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殺し屋探偵で大人達の飲み会



星が瞬くように輝く、美しい夜のことだった。この日、シチリアのとある高級ホテルの最上階ホールで、ボンゴレファミリー主催のパーティーが行われていた。9代目ドン・ボンゴレ、ティモッテオのボス就任30年を祝うこのパーティーは、あらゆる裏社会の大物が招待されており、錚々たる面々が勢揃いとなっている。その中に、ボンゴレとの縁も深い『segugio(探偵)』と称される殺し屋メル、そして『ミス・ヘイヘ』と畏怖される凄腕スナイパー、ローザも含まれていた。


「ふうん、良いワインを出すじゃない。シチリア産のワインなんて子供のジュースだと思ってたけど、気に入ったわ」


「ローザ、9代目に顔を見せに行ったら? 一応主催なんだから」


「あら、この顔を見せたら相手が昇天しちゃうわ。主催の死亡で幕を閉じるパーティーだなんて、後味が悪いじゃない?」


しかし、2人は早々に盛大なパーティーを抜け出し、同じホテル内のバーで静かに酒を飲んでいた。もとより公の場を好まない気性である、パーティーにやってきたのは主催の顔を立てる為であって、己が楽しみたいからでは断じて無いのだ。


「あなたこそ、借りてきた猫みたいなその顔を、老い先短いご老体に見せてやったらどうなの? 彼なら大喜びすると思うけど」


「私の顧客は沢田さん、9代目にはそこまで情はないよ。それに、あの取り巻き達のいる場所に行く気は毛頭ない、圧死したらどうするの」


「9代目のれっきとした守護者を『取り巻き』なんて言い方するのは、このイタリアじゃテメーらぐらいなもんだな」


どこからか聞こえてきた甲高い声に、メルとローザが同時に振り向いた。バーカウンターの端の席に、いつの間にかボンゴレ直属のヒットマン、リボーンがいる。椅子に座ると身長が足りない為か、カウンターに直接腰をかけ、マティーニの入ったグラスを傾けていた。


「あら、未成年の飲酒は正常な発達を妨げるって、知ってたかしら?」


「残念だったな、俺は『正常』って言葉が吐き気がするほど嫌いなんだ」


「アナーキーな坊やね。私にもマティーニを一杯、貰えるかしら」


「任せな、いい女に酒を奢るのはイタリア男の嗜みだからな」


ローザとリボーンが軽口を叩いている間、メルは不機嫌さを隠しもせず、眉を寄せながらウィスキーを煽る。以前、仕事がらみでリボーンに負わなくてもいい面倒を負わされて以来、メルはリボーンのことがどうしても好ましく思えなかった。


「なあに、未練がましい女は嫌われるわよ、メル」


「相手が死のうが受けた恨みは忘れない自称『根に持つタイプ』に、そんなこと言われたってね」


「気にすんな。猫と女は、抱いてやった時に引っ掻き傷ができるぐらいが丁度いい」


少しは気にしろ、とメルは言いたがったが、リボーンのことだ。いけ好かない笑みを浮かべながら軽口を叩かれるだろうことは予想できたので、余計なことは言わないように口をつぐんだ。


「…外部の私らはともかく、ボンゴレの人間がこんなところでのんびりしてていい訳? 今ごろ他の連中は、愛想を振りまいてる頃だと思うけど」


「赤ん坊ってのは、その場にいるだけで人を和ませちまうからな。ここは厳かな場所だ、俺は自重したのさ。目尻の下がったマフィア共のパーティーなんざ、コッポラが作り上げたマフィア像にそぐわねえ」


「あら、ロマンチストだこと。さしずめ9代目はマーロン・ブランド、あなたの生徒はアル・パチーノってところかしら?」


「ははは、天下のボンゴレがゴッドファーザーごっこかい?」


この場にいる3人の誰のものでもない低い声が、バーの入り口の方から聞こえてきた。振り返ると、黒いジャケットを身に纏った細身の男がバーテンダーに注文をしていた。その男は、アメリカを拠点に構えて活動する世界一の情報屋、ソロモンに他ならなかった。


