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殺し屋探偵×ルパン三世×名探偵コナン・前編



自然豊かなヴェスパニア王国。かつての女王の名を冠す美しい花が咲き誇るこの国へ、同じ花を象徴とする極東の国より客人がやってきた。


「蘭! コナン! 小五郎さん!」


「ミラ王女! …じゃなくて女王様、お久しぶりです!」


「もう、ミラでいいって言ってるのに! 日本から遥々よく来てくれたわね、歓迎するわ」


ヴェスパニア王宮の応接間で、この国の女王であるミラは心からの笑顔を浮かべながら、日本からやってきた江戸川コナン、毛利蘭、毛利小五郎の3人を迎えた。『女王』と相対してどこか緊張した面持ちの蘭の肩をミラがポンと叩き、その変わらぬ様子にコナンはどこか嬉しい気持ちを覚えた。
かつて、ミラの叔父であり、ミラの母と兄を殺害した反逆者、ジラードが起こした事件をここにいる小さな探偵、コナンと『思わぬ助っ人』が見事に解決した。それからというもの、母の跡を継いで女王となったミラは、解決に尽力したコナン、蘭、小五郎の3人を、国や立場を越えた友人として丁重に扱ってくれる。今回は来週の日曜日にヴェスパニアで行われる、日本とヴェスパニアの国交50周年を祝した記念式典へ、一般市民である3人を招待してくれたのだ。


「記念式典なぁ〜…。堅苦しいのはごめんなんだぞ、酒は飲めんのか?」


「もう、お父さん! せっかくミラさんが招待してくれたのに!」


「ふふっ、そう言うと思ったわ。式典後には王宮でパーティーだから、小五郎さんも安心して楽しんでよね」


「うおぉぉぉ! さっすがは女王様! ってことはパーティー会場でセレブな美人とお知り合いになっちゃったりなんてしちゃったり、むはー!」


(相手が女王だろうが何だろうが、おっちゃんはおっちゃんだな…)


「ミラ様、失礼します」


4人が暫くぶりの再会の喜びの余韻に浸っていると、3回ほどの規則正しいノック音がした後、ミラの従属であるキース・ダン・フィンガーが入室してきた。キースは部屋に入るなり、恭しくコナン達に向かって頭を下げる。


「お三方、ようこそお越しくださいました。我々ヴェスパニア王国はあなた方を歓迎致します」


「な、なんだぁ? やけに下手に出てきやがって…」


「ちょっとお父さん! すみません、キースさん!」


「いえ、小五郎様の仰ることはごもっともですので。蘭様はお気になさらず」


「さ、様? そんな、普通に呼び捨てでいいですよ!」


「そうは参りません。小五郎様、蘭様、コナン様は我が女王が直々に招待された、言わば国賓なのですから」


やけに丁寧な物腰のキースに、その忠誠心故に横暴とも言える態度を取っていたキースの印象が強い小五郎や蘭は、違和感を覚えざるを得なかった。とはいえ、どちらかといえば今の姿こそが本来のキースなのだろう。キースから蘭を隠すようにして立つ小五郎の姿に、コナンは子供らしい「あははははー」という笑い声をあげた。


「そうだ、蘭! ついこの間、ヴェスパニアの桜も満開になったのよ!」


「えっ! すごい、日本はまだ蕾が開き始めたぐらいなのに!」


「あっ、ぼくニュースで見たよ! ヴェスパニアの方が気候が暖かいから、日本より早く咲くんだよね?」


「相変わらず妙に博識ね、コナンは。今年の桜は、日本の桜にも負けないくらい綺麗よ! あなた達が来たら、一緒に見にいきたいと思ってたの! 行きましょう!」


「ミラ様、皆様は遥々日本からお越しになったばかりです。旅の疲れもあるでしょう、今日はお休みになっていただいて…」


「大丈夫ですよ! それに、私たちもヴェスパニアの桜を見に行きたいって、飛行機の中で話してたところですから! ね、コナンくん?」


「うん! ぼく、まだ疲れてないから大丈夫だよ!」


仮にも女王の前だというのに面倒くさそうに欠伸をする小五郎を無視して、コナンと蘭が顔を見合わせて笑う。2人の反応に気を良くしたミラは、さっそく蘭とコナンの腕を掴んで部屋を飛び出した。「うわっ!」と声をあげた蘭とコナンは、腕を引かれるままに走り出す。ドレス姿だというのにお構いなしのミラに、キースが慌ててその背を追った。


「ミラ様! お待ちください!」


「ちょっ、ちょっとミラさん! お仕事とかいいんですか!?」


「いいの、もう今日の公務は終わったから! それに今日は朝からずっと公務室にこもりきりで、もう飽き飽きしてたところだったの! 空港まで蘭たちを迎えに行きたかったのを我慢したんだから、これぐらい許されるわよ!」


(おいおい、女王になってからおてんばが悪化してねえか…?)


