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HQ夢主と牛若がお互いの気持ちに気付いた話



未来捏造、夢主たちが成人後の話です。


















「あ、あのですね…結婚することになりました…」


笑い声で騒がしい居酒屋の座敷席で、凛々は恥ずかしそうにどもりながらそう告げた。それを聞いていた日向、影山、月島、山口の男4人、そして仁花、翠の女2人、凛々と高校時代の同期仲間一同は、揃いも揃ってこう叫ぶ。


「「「やっとか」」」


「え、えぇっ!? やっとって何!?」


「だって、うちら的には凛々の大学卒業と同時に結婚、みたいなコースでいくと思ってたのにさ」


「気がつけば僕たちも20代後半に突入してるんだけど」


「い、一般的には速い結婚だけどね!」


「でも、そっかー! これで凛々も『牛島凛々』になるのか!」


「おめでとうございますって牛島さんにも言っといてくれ」


「う、うぅっ…! ありがたいけど恥ずかしい…!」


各々好き勝手に祝う同期達に、凛々は酒を飲んだわけでもないのに、顔が真っ赤になった。彼らと初めて出会った日から、もう10年近い年数が経っている。環境や立場が変わっても、不思議とその縁が切れることはなく、こうしてたまに顔を合わせてはお互いの近況を報告しあっていた。そして今回、凛々は当時からの恋人、牛島若利と結婚する、という自分の近況を報告したという訳なのだ。


「っていうか、君たちっていつから付き合ってるんだっけ? 気付いたら付き合ってたような感じだったけど」


「このバカップル、付き合っていない時期ですら付き合ってるみたいな雰囲気だったから、一体どの時期に付き合い始めたのかよくわかんないよね」


「コラ翠! バカップルって言い方するのやめない!?」


「あんたら2人は満場一致でバカップルだよ」


しかし、返ってきた反応がこれである。数年前、先輩である大地と結、2人の結婚報告を受けた時とは大違いだ。あの時は全員が全員、感動のあまり涙を流してお祝いしたというのに、などと凛々は憤慨した。その時ですら、ほとんどの者たちは心の中で「やっとか」と思っていたのは、凛々には知る由もない。


「じゃあ、今日の烏野バレー部同窓会は、凛々のお祝いってことだな!」


「ってことは僕たち下々の連中に奢ってくれるんですよね〜、幸せ者の牛島凛々さんは〜」


「誰が奢るかーッ! ツッキー、この中では一番の高給取りのクセに!」


「と、とりあえず飲み物も来たし、乾杯しましょう! カンパーイ!」


仁花がカシスオレンジのグラス片手に音頭を取ると、7人が揃って「カンパーイ!」と各々のグラスを掲げた。成人後、アルコール類が全く駄目な体質だと発覚した凛々以外の面々が酒を飲む中、凛々はよく冷えたウーロン茶のグラスを頬に当て、気恥ずかしさで熱くなった顔を冷ます。


「結局、お前はいつから牛島さんと付き合ってたんだ?」


ところが、生ビールを1口でジョッキの半分近くまで飲み干した影山が、平然とした口調で凛々に質問してきた。思わず吹き出しそうになりながら、再び顔を赤くした凛々に、全員の注目が集まる。


「そ、それ、言わなきゃダメなの!?」


「当たり前デショ。ああいう報告をしたからには、今回は君と牛島さん以外の話はしないと思いなよ」


「そんでいつ? やっぱ高1の時?」


「春高前? 春高後?」


「っていうかどっちが告ったの? その時の口説き文句は?」


「ちょ、ちょっと待ってってばーっ! やっちゃん、助けてーっ!」


ニヤニヤしながら容赦なく追及してくる月島と翠から逃れようと、凛々は隣に座っていた仁花の小さな背中に隠れた。仁花はあたふたと慌てながら、それでも凛々を庇おうと細い腕を広げて、MB組2人から凛々をガードする。その様子を見ながら、日向と山口がゲラゲラと笑っていた。


「あははは! ほんと変わんないよね、みんな!」


「翔陽もぐっちーも、人の気も知らないで笑いおって〜…! 私がどれだけ恥ずかしいかわかってんのかーっ!」


(わ、私もかなり気になるんだけど…でもこの状況でそうは言えないよね…)


「わーったよ、もう。じゃあここは妥協するから、初めて牛島さんに対して『あれこの人、私のこと好きなのかな』って思った瞬間を述べよ。それで勘弁したげる」


「え、えぇぇ〜…?」


「八田さんにしては珍しく譲歩したね」


「まあ、めでたい席ですから」


ほろ酔いなのか、凛々の結婚に喜んでるのか、翠は機嫌がよさそうにグラスを傾けながら、凛々にそう問いかけ直した。凛々は恥ずかしそうに頬を赤らめながらも、考え込むように首を捻る。