「ソロモン?」


「やあ、メル。どうしたんだい、UMAでも見つけたのかい?」


「あんたがアメリカから出てくるなんて珍しい、どういう風の吹き回し?」


「今日の主催から招待状が来てね。老人のご機嫌伺いは御免だが、海を見るついでに友人に会いに行く気にはなったのさ」


「それでその恰好ってワケね。客を選ばない一流のホテルでよかったじゃない?」


「ボンゴレを甘く見てもらっちゃ困るな、ミス。ここは9代目ご用達のホテルだ、浮浪者だって貴族並のもてなしを受けられるぜ」


メルやローザでさえドレスコードに相応しい格好をしているというのに、まるで近所のバーに呑みに来たかのようなラフな格好のソロモンに、ローザとリボーンが皮肉を口にする。ソロモンはそれをせせら笑うように聞き流し、バーテンダーから受け取ったアメリカン・ビューティーのグラスを手に、メルの隣の席へと腰を下ろした。


「いや、結構じゃないかな。この私ですら顧客の情報を掴める一流ホテルなんてね」


「…ほお、さすがは世界一の情報屋じゃねえか」


「あらあら、一本取られたわね坊や。慰めてあげましょうか?」


ローザがリボーンに向かって腕を広げる。その光景をクスクスと笑いながら、ソロモンはメルの空いたグラスにウィスキーを注いだ。


「君と酒を共にするのも久しいな。娘がいれば、紅茶を淹れさせたところだがね」


「私はあんたの娘とは違って、酔いつぶれたとしても面倒は見ないからね」


「心配すんな、このカスに見させてやる」


これまた入口の方から聞こえてきた声に、その場にいる全員が振り返る。そこにいたのは、傍らにメルの馴染でもある暗殺者、S・スクアーロを連れた独立暗殺部隊ヴァリアーのボス、ザンザスであった。そもそもパーティーに出るようにすら見受けられない隊服姿の2人に、メルはなんだかこの場から逃げ出したくなった。


「ザンザス、よく会場から抜け出せたな。同盟ファミリーの女どもに付き纏われてたっていうのに」


「煙草の火を欲しがりやがったから『火』をくれてやったら、蜘蛛の子を散らすように逃げていった」


「まあ、その場にいなくてよかった。逆上する男ほど面倒なものはないものね」


恐らく、付き纏っていた女に憤怒の炎をお見舞いしたのだろう。ザンザスの傍らにいるスクアーロの疲れ切った表情から、その場の惨劇が想像つく。メルはそれまで飲んでいた酒が不味く感じられた。


「お疲れ、スクアーロ君。その様子だと大変だったみたいだね」


「う゛お゛ぉぉい、俺の仕事は殺しであって火消しじゃねえんだよぉ…。それから酔っぱらった野郎の介抱でもねえんだよ、ザンザスぅ!!」


「うるせえ、ドカスが。会うのはこれが初めてか? ソロモン」


「やあ、ジュニア。君の噂は色々と聞いてるよ。話を聞く限りでは、なかなか骨がありそうな若者じゃないか」


すぐ近くにあったボトルをスクアーロの頭に叩きつけたザンザスに、カクテルグラスを傾けながらソロモンが笑った。世界一の情報屋と、イタリア一の暗殺組織の長。酒の場に偶然居合わせるにしてはよく出来過ぎな2人の邂逅に、メルはなるほど、と息を吐いた。つまるところ、海を見るのも自分に会いに行くのも『ついで』であり、ソロモンの本来の目的はこれなのだ。