かつて日本を訪れた時と変わらないお転婆ぶりに、コナンはほとほと呆れながらも、その変わらなさがミラらしいと思った。キースの追跡を受けながらミラと一緒に走っていると、王宮を出て自然豊かな庭園を通り、ヴェスパニア王家の紋章が刻まれた煌びやかな車のもとへ辿り着いた。明らかに高級車、それも何か特別なものらしい車だ。


「女王専用の送迎車よ! さ、乗って!」


「ええっ!?」


「そ、そんな凄い車、ぼくと蘭ねーちゃんが乗っていいの?」


「いいのよ、蘭もコナンも特別! 私の華麗なハンドルさばき、見せてあげるわ!」


「ミラ様、いけません!」


車のキーを見せつけながら運転席の扉を開け、乗り込もうとしたミラの手を、ようやく追いついたキースが掴んで制止した。ミラがムッとしたように振り返るなり、その手に持っていた車のキーを奪われる。


「あっ!」


「いつの間に私のキーを…! 女王たるものが手癖が悪いようではいけません! 第一、ミラ様に運転などさせられません。どうしてもお行きになるというならば、私が運転手を務めさせていただきます」


「何でよ、私だって運転免許ぐらい持ってるわよ! それに、キースじゃなくて私が、蘭たちをあの桜のところまで連れて行きたいの!」


キーを取り返そうと手を伸ばしながら、キースと押し問答を繰り広げるミラを、コナンと蘭は苦笑いを浮かべながら見ていた。即位の時の女王の威厳に満ちた高貴さはどこへ行ったのやら、ミラはまるで大好きな友達と遊ぶ子供のようにはしゃいでいる。


「…ん?」


ふとその時、コナンが何かに気付いた。蘭の隣から離れ、キーの取り合いをしているミラとキースの傍をすり抜け、先ほどミラが開いた運転席の扉のもとへ移動し、ある一点を注視する。
扉の側面に、桜の花びららしきピンク色の小さな物体がこびりついていた。恐らく、扉を閉めた時に挟まったらしく、花びらの縁が潰れて扉の金属部分を少しだけ汚している。手に取ってみると、まだしっとりとした感触が残っており、散ったばかりの真新しい桜の花びらであることが伺えた。


「とにかく、私が蘭たちを桜を見せに連れて行きたいの! こればかりは譲れません!」


「ご自分の身分をお考えください! 本来であれば、予定にない行動は慎むべきお立場なのですよ!」


「うん、桜を見に行くのはやめたほうがいいよ、ミラさん」


「えっ?」


急に聞こえてきたコナンの真剣そうな声に、言い争っていたミラとキースが押し黙る。そこへ小五郎が遅れてやってきて、その場が妙な雰囲気になりつつあるのを察して首を傾げた。


「なんだぁ? 桜を見に行くんじゃねえのか?」


「そ、そうなんだけど…。コナンくん、どういうこと?」


蘭がコナンに問いかけると、コナンはその幼い容姿に似つかわしくない鋭い眼差しで、その場にいる4人を見やった。


「この車、多分誰かに細工されてるよ。ちゃんと調べた方がいい」













ミラが女官たちに連れられて、蘭と一緒に自室へ戻る中、コナンと小五郎は応接間の豪奢なソファに並んで座り、キースを待っていた。しばらくすると、部下の報告を受けたらしいキースが応接間に戻ってくる。


「どうだったんだ?」


「…コナン様のご察しの通りです。エンジンを入れたら爆発するように、爆弾が仕掛けられてました。あのままミラ様が運転しようとなさっていたら危なかった…」


眉間に皺を寄せながら、キースが憎々しげに呟く。小五郎は顎に手を当てて考え込み、隣で呑気そうにオレンジジュースを飲むコナンに目を向けた。


「それにしてもコナン、何で車に爆弾が仕掛けられてるってわかった?」


「えっとね、車のドアのところにまだ新しい桜の花びらが挟まってたんだ。あの車って女王様専用なんでしょ? ミラさん、『今日はずっと公務室にこもりきりだった』って言ってたから、車に乗ってないはずなのに何で花びらが挟まってるのかなー、って思って」


「なるほど…。指紋や足跡などの証拠は隠滅したが、そこまでは気が回らなかったということでしょうか」


「犯人の目星はついてんのか?」


「女王専用車に接触できる人間は限られている。恐らくは車の清掃を担当している女官かと思われます。既にカイルが尋問を行っていますが、彼女が主犯とは考えにくい。犯行を指示した人間がいるはず…」


ミラは王女だった頃、日本のサクラホテルのレセプションで命を狙われたこともあったが、女王に即位してからますます命を狙われる場面が増えてきているようだ。ヴェスパニア鉱石という希少かつ特殊な資源を持つ国の若き女王、確かに命を狙うだけの価値は十二分にあると言っても良い。


「…実は先日、あるSNSのヴェスパニア公式アカウントに、脅迫文が送りつけられてきたのです」


「なにぃ!?」


キースが渋い表情で、懐から取り出したスマートフォンを操作し、コナンと小五郎に見せてくる。そこには日本でもよく使われているSNSの画面が表示されており、英語で書かれたメッセージが寄せられていた。小五郎が頭を抱えながら英文を睨む中、キースが脅迫分の和訳を読み上げる。


「『哀れな女王よ、日本との国交50周年記念式典など放って、大人しく王宮の中でおままごとをして遊んでいることだ。さもなくば、その小さな頭に大きな穴が開くことだろう。あなたの母や兄のように』…日本語に訳すと、こんなところでしょうか」


「…なんつー胸糞悪い脅迫文を送ってくる野郎だ!」


小五郎がまるで自分のことのように激怒する。キースの和訳を聞く前に脅迫文の全容を理解していたコナンも、小五郎と同じように怒りを感じていた。母と兄を殺され、それでも気丈に女王として振る舞うミラに、このような脅迫文を送りつけるなど。


「…あれ、キースさん。確か今度の式典って、あの桜の下でやるんじゃなかったっけ?」


ふと飛行機内で読んだヴェスパニアの新聞記事の、両国の交友の証でもある桜の木の下で式典を行うことになったという一文を思い出し、コナンはキースに問いかけた。新聞記事に書かれていた地名が正しければ、その桜の木はミラの母であるサクラ、兄のジルが銃殺された場所であるのだ。キースはただでさえ渋い表情を更に歪め、ゆっくりと頷いた。


「はい、ミラ様たっての希望で、あの桜の下で式典を行うことになりました」


「なっ…あんな周りが木だらけのだだっ広い場所、狙撃してくれって言ってるようなものじゃねえか!」


あの桜の木は高い丘の上にあり、桜という目立つ目印もあることから、あの木の下に立つ人間を的にすることは容易である。更にその丘の周りは自然豊かなヴェスパニアゆえの群生林が広がっており、狙撃手が身を隠すにはもってこいの場所だ。脅迫文の通りならば、何者かが式典の最中のミラを射殺する可能性がある。


「我々も式典を行う場所を変更頂くよう、ミラ様に申し上げました。ですが…」


「私の意志が変わることはありません。式典はあの桜の下で行います」


急に聞こえてきた甲高い声に、その場にいた3人が振り向く。応接間の扉から顔を覗かせる蘭と共に、凛々しい表情を浮かべたミラが部屋へと足を踏み入れてきた。


「ミラ様、しかし…!」


「ここで式典の場所を変えようものなら、『ヴェスパニアの女王は命惜しさに卑劣な脅迫者に屈した』などと笑われてしまう。私はこの国の女王、この国の強さの象徴なのです。そのような脅しになど、決して屈しません」


「ミラさん…」


「それに、私が殺されるなどということはありません。だって、キースが私を守ってくれるのでしょう?」


ミラが誇り高い、まさに女王のそれである微笑みを浮かべた。キースはミラの前に跪き、手を胸に当てて宣誓をする。


「もちろんです、我が女王。この命に代えましても、あなたをお守り致します」


「とは言ってもよぉ…。実際、どうやってそこの女王サマを守るってんだ? 言っておくが、また蘭を身代わりにしようってんなら…!」


「とんでもございません! 皆様のお力を借りずとも、私にも考えはあります。まず、あの群生林は国の保護下にあるため、許可がなければ一般人は入ることができません。つまり、既に監視体制は整っている。狙撃手の侵入を許さないよう、監視を強化すること自体は容易です」


「でも、脅迫文を送ってきたのがミラさんの悪いおじさんみたいな偉い人だったら、あの桜の周りの林にも入れちゃうんじゃない?」


「式典の当日は、式典に参加する者以外の群生林への立ち入りを禁止します。ヴェスパニアからの参加者は私が選出した、少なくとも信頼における者のみです。…お恥ずかしい話ですが、いまだにジラード派の者たちを根絶やしにすることは叶っておりません。しかし、国内の不穏分子は常にマークしています。少しでも怪しい動きを見せようものなら、その瞬間に反逆罪で処罰することが可能なように手を回しております」


キースが冷徹さを感じさせる冷たい声色を発した。どうやらキースは、ヴェスパニアの光の部分を象徴するミラを支える為、清濁併せ持つ影の存在として汚れ役を担うようになっているようだ。


「もちろん、参加者の中に犯人がいないとも限らない。私と十数人のSPで、ミラ様の周辺を警護します」


「さすがキースね。けれど、どうか無理だけはしないで…」


「私たちも、何かお手伝いできませんか? ミラさんが大変なのに、呑気に楽しむなんてことできないです!」


「蘭…ありがとう。だけど、今回はあなたたちはお客さんなの。これはヴェスパニアが立ち向かっていかなきゃならないことなのよ」


「ミラさん、でも…」


「…じゃあ、もし怪しい奴を見つけたら、お得意のカラテキックでぶちのめしてちょうだいね」


「はい、任せてください!」


ミラの冗談交じりの言葉に、蘭は大真面目に頷く。そんな中、コナンは何かが引っかかっていた。
何か見落としているんじゃないか? この事件は、本当に自分たちの目に見えている通りのものなのだろうか? コナンは今までに解決した事件とはまた違った謎の匂いを、この事件から嗅ぎ取っていた。


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