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殺し屋探偵×ルパン三世・前編



極東の秘所、荘厳な滝が流れ落ち、足場としては不安定な細長い岩場が点々とある、まるで映画のセットのような場所にその男たちはいた。
此方にはS・スクアーロ。イタリアンマフィア、ボンゴレファミリー直属の暗殺部隊、ヴァリアーの幹部である。その苛烈な気性、剣に対する異様なまでの執念から、ヨーロッパ中の剣豪から恐れられている。
彼方には石川五エ門。安土桃山時代に活躍した日本の盗賊、石川五右衛門の子孫であり、本人も名高い剣士である。その剣の腕前は、日本はおろかアジア全域でも彼の右に出る者はいないと称されるほどだ。


「う゛お゛ぉぉい!! キサマほどの剣豪と殺りあえるとは、剣士冥利に尽きるぜぇ、石川五エ門!!」


「おぬしの噂は聞いている。剣帝と称された剣士を3日3晩に亘る死闘にて、わずか14歳の身でありながら打ち倒し、剣の世界にその名を轟かせた西洋の剣士…。一度斬り合うてみたく存じておった」


お互いへの畏怖の念、そしてこれほどの強敵と斬り合えることへの喜びで、2人の手は震えていた。そんな2人の様子を、この場に似つかわしくない派手な格好をした男が、呑気にビデオカメラで撮影している。この男の名はルッスーリアといい、スクアーロと同じくヴァリアーの幹部である。


「ん〜、ステキなロケーションだわぁ〜! まるでブルース・リー映画みたいじゃなぁい? 帰ったら『燃えよドラゴン』が見たいわねぇ〜」


「う゛おぉい、このクソオカマぁ!! ちゃんとカメラ回してるだろうなぁ!?」


「はぁ〜い、バッチリ回してるわよ〜」


ルッスーリアからの返答を聞き、スクアーロは剣を抜いて五エ門と向き直った。異様な静けさの中、お互いにじりじりと距離を詰め合う。すると、ふとした一瞬の隙に、お互いがお互いに斬りかかった。


「でやぁっ!!!」


「お゛らぁっ!!」


ザンッ!!という斬撃音がその場に響く。その素早い剣裁きに、一流の暗殺者であるルッスーリアでさえ、カメラを追うので精いっぱいでその眼に捉えることができなかった。スクアーロと五エ門は後ろに飛んで距離を置き、お互いに睨み合う。この一瞬の間に、五エ門は右腕の着物の袖が、スクアーロは左手の義手が、相手の剣によって斬りおとされていた。


(あれほどの居合術を操れる奴なんぞ、東洋のどの剣士にもいなかった…! う゛お゛ぉい、さすがは石川五エ門だぜぇ)


(西洋の剣術と東洋の剣術が混じり合った、奇天烈な剣を使う…。拙者もまだまだ見分が浅うござるな…)


ルッスーリアはカメラで撮影しながら、あらあらと困ったそぶりを見せた。剣を使う利き腕である義手を失ったスクアーロと、利き腕がまだ健在の五エ門とでは、スクアーロの方が分が悪い。ルッスーリアは一旦、カメラを三脚に固定してから、用意されているアタッシュケースの中からスクアーロの義手のスペアを取り出した。


「私ってば、なんて気が利く女なんでしょ! スクパンマン〜! 新しい腕よ〜!」


クネクネと身体をくねらせておどけながら、ルッスーリアはスクアーロに向かって義手を投げた。


「いるかぁ!!」


しかしスクアーロは、その義手を回し蹴りでルッスーリアに向かって蹴り返した。更なる勢いをつけて戻ってきた義手は、手刀が刺さるような形でルッスーリアの顔面に飛んできた。ルッスーリアは「イヤン!」と身体をくねらせて避けたものの、義手はそのまま背後の岩場に突き刺さる。


「殺し合いにもう一回があってたまるかぁ!! 左手が無くなったなら、右手で斬りあってやらぁ!! さぁ続きをおっぱじめようぜぇ、石川五エ門!!」


「…よかろう。手加減などせん、存分にお相手いたす!」


「もー、ブシドーを重んじるイタリア男なんてモテないわよぉ!」


左手の義手に備わっていた剣を右手で持ち替え、スクアーロは再び五エ門に向き直る。ルッスーリアが不満げに文句を言い連ねていると、アタッシュケースの中の携帯電話が振動しているのに気が付いた。