「カスザメ、テメーはそこで人払いをしてろ」


「う゛お゛ぉい、言われなくてもわかってらぁ!」


「おや、意外だな。君が接待をしてくれるとは。私の首の保全をしておかなければ」


「この俺が商談もろくにできねえ無能のカスに見えるか?」


「結構じゃないか。メル、また後で世間話でもしよう」


「そんなものをするためにイタリアまで来たの、暇な男だね」


「おやおや、手厳しい。…ではジュニア、『商談』をしようじゃないか」


そう言い残し、ソロモンとザンザスはバーの2階席にあるVIPルームへと消えていった。スクアーロは2階席へ繋がる階段のすぐそばの席に座り、バーテンダーに黒ビールを注文する。


「あら、いつあのソロモンとオトモダチになったのかしら?」


「う゛お゛ぉぉい!! あのザンザスが、あのいけすかねえ『Oca(ガチョウ)』とオトモダチになんかなるわきゃねえだろうがぁ!!」


スクアーロが口にした『Oca』、イタリア語でガチョウを意味する言葉は、本来ならば間抜けな女を侮蔑する意のスラングである。しかし、ソロモンの呼び名の由来である『ソロモン・グランディ』、すなわち『マザーグース(ガチョウ婆さん)』と掛けた、スクアーロのジョークなのだろう。単純に、男性としてはザンザスのような力強さに欠けるソロモンを、侮蔑しているだけかもしれないが。


「そのザンザスが、あのソロモンと商談なんざするとは、何の企みだ? 事の次第によっちゃあ、9代目への報告は免れねえぞ」


「クソ赤ん坊が、俺が口を割ると思うかぁ?」


「口を割らねえ奴に口を割らせるのが俺の仕事だ。何の情報を仕入れるつもりだ? まさか、誰が駒鳥を殺したのかを知りたい、なんてワケじゃねえんだろう?」


銃に変身したレオンを手に、リボーンが脅しにかかる。とはいえ、スクアーロのジョークに乗ってマザーグース絡みのジョークを口にしているあたり、リボーンも本気でザンザスがボンゴレに仇名すつもりであるとは考えていないのだろう。『勘違いされるようなことはするな』という忠告も含めた、プロレスのようなものだ。最近、ボンゴレの茶番に付き合わされることの多いメルは、呆れながらウィスキーを飲み干した。


「はっ! 忘れたわけじゃねえだろう、ソロモンは手前の『友人』からの依頼しか受けねえ。ウチのボスの依頼なんざ、奴は受けたりしねえよ。そうだよなぁ、メル!」


「…なんで私に聞くの」


「決まってるじゃない、あなたがソロモンの友人だからよ。あなたは何でか、偏屈に好かれやすいものね」


「…確かに、ソロモンは友人からの依頼しか受けない。だけど、旨みのない相手との対話の為にアメリカから遥々やってくるほど、お人よしでもない。…何か、餌を用意してるんでしょう。ソロモンが食いつくような、旨みのある餌を」


「解せねえな。ヴァリアーの無期限謹慎はまだ解けてねえ。組織としては半壊滅状態、あって無えようなもんだ。おまけに、家光のいる門外顧問組織、チェデフの監視を常に受けている。昔のような自由も効かねえ、首輪の繋がった狗に、何の旨みがある?」


「さあなぁ! 俺が知ったことかよぉ!」


嬉しそうなスクアーロの様子に、リボーンがムッと眉を寄せた。見た目だけは赤ん坊の可愛らしい仕草だが、今にも発砲しそうなほどトリガーを引く指に力を込めている。スクアーロはバーテンダーが持ってきた黒ビールを一気飲みし、グラスをカウンターにガンッと強く置いた。


「良い気分だぜぇ、そのまま永久に頭を悩ませてなぁ!」


「左手だけでなく、悩む頭も無くしてやろうか?」


「あら、血なまぐさくなってきたわね。なんでもいいけど、波の音を楽しめる程度には静かにしてちょうだいね」


銃を構えたリボーン、剣を抜いたスクアーロに、ローザが呆れたように忠告した。そもそも身内同士で戦うことも馬鹿馬鹿しい話だ、リボーンもスクアーロも静かに席につき、酒を一気に呷る。


