員バレー下手すぎて、それが気になっちゃって何も頭に入ってこなかった! だよね、小鳩!」


「う、うん、確かにちょっと擁護しがたかったね…。ディティールって大事だなって、改めて感じたというか…」


「へ〜。若利君、どんな反応すっかな」


「えっ!? う、牛島くん!? 来てるの!?」


その名前を聞いた瞬間、目に見えてうろたえる小鳩に、白布を覗いた全員が笑ってしまう。それに気付いた小鳩が慌てて平静を装うが、時すでに遅しだった。


「さっき入ってったぞ、会わなかったか?」


「うそ、気付かなかった…」


「人多かったし、しゃーないんじゃん?」


「それに空知さんがあの牛島さんに会ったらショックもでか…むぐぁっ!?」


五色の口を白布が手荒に塞ぎ、顎を掴む手にギリギリと力を込めた。言葉にならない叫び声を上げる五色は気にせず、白布は小鳩に笑みを返す。


「明日、牛島さんに感想でも聞いてみてはいかがですか? 俺らもこれから見に行きますし、また明日にネタバレ込みの感想、聞かせてくださいね」


「むご!?」


「そうだね、白布くんの感想もぜひ聞きたいな。それじゃあ、また明日ね」


「あっ、ロケットレシーブのシーンめっちゃ笑えるから、そこは起きてた方がいいよ!」


「寝てたのかよ」


「気を付けろよ、また明日の練習でな!」


そのまま映画館を後にする小鳩と巴を見送り、白布は五色の口元を掴んでいた手を離した。ぷはぁ、と一気に呼吸を取り戻す五色を放っておき、白布は映画館の中へと進んでいく。


「あれ、堅二郎めっちゃノリノリじゃん」


「地雷を踏むのはごめんだとか言ってなかったか?」


「瀬見さん、うるさいです。早くしないと次の回、始まりますよ」


「なんで俺にだけそんな反応なんだよ!?」


「はっ! そうだ、牛島さんと幼馴染さん! きっと一緒の回ですよね!?」


白布を追い、五色が駆け足で映画館の中に入る。どこまでもマイペースな後輩たちに笑いながら、天童は納得できなさそうにしかめ面を浮かべる瀬見を連れて映画館の中へ向かった。












土曜日だということもあってか、まあまあ広い劇場の客席はほとんど埋まっていた。人混みのおかげで若利に気付かれることなく前方の客席に辿り着いた4人は、上映前の僅かな時間の間、後方の客席に座っている若利と凛々を見ていた。大量のポップコーンやらホットドッグやらを手にする若利に、天童がまた吹き出す。


「ぶふぉっ、女の子との映画鑑賞でアレはどうなの?」


「いや、隣の凛々も同じような量のホットドッグ食ってんぞ…」


「ぐぬぬぬぬ、俺だってホットドッグ5個くらい余裕です! ただお金が足りなかったから3個にしておいただけで…!」


「コンセから『またホットドッグかよ!』って声聞こえてきたからネ」


ニコニコと笑顔を浮かべてホットドッグを頬張る凛々とは対照的に、若利は無表情でただ無心にホットドッグを食べている。食べているというよりは、胃に入れているという表現の方が正しいその姿に、天童の腹筋が限界に達しようとしていた。


「若ちゃん、先にお昼食べてればよかったのに」


「もう食べた、お前が買っているのを見たら食いたくなっただけだ」


「だってお腹空いちゃったんだもん。映画館で食べるポップコーンとホットドッグって、なんでこんな美味しいんだろう!」


「どこで食べても味は変わらないだろう。…あぁ、凛々」


「ん?」


ケチャップとマスタードのたっぷりかかったホットドッグを頬張る凛々の顔に、若利が手を伸ばす。そしてポニーテールにまとめきれず垂れている凛々の髪を、彼女の耳にかけた。


「髪にケチャップがつく」


「むぐ、ありがと」


「口の端についている」


「あっ、ほんとだ」


口の端についたケチャップを舐めとる凛々と、そんな凛々の様子をどこか柔らかな表情で見ている若利に、今度は五色だけではなく瀬見や白布、天童までもが開口せざるを得なかった。


「え、なにあれ。俺、男だけど『抱いて!』ってなったんだケド」


「耳にファサッ、ってやりましたよ!? 壁ドンとか顎クイ的なアレですか!?」


「あれを天然でやる牛島さんってやっぱりどこか変ですよね、いや知ってましたけど」


「なんであの2人付き合ってねえんだ…? いい加減に空知が可哀想になってきた…」


若利たちには聞こえない程度の声量でワイワイと騒ぐ4人に、周りの客が不審そうな視線を向ける。すると場内の照明が暗くなり、スクリーンに海賊版撲滅キャンペーンのCMが流れ始めた。それまで後ろを見ていた4人も、本来の目的である映画鑑賞に専念するため、前に向き直る。