「あらまあ、誰かしら?」


「う゛お゛ぉぉい!!」


「せやぁぁぁっ!!」


ルッスーリアは三脚に固定していたカメラを手に取り、スクアーロと五エ門が斬りあっているのを撮影しながら器用に電話に出た。しかし、電話の相手の声を聴いたとたん、急に背筋が伸びる。そんなルッスーリアの様子も気にせず、スクアーロは命を懸けた斬りあいに夢中になっていた。


「どうした石川五エ門、さっきの居合術は既に見切ったぜぇ!!」


「我が剣は居合のみに非ず!」


「上等だぜぇ!! う゛お゛ぉぉぉい!!」







『カスザメ、仕事だ』


その声が聞こえた瞬間、スクアーロが動きを止めた。五エ門は剣を抜こうとする手を止め、不可解そうにスクアーロの様子を伺う。スクアーロが声のする方に振り向くと、ルッスーリアが携帯電話をスピーカーモードにしてスクアーロに向けていた。


「ごめんなさい、スクちゃん〜。でも、ボスの命令に従わないわけにはいかないじゃない?」


「…う゛お゛ぉぉい、ザンザスぅ!! いくらテメエでも、俺の剣の邪魔をする奴ぁただじゃ済まさねえぞぉ!!」


『うるせぇ、ドカスが。30秒以内に帰国しろ』


「無茶を言うんじゃねえ!!!」


電話の相手、スクアーロとルッスーリアの上司であり、暗殺組織ヴァリアーの長、ザンザスに無茶な要求をされ、スクアーロは額に青筋を浮かべながら怒鳴る。五エ門は相手のただならぬ様子に困惑するも、ひとまず精神統一のために座禅を組み始めた。


『任務は本部で説明する。夜の作戦会議までに戻ってこなかったら殺す』


「待ちやがれ、ザンザ…!!」


スクアーロが異を唱えるのにも耳を貸さず、ザンザスはさっさと電話を切ってしまった。スクアーロは怒りに打ち震えながらも、忠誠を誓った相手の命令に背くこともできず、背後で座禅を組む五エ門に振り返った。


「…う゛お゛ぉぉい、悪ぃが仕事が入った。別の日に仕切り直しとしてくれや」


「拙者は構わん。おぬしとはまた仕合うてみたい」


「殺し合いにもう一回はないんじゃなかったかしら〜?」


「うるせぇカマ野郎!!」


ニヨニヨと笑いながらスクアーロをせっつくルッスーリアに、スクアーロは激昂して拳骨を落とした。ごちん、と威勢のいい音を鳴らして頭に落とされた拳に、ルッスーリアはクネクネと身体をくねらせながら「いったぁ〜い」と呻く。スクアーロは岩場に刺さった義手を引き抜いて己の左手に装着させると、ルッスーリアから携帯電話を奪って帰国の準備のためにどこかへ連絡を取り始めた。


「クソボスが、戻ったら容赦しねえぞぉ!!」


「サムライボーイ、またいつか会いましょうね〜」


「…うむ」


嵐のように訪れたかと思えば、また嵐のように去っていくスクアーロとルッスーリアに、五エ門は首をかしげざるを得なかった。するとそこへ、機を見計らったように一台の車がやってくる。ワイルドな運転で岩場を越えてきた車には、五エ門の腐れ縁、次元大介が乗っていた。


「いよっ。相変わらず辺鄙なとこで修行してんだな」


「次元か、何用だ。大した用が無いのならば帰れ」


「つれねえなぁー。ルパンから伝言だぜ、『ローマの休日と洒落込もうじゃねえか』だとよ」


「…どうせまたよからぬことを考えているのだろう。拙者は今、消化不良なのだ。休日など満喫していられるか」


「なんだ、便秘か? いやな、それがどうやら、今回は割と真面目な話らしいんだコレが」


「真面目な話?」


次元の意味深な言葉に、五エ門はわずかに興味を示した。それを見た次元はニヤリと笑って、手招きして五エ門を呼び寄せ、そっと耳打ちする。


「なんでも、不二子のアマが痛い目に合ってるんだとさ」














「んもーっ!! なんであたしがこんな目に合わなきゃならないのよーっ!!」


一方、イタリアのとある裏路地に、裏社会でも指折りの悪女、峰不二子の甲高い叫び声と、銃声が響いていた。不二子はなぜか、裸にバスタオルを巻いただけの姿で、その豊満な身体を銃撃から逃れさせながら、こちらもサブマシンガンを放って応戦している。そう、不二子は何者かから命を狙われている真っ最中だった。