「う〜ん…初めてっていうと…あの時かなぁ…?」


「お、なになに、いついつ?」


「えっとね…小学5年生の時…」


「「「は?」」」


凛々の答えに、翠だけでなく月島や山口、日向や影山まで素っ頓狂な返事を返す。というのも彼らの予測では、凛々と若利が付き合い始めたと思われる高校生時代と答えるのだろうと思われていたが、その予想よりも随分早い段階で若利からの好意を自覚していた、というのだから、思わず驚いてしまったのだった。


「い、いや、その時は勘違いだと思ってたんだよ!? いわゆる『吊り橋効果』ってヤツなのかなーって…」


「吊り橋効果?」


「とりあえず話してみてよ、その時のこと。君が小5ってことは、牛島さんが中1の時?」


「う、うん。その年の中総体の決勝のときなんだけど…」















当時10歳の凛々は、白鳥沢学園中等部と北川第一中学の決勝戦を観に来ていた。その頃、若利は既にスターティングメンバー入りしており、次期エースとして大いに期待を寄せられていた。試合の結果は、白鳥沢がストレートで北川第一を降し、その試合で大いに活躍した若利は『怪童』という異名をバレー界に轟かせることとなった。


「若ちゃん!」


「凛々、来ていたのか」


「すっっっっごかったよ、今日の若ちゃん! いや、いつもすごいんだけど、でもさっきの試合はいつまでも見ていたいぐらいすごかった!」


試合後、2人が会場である市民体育館のロビーで鉢合わせた時、勝利の余韻に浸るということもなく平静そのままだった若利に対し、凛々は興奮状態だった。まるで自分のことのように喜んでいる凛々を、若利は「どうしてお前が喜ぶ?」とでも言うかのような眼で見下ろす。その時、若利の先輩にあたる中学3年生の選手が5人ほど、ロビーへとやってきた。


「おい若利! こんなとこにいたのか、探したぞ」


「すみません、すぐ戻ります。凛々、俺はもう行く。話はまた後だ」


「誰だその子? 妹か?」


「いや、妹にしては似てないだろ。…まさか若利の彼女か!?」


「なにっ!? 若利の彼女!?」


「え、めっちゃちっちゃくね? 何歳?」


「小学生だよな? 若利、隅に置けないヤツだな!」


「名前なんていうのー?」


3年生選手は揃って物珍しそうに、凛々を囲って覗き込んできたので、凛々はビクッと身体を硬直させた。中学生とはいえ、王者白鳥沢の主力選手たちはさすがに体格が良く、中学1年生時点での若利よりも背が高い者ばかりである。恐らく、彼らは彼らなりにフレンドリーに接しているつもりなのだろうが、そんな屈強な体格の男たちに面白そうなものを見るような眼で見下ろされるのは、いくら凛々といえど怖がってしまうのは致し方ないだろう。次々に投げかけられてくる質問に、凛々は身体が強張ってしまって答えることができないでいた。


「……」


だが、それを見計らってか否か、凛々の隣に立っていた若利は羽織っていたジャージを脱ぎ、それを凛々の頭から覆い被せた。いきなりおばけの仮装のような状態にされた凛々は「ふぎゃ!?」と叫んでバタバタと暴れ出したが、後ろから若利に抱きすくめられて動きを封じられる。若利の先輩たちはいきなり突飛な行動に出た若利に「!?」と驚いていたが、若利は普段と何一つ変わらない無表情で、こう言ってのけた。


「あまり見ないでください」


その余りにもストレートすぎる言葉に、5人とも辛うじて「わ、悪い」としか応えられなかった。凛々は若利の様子に驚きつつも、そろそろ息苦しくなってきたので、自分を押さえつけている若利の腕をべちべちと叩き、拘束状態から逃れる。


「ぷはぁっ! い、いきなり何すんの!? びっくりしたじゃん!」


「見られて困っていただろう」


「た、確かに困ってたんだけど…でもいきなりあんなことされたら、それはそれで困るわ!」


「そうか、以降気を付ける」


凛々の言っている意味がわかっているのかわかっていないのか、天然丸だしな返事をする若利に、凛々は全身の力が抜けていくのを感じた。若利の先輩たちは気まずそうに「そ、それじゃあ俺らは戻るわー…」とロビーから去っていき、広いロビーに凛々と若利だけが残される。


「で、でも、ちょっと怖かったのは確かだから…。ありがとね、若ちゃん」


「いや、問題ない。それに…」


「それに?」


「お前が見られることが、俺が嫌だっただけだ」


少しも表情を変えず、若利はそう言った。凛々は一瞬、その言葉の真意が読み取れず、「それはどういう意味か」と聞こうとしたが、なんとなく気恥ずかしく感じたために口には出さなかった。その時、自分の心臓がやけに忙しなく動き始めたが、それはきっと、いきなり頭からジャージで覆われて驚いたからだろうと、この時の凛々は結論付けたのだった。















「…ってことがあって、一瞬だけ『まさかな』って思ったんだけど、でも若ちゃんに限ってそれはないと思…ってなにその目!?」


話している最中、凛々は他6人全員から向けられた生暖かい目に気付き、恥ずかしそうに顔を覆い隠した。話の発端となった翠は甘ったるそうに舌を出し、グラスに残っていたモスコミュールを一気に呷る。


「なんであんたら、もっと早くにくっつかなかったの? 不思議で仕方ないんだけど」


「どっちも天然って面倒くさ」


「いくらなんでも、俺ですら『それはおかしい』と思うぞ」


「影山がこんなこと言うなんて相当だぞ! 凛々、どんだけ鈍感なんだよ!」


「日向と影山に言われちゃ、おしまいだね…」


「なにさ、みんなして! やっちゃーん、みんなが私のこと馬鹿にしたような眼で見てくるよー!」


(さ、さすがにそれは、私でも擁護できないかな…)


ウーロン茶片手に抱き付いてきた凛々に、仁花は引き攣った笑みを返した。















「そっか〜。若利君もついに『サイタイシャ』か、月日が流れるのって早いねぇ」


一方その頃。高校時代の盟友、若利と数年ぶりに顔を合わせた天童は、天童のお気に入りのバーで並んで酒を呑み交わしていた。と言っても、プロバレーボール選手となった若利は相変わらずバレーに対してストイックで、酒を呑んだのは最初の一杯だけであったが、天童も無理に勧めようとは決してしなかった。


「とりあえず、結婚式には呼んでよ〜! それと凛々チャンに『おめでとう』って言っといて」


「あぁ」


「でも、『ああ、やっとか』って感じするよね。若利君と凛々チャンはもっと早く結婚するって思ってたからさ」


「報告をした相手全員からそう言われる」


「アハハ、だろうね〜」


天童にとっても嬉しい知らせを聞いて良い具合に酔った為か、いつもより大きな笑い声が出た。若利の表情も、年齢によるものもあるかもしれないが、どことなく柔らかい。友人が幸せなことは良いことだ、天童はそう思いながら空いたグラスをカウンターへ置いた。


「…『結婚しよう』と告げる勇気が出なかった」


ふと、若利が小さな声でそう呟いた。常から誇り高く高潔な若利らしくない言葉に、天童はその大きな瞳を丸くして、右隣に座る若利を見る。


「結婚というのは、人生を共にするということだろう。いつか俺にもバレーができなくなる時が来る。凛々はそうなった俺と人生を共にしてくれるのだろうかと、そう思ってしまうともう駄目だった。バレーの無い俺自身に好意を抱いてくれる相手がいると、どうしても信じることができなかった」


「……あー、それめっちゃわかるな……。でも、なんか考えが変わることでもあったんだ?」


「…先月の話だが」


酔っている訳ではないようだが、いつもと比べれば饒舌な若利の話に、天童も真剣に耳を傾ける。若利は少しだけ目を細め、粛々と語り出した。


「父が帰国して、俺と凛々と父の3人で食事に行った」


「ほうほう」


「その時、凛々は父に向かって、俺を生んでくれてありがとうと、そう言った」


「ふんふん」


「その時、結婚を申し込もうと決めた」


「えっ」


いきなりすぎる展開に、天童は思わず素っ頓狂な反応をしてしまった。若利の突飛な発言には慣れたつもりではいたものの、さすがに今の流れは予測できなかった。若利は平然とした表情で、その言葉の真意を語る。


「それまで、凛々は俺の『バレー』を好きでいてくれているのだと思っていた。だから、もし父に何か言ったとしても、それはきっとバレーのことだろうと思っていた」


「あ〜…で、実際のところは違かったと?」


「ああ。俺がバレーを始めたのは父の影響だと凛々も知っているはずなのに、凛々は『俺にバレーを教えてくれてありがとう』とは言わなかった。父のことを、俺にバレーを与えた者としてではなく、俺の父として見ているのだと、そう気付いた」


「そんで、凛々ちゃんが若利君を1人の人間として見てるんだってことに気付いて、プロポーズする勇気が出たってコト?」


「そういうことだ」


話の入り口は深刻そうだったのに、いざ語り終えるとアッサリとした態度を見せる若利に、天童は吹き出しそうになったのを何とか堪えた。高校時代から、バレー以外のところではあまりにも抜けている、正直に言えばポンコツのような男だったが、ここまでとは思いもしなかった。だが、かつてに較べて選手としても人間としても成長し、誰かを信頼し愛することを学んだらしい友人に、心からの祝福の気持ちが湧いてくる。


「ま、若利君のそれは杞憂だったってコトだね! それはともかく、二次会の余興は俺に任せてネ〜」


「あぁ、頼んだ」


「…あ、待てよ、いいこと思いついた! 二次会なんだけどさ、近くの体育館貸し切ってさ…」


天童はふと、若利と凛々の結婚披露宴には相応しい余興を思いつき、若利に説明をし始める。それを真面目に聞く若利の姿に、天童は先ほど何とか堪えた笑いが込み上げそうになった。


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