「まあでも、空知と巴の反応的にも、あんまり期待しないでおくか…」


「いや、あのバレー馬鹿は、バレーが上手ければ良作、下手なら駄作って判断しかできないだろうし。そこを無視すれば、案外面白いんじゃないの?」


「でもそういうのって気になっちまうよな。キャッチボールした瞬間に、こいつ下手だろってわかっちまうとかさ」


「バレー部あるあるだよね〜」


スクリーンに映るCMが終わると、場内が完全に暗くなる。五色はすぐ近くの観客の顔までもが見えなくなるまで、後ろの2人を気にしていた。












「くっっっっそつまんなかったな!」


映画が終わり、同じ劇場内に若利がいることも忘れて、瀬見が叫んだ。瀬見だけでなく、同じような叫びが場内のあちこちで聞こえてくる。白布はおろか、天童と五色までもがぐったりとして前の席の背もたれに寄りかかっていた。


「よ、ようやく終わったんですね…恐ろしいほどつまんなかったです…」


「だから見るの嫌だったのに…」


「拷問かと思ったヨ〜…。これを2時間も見るくらいだったら、鍛治君のワンマンレシーブを1時間やってた方がまだマシ」


映画の出来は、言葉にならないほど酷いものだった。俳優陣の棒演技、支離滅裂なストーリー、そしてバレー経験者でなくとも酷いとわかるバレーシーン。ちなみに巴が「めっちゃ笑える」と言っていたロケットレシーブのシーンは、主人公の心象風景として本物のロケットの映像を挟み込むという稚拙な演出で、爆笑というよりは失笑が起こっていた。約2時間の不毛な時間を終え、逃げるように劇場から出ていく観客の中、4人は後方の若利と凛々に振り返ったが、帰る観客に遮られて姿が見えない。


「若利君カワイソー、デートで見た映画がクソ映画とか」


「ど、どうしましょう、本当に酷い映画は恋人の仲すらぶち壊すと言いますし…!」


「いや、あいつら付き合ってねえから…時間の問題だとは思うけど」


「…いや、どうやら大丈夫そうですよ」


白布がぼそっと呟いた言葉に、他3人が首をかしげる。しかしその意味は、ほとんどの観客が場内から出ていったその時、納得できてしまった。
若利と凛々は、2人とも眠っていた。凛々は若利の肩にもたれかかり、若利はいつもの美しい姿勢を僅かに崩し、凛々側の手すりに少し寄りかかるような体勢になっている。今までスクリーン上に映っていた画よりも、よっぽど画になるその光景に、五色以外の3人の顔がほころんだ。


「まあ、あれなら確かに大丈夫そうだな」


「っていうか牛島さんって眠るんですね…」


「若利君は普通に授業中に寝たりするよ〜」


「えっ!? マジですか!?」


「五色、大声出すな、牛島さんに聞こえる!」


その声が聞こえたのか、若利がぱちっと目を開けた。五色は慌てて座席の陰に隠れようとするも、ばっちりと若利と目が合ってしまう。五色、白布、瀬見がなんと言い訳しようかと慌てふためいていると、若利は冷静に辺りを見回して映画が終わったことを確認し、そして自分の肩にもたれかかったまま眠っている凛々を見た。再び4人に視線を戻すと、「静かにしろ」とでも言うかのように、口元に指を当てた。4人、主に五色が衝撃を受けている中、若利は至って冷静に肩をずらさないままホットドッグやポップコーンの容器をまとめ始める。


「あ、あの牛島さんが、しーって、しーってやりましたよ…!?」


「俺、若利君になら抱かれてもいいわ」


「真顔で何言ってんだお前」


「さあ、早く出ますよ。五色、さっさと出ろ、お前が一番端なんだから」


「は、はい…なんだこの敗北感…」


白布に急き立てられ、五色を先頭に4人が劇場から出ていく。その間も、凛々が目を覚ますことも、若利が凛々を起こすこともなかった。









後日談


「こないだ見た『レシーブNo.1』、有名な映画評論サイトで100点満点中、2点だったんだってさ〜」


「逆に2点もあったのかよ、映画を見てる最中ほんとに苦痛以外の何物でもなかったぞ」


「牛島さんはどうでした? と言っても、途中から寝てたでしょうけど…」


「そもそも、スパイクを打てないほどの肩の怪我を負っておきながら、全国優勝校のエースのスパイクをレシーブできるというのは現実的にあり得ないんじゃないか、と思った」


「まあ、それ言われちゃうと原作からそうだから何とも言えないんだけど」


「ってか若利君と幼馴染ちゃんは、どの辺から寝てたの?」


「マネージャーが主人公に告白するシーンのあたりからだな。あのシーン以降の記憶がない」


「ああいうのってむしろ、女の子とかカップル向けに入れてるシーンなんだけどね」


「この2人には全くハマらないよなぁ…」

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