「ちょっと誰かぁ! か弱い乙女がこんな危険な目に遭ってるのよ!」


どこにサブマシンガンをぶっ放すか弱い乙女がいる、と刺客側の1人が呟いたが、その呟きは銃声にかき消された。


「誰でもいいから早く助けなさいよーっ!」


「そこは俺の名前を呼んでほしかったなぁ〜、不二子ちゃん」


不二子がやけくそに叫ぶと、どこからともなく軽薄な声が返ってきた。刺客たちがその声に一旦銃撃を止め、周りを見渡し声の主を探す。しかし、彼らがそれを見つけるより前に、上空から多数の人型のぬいぐるみが降ってきた。


「?」


刺客の1人がぬいぐるみを手に取ると、そこから白い煙幕が一気に噴き出て、刺客たちの目を眩ませた。刺客だけでなく不二子も、煙幕を吸わないように慌てて口を押える。その隙に、不二子は誰かにぐいっと腕を引かれ、そのまま横抱きに抱かれ、いわゆる『お姫様抱っこ』の体勢を取らされた。不二子を抱いた相手はそのまま白い煙の中を出て、近くに留まっていた車に乗り込み、即座に車を発進させた。不二子は自分を助けた男の顔を見ると、その美しい顔をほころばせた。


「ルパン!」


「ヒーローは遅れてやってくる、なーんてね」


その男は、世界一の大泥棒、ルパン三世であった。気障ったらしく不二子に向かってウインクするルパンに、不二子は勢いよく抱き付く。


「ありがとう、ルパン〜! あなたなら来てくれるって信じてたわ〜!」


「うひょひょひょ。このルパン三世、不二子ちゃんのためなら例え火の中水の中〜!」


「でもなんでもっと早く来なかったのかしら? 時間にルーズな男は嫌われるって知らなかった?」


「あらっ、ご褒美はこれだけなのぉ?」


鼻の下を伸ばしながら不二子の肩を抱くルパンに、不二子は早々に手を払って助手席に戻る。跳ねのけられた手を「いててて」と振りながら、ルパンは車を走らせる。しかし不二子のあられもない姿が気になるらしく、前方不注意のまま危なっかしい運転を繰り広げていた。


「ところで不二子ちゃん、どうしてそんな恰好なんですの?」


「入浴中に襲われたのよ! おかげでルビーの指輪をホテルに置いてけぼりにしちゃったわ!」


「いやいやいや、なかなか良い眺めで、むふふふふ」


「どこ見てんのよ! いいから早く、どこかで服を調達してきてちょうだい! 言っておくけど、安物は着ないわよ」


「仰せのままに〜。…ところで、ありゃボンゴレの暗殺部隊の連中だな? なーんで不二子ちゃんがそんな奴らに狙われてんのよ」


「そんなの私が聞きたいわよ!」


ルパンは後方から追ってくる黒塗りの車を気にしながら、荒々しい運転で追っ手を撒きにかかる。不二子は胸元がずれたバスタオルを直しながら、ヒステリックに叫んだ。


「ここ最近はボンゴレには関わってないし、なんで命を狙われてるのか、見当もつかないわ!」


「いやぁ、不二子ちゃんは命を狙われない理由を探す方が難しいと思うけど。…けれど、ヴァリアーが相手っていうのは面倒だな。現ボスの御曹司は、一度目を付けられたら蛇よりも執念深いぜ。なんか怒らせちゃったんじゃないのぉ?」


「だから最近はボンゴレには一切関わってないんだってば!」


しつこく追ってくる黒塗りの車に業を煮やしたルパンは、咄嗟に車一台が入り込めるか否かという細い路地に曲がった。そして懐から手榴弾を取り出し、ルパンを追って路地に突っ込んできた車に向かって投げつける。ルパンが一気に車を加速してその場から離れた瞬間、手榴弾が轟音を立てて爆発した。爆発に巻き込まれた車と、崩れ落ちた両脇の建物が壁となり、道を阻む。


「この様子じゃ、追手が増えるのも時間の問題だな。高級ブティックはまた今度にして、とにかく避難するとしますか」


「避難? どこに?」


「対ボンゴレに関しては、恐らくイタリアで一番安全な場所」


「?」


ルパンの意味深な言葉とウインクに、不二子は首をかしげた。













「…で、何で私のところに来たわけ」


「そりゃあ、ボンゴレも天下の『探偵』サマと『ミス・ヘイヘ』には弱いからに決まってるでしょ〜!」


「ちょっとお。この服、胸がきついんだけど!」


「ここを服屋かなにかと勘違いしてないかしら? 文句があるなら、その余分な脂肪を切り落とすのね」


「…自分の家にいるのに帰りたい…」


急にやってきた招かれざる客人に、ローザはケラケラと笑い、メルは頭を抱えた。ルパンと不二子が『避難』してきた場所、それはメルの住む古びたアパートだった。イタリア国内でボンゴレの息がかかっていない場所など、存在しないと言ってもいい。しかし、最早ボンゴレになくてはならない存在となりつつあるフリーの殺し屋、メルとローザのいる場所なら、ヴァリアーも迂闊に手を出せないはずだ。ルパンはそう考えたのだ。


「あの御曹司サマは、あたしたちに気兼ねするような優男じゃないわよ。当てが外れて残念ね、ルパン」


「いやいや、そうでもないんじゃないの? 少なくとも今のヴァリアーは、チェデフの大事なお得意さんである探偵には、手を出したりしないでしょ〜」


「…そもそも、峰不二子がヴァリアーの暗殺対象になってるなんて話自体、こっちは驚いたよ。ヴァリアーは先のクーデターの一件で、無期限謹慎の処分を言い渡されてる。そんな表立った仕事はできないはずだよ」


「そんなこと言われても、ここに殺されかけた張本人がいるのよ?」


メルの私物のシャツを着た不二子が不満げに鼻を鳴らす。その大きく開けられた胸元に反応するルパンを無視して、メルは煙草に火をつけた。


「で、なにをやらかしたの」


「だから何もしてないわよ!」


「殺されかけるには、殺されるだけの理由があるんでしょう? あなた、恨みを買うのが仕事みたいなものだものね」


「フン、そんなのお互い様でしょ。知らないわよ、挨拶も無しに銃を打ち込んでくるような奴らよ? ろくに会話もできやしなかったわ、犬を相手にしてた方がよっぽどマシよ」


「そこんとこどうなの、探偵サン? お得意の推理で何とかしてくださいよ〜」


「私は与えられた情報をもとに推測しているのであって、超能力が使える訳じゃない。そんなことは情報屋に聞けばいい、ソロモンを紹介してやってもいいよ」


不機嫌さを隠しもしないメルに、ルパンが「ありゃりゃりゃ」とおどけながら笑う。同じ裏社会の有名人同士、顔見知りではあるものの親しい間柄ではない。メルは自分の領域を犯されることが一番嫌いなのだ。従って、何ら関係ない揉め事に巻き込まれたことに、苛立ちを覚えていた。


「…ただ、気になることはある」


「およ?」


「ヴァリアーは暗殺を請け負う時、成功率90%を下回る案件は絶対に引き受けない。けれど、暗殺対象が峰不二子なのだとしたら、その傍には必ずルパンがいる。その時点で峰不二子の暗殺成功率は、90%を優に下回る。いつものザンザスさんなら、この任務は絶対に請け負わないはず」


「あら、ずいぶんルパンへの評価が高いのね」


「お褒めにあずかり、感謝の極み」


まるで騎士がするようなお辞儀のし方をするルパンに、不二子がムッと眉を寄せた。普段は自分に向けられている視線が、別の女に向けられたことが気に食わないらしい。不二子はルパンの耳を引っ張りながら、メルに反論する。


「けれど、実際にあたしは殺されかけたわ。よっぽどあたしのことを殺したくて仕方ないみたいね!」


その瞬間、部屋の薄い壁越しに複数人の足音が聞こえてきた。すぐにその場にいる全員が銃を構え、何者かの侵入に備える。するとメルの部屋の扉が乱暴に開かれ、ヴァリアーの黒い隊服を身に纏った男たちが押し入ってきた。


「…雷撃隊ね。ということは、作戦隊長はレヴィかしら?」


「その通りだ。大人しく峰不二子を渡してもらおう」


雷撃隊の部下たちが4人を取り囲む中、隊長のレヴィ・ア・タンが部屋の中へ足を踏み入れる。ルパンが咄嗟に不二子の前に立ち、不二子は「話が違うじゃないの!」とルパンの背中を引っ叩いた。


「オイオイオイ、ここは天下の探偵サマのお宅だぜ〜? 今のヴァリアーは、チェデフに喧嘩を売ったりしたらマズイんじゃないの?」


「ボスの命令は絶対だ。この任務が終わり次第、チェデフに俺の首を差し出せば済む事」


「あちゃ〜、目論見がハズレチャッタ」


「そもそも、なんであたしが殺されなきゃならないのよ! その理由も聞けずに死ねないからねっ!」


不二子がルパンの背中に隠れながら、ぷりぷりと憤る。その姿にレヴィはぽっと顔を赤く染め「妖艶だ…」と呟くが、不二子を殺すという意志に変わりはなかったらしく、武器である電気傘を両手に持った。


「峰不二子、貴様はフェデリコ・フェリーノを殺し、ボンゴレの名誉に傷をつけた。その罪は死をもって贖わなければならない」


「…フェデリコ・フェリーノ? 誰それ?」


不二子が素っ頓狂な声を上げる。その様子に、ヴァリアーの面々は思わず、きょとんとした表情を浮かべた。


「確か、いつの間にか骨になってたボンゴレ10代目候補じゃなかったかしら」


「あぁ! あの酒に弱いブサイクの!」


「不二子ちゃん、いつの間にそんなボンゴレに喧嘩を吹っ掛けるようなことしちゃったの〜」


「はあ? 殺ってないわよ! あたしは必要に迫られた時しか殺しはしないの、この白くて美しい手が汚れちゃったらどうするのよ」


「…ということだそうですよ? おたくらの間違いなんじゃないの?」


「それを決めるのは俺ではない、ボスだ。そのボスからの命令を受けた以上、貴様を殺す!」


レヴィが指示をすると、隊員たちが一斉に武器を構える。ルパンと不二子が銃を構え、応戦しようとしたその瞬間。第一の銃弾が、メルの銃から放たれた。弾はレヴィの頬を掠め、背後の扉の向こうへと消えていった。


「…人の部屋で暴れないでほしいんだけど」


「探偵…邪魔立てする気か!」


「私の部屋にまで押し入ってきたのは、あんたの独断でしょう。今、チェデフとボンゴレ本部を敵に回すなんてこと、あんたの首一つで済むような問題じゃない。スクアーロ君だったら、そんな判断はしなかっただろうけど」


メルがこれ見よがしにスクアーロを話題にすると、目に見えてレヴィの表情が歪む。ヴァリアーのナンバー2であるスクアーロと比較されたことに、嫉妬の念を覚えているのだろう。それを見たローザとルパンがニヤリと笑った。


「…わかったわかった、それじゃこうしましょうじゃないの!」


「?」


するとルパンが手を叩いて、メルの肩をぐっと抱いた。全員の注目がルパンとメルに集まる中、ルパンは得意げに説明をする。


「おたくの言い分はわかった、でも不二子ちゃんは無実だって言い張ってる。つまり、不二子ちゃんがその、何たら何たりーのを殺してないことを証明すれば、おたくらが不二子ちゃんを殺す理由もなくなるわけだ」


「フェデリコ・フェリーニだ」


「そうそう、それそれ。…ってことで、探偵サマに俺から依頼。何とか不二子ちゃんの無実を、証明してくんねーかな?」


ルパンの言葉に、メルだけでなく、ヴァリアーの隊員やレヴィも驚く。ローザだけが「面白くなってきた」と言わんばかりに笑う中、ルパンはメルに向かって恭しく頭を下げた。


「頼まれてくんねえかな、エルロック・ショルメさんよ」


「…報酬は」


「そりゃお望みなだけ。勿論、俺が払うぜ」


「ルパン、あなたって本当にステキ! 惚れ直しちゃったわ」


「アラララ、不二子ちゃん…。お金が絡むと本性丸出しなのね…」


「…わかった。その依頼、受けてあげる」


メルは溜息を吐きながら、ルパンの依頼を承諾する。その様子を苦虫を噛み潰したような表情で見るレヴィに、メルは再び銃を向けた。


「そういうことだから、このことをザンザスさんに報告してきたら。今ここを出て行けば、家光さんへは黙っていてあげる」


「…一旦引く。だが、峰不二子。生きている限り、貴様は我々から逃れることはできない。それだけは覚えていろ」


「粘着質な男はモテないわよ!」


不二子が舌を出すと、レヴィは部下に指示を出してその場から立ち去っていった。それでも監視ぐらいはついているのだろう、不二子は文字どおり、ヴァリアーの目から逃れることはできない訳だ。そして、大見得切ってヴァリアーに喧嘩を吹っかけてしまった、メル自身も。


「面白くなってきたじゃない? あなた、明日の朝には消し炭になってるかもしれないわね」


「どうしてこうなった」


「そんじゃま、お願いしますよ探偵サマ〜」


「絶対に報酬ふんだくってやる、無一文になる覚悟をしておいてよ」


「オイオイ、俺は泥棒だぜ? どっかからお宝を盗んで、工面してきてやるよ」


「勿論、あたしの取り分もあるのよね?」


「アラララ、なんでそうなるのぉ?」


不二子の妙に清々しい笑顔に鼻の下を伸ばすルパンを、メルは恨めしげな目で睨みつけた。



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