「メル、あなたならどう見るかしら? あなたの友人と、昔馴染の上司の思惑を」


ローザが何の気なしに呟いた言葉に、メルは思考の海に沈んで答えを導き出す。今の時点で最も考えられる理由を見つけると、ポケットの中から煙草を取り出し、珍しく口紅を塗っている口にくわえて、煙草に火をつけた。


「…ソロモンは友人以外の依頼は受けない。つまり、ザンザスさんは依頼をしている訳じゃない。だけど、ソロモンは『商談をしよう』だと言った。つまり、何らかの取引をしようとしてるんでしょう」


「あのソロモンが、友人でもない男と? ずいぶん無謀な賭けに出たものね、あの御曹司サマも。ソロモンは人見知りのお嬢ちゃんじゃないのよ?」


「考え方の視点を変えてみたら? ソロモンは友人以外には情報は売らない。じゃあ逆に、ソロモンが情報を買う側だとしたら?」


「!」


「ソロモンの情報源は世界各地にいる『友人』。別に本人がラジエルの書を持ってるわけじゃない。当然、ザンザスさんしか知り得ない情報を必要としているとなれば、ザンザスさんから情報を買うしかない」


「…う゛お゛ぉぉい、ソロモンもそうだが、テメェも十分、薄気味悪ぃなぁ。知られたくないことを知られるっていうのは、心底気持ち悪ぃ」


「その様子だと、探偵の推理は当たってるみてえだな。そうならそうといえ、弾を無駄にするところだったじゃねえか」


リボーンは安心したのか、レオンを元の形状に戻し、マティーニを飲み干した。しかし、メルにはもう一つ気になることがある。煙草をくわえてポケットからライターを取り出そうとしているスクアーロのもとまで行き、メルは自分のライターで火をつけてやった。


「とはいえ、ソロモンは手ぶらだったうえに、ザンザスさんは安金程度で動く人じゃない。それに、ソロモンにも情報屋としてのプライドがある。…何か、ザンザスさんが食いつく情報を対価に用意してきたんでしょう」


「…俺は口を割らねえぞ」


「そんなことは知ってる。ここからは私の想像だから、聞き流してもらって構わないよ。…ある程度の情報なら、ザンザスさんなら赤子の手をひねるより簡単に手に入るでしょう。だから、ザンザスさん本人に関わることを、ソロモンは準備してきたんじゃないの」


「…」


「例えば、自分のルーツ探しとか」


スクアーロの表情は少したりとも変わらない。しかし、メルはある程度の確信を得ながら、己の推理の続きを語った。


「ボンゴレの血筋じゃないザンザスさんが、なぜ憤怒の炎を持って生まれたのか。遥か遠いルーツを辿ったら、そこにボンゴレの痕跡が僅かなりとあるんじゃない? それを証明することができたら、ボンゴレリングに拒絶された身でも、10代目候補に舞い戻ることは可能かもしれない」


「さあなぁ。俺は何も聞いちゃいねえ。ザンザスがそんなことを、一部下に話すと思うかぁ?」


スクアーロが、あらかじめ用意されたような台詞を口にした。そもそもスクアーロは、自分をザンザスの一部下と思ってすらいない、そんなことは彼の誇りが許さないのだ。従って、スクアーロがザンザスの意図を知らないはずがない。


「それに関しては、俺も気になっていた。ザンザスがまだ毛も生えねえガキだった頃に、一度調べたことがあってな」


「あなた1歳児じゃなかったかしら」


「俺は好きな時に好きな年齢だ。…過去に憤怒の炎を持っていたのは、ボンゴレ2代目ただ1人。2代目の系譜を辿って行ったら、2代目の娘の代から完全に痕跡が途絶えていた。…まるで誰かが意図的に隠したように、この俺をもってしても跡を辿ることができなかった」


いつの間にかローザの肩に座っていたリボーンが、パソコンに変身したレオンを操作しながら呟く。ローザはパソコンの光を見ないように手で目を覆いながら、クスクスと笑いだす。


「あら、まるでソロモンが隠したみたいな言い方じゃない」


「ボンゴレと同じように、『ソロモン』も世襲制だからな。当代じゃねえ、過去の代の『ソロモン』がボンゴレの誰かと友人で、そいつの依頼を受けて隠したっていうのは、有り得ねえ話じゃねえな。2代目の娘はマフィアにはならず、一般人として生活していたっていうからな」


「知らねえなぁ!! 第一、俺は奴が好かねえんだぁ!! 何か下手を踏んで、うちのボスに脳天をぶち抜かれでもしてくれりゃあ、俺の気も晴れるんだがなぁ!!」


「まあでも、ソロモンに恩を売っておくっていうのは、ザンザスさんやヴァリアーにとっても悪いことではないでしょう。そこの赤ん坊の『アル・パチーノ』には、不利かもしれないけどね」


「フン、たとえ奴が2代目の血筋だったとしても、俺のツナは初代の血を受け継ぐれっきとしたブラッド・オブ・ボンゴレだ。まあ事実によっては、ザンザスを持ち上げる連中が台頭してくるかもしれねえ。対策は打っておくに限るがな」


リボーンがそう言った瞬間、ザンザスとソロモンのいるVIPルームから、ガシャンというグラスの割れるような音が響いた。4人が階段上を見上げると、VIPルームの重厚な扉を思いっきり蹴って開け、怒りの形相のザンザスが階段を下りてくる。その手には何故か、何かに叩きつけて割ったらしい酒瓶が握られていた。


「う゛お゛ぉぉい、ザンザス!! 首尾は…」


スクアーロの言葉の最中で、ザンザスは既に割れた酒瓶を再度スクアーロの後頭部に叩きつけた。スクアーロは「あだっ!!」と叫んで後頭部を押さえると、割れた破片が頭に刺さった為か、血がつぅーっと流れてきた。


「カスザメ、車を呼べ。帰るぞ」


「う゛お゛ぉい!! 俺じゃなかったら死んでるぞぉ!!」


「うるせぇ、死ね」


商談前は比較的機嫌のいい方だったザンザスも、どうやら思ったような成果は得られなかったらしく、すっかり不機嫌になって足早にバーを出ていった。スクアーロは吸っていた煙草を床に捨て、火を足で踏み消してからザンザスの後を追った。メル、ローザ、リボーンがその様子をしらっとした眼で見ていると、ソロモンがカクテルグラスを手に悠々と階段を下りてくる。


「やれやれ、癇癪を起す子供の相手は苦手なんだがね」


「ソロモン、相変わらず人の怒りを買うのがお得意なようね」


「とんでもない、私は争いは嫌いなんだ。私はただ、私なりの推理を告げてやっただけさ。メルの真似事をしてね」


「ほお、どんな推理なんだ? お聞かせ願いたいものだがな」


「おや、君は私にどんな対価を用意してくれるのかな? 私のグラスが空なのを見計らってくれるのかい?」


「俺は野郎には酒は奢らねえ」


「そうかい。ああ君、なにかリキュールを貰えるかな」


ソロモンはバーテンダーに注文すると、メルを手招きして自分の隣の席に呼び寄せる。メルが素直に席に座ると、耳打ちをするように囁いた。


「まあ、彼が10代目になれる確率は限りなく低いということを、教えてやったのさ」


「ふうん、そうなの」


「過去に、2代目の直系の女が1人、とある男に輸血と、臓器移植をしてやったことがあってね。その男の子孫は代々ろくでなしで、そのうちの1人はイタリアの貧民街で娼婦の斡旋をしていた。まあ想像がつくように、商品に手を出していたようだよ」


「…それで、その娼婦の生んだ子供に、憤怒の炎が現れたということ? 無茶苦茶な話だね、そんなこと有り得るの?」


「さあね、私は医者じゃないんだ。妻ならば納得のいく説明ができたんだろうが、私は専門外なものでね」


「で、あんたはその推理を対価に、何の情報を得たの」


「なに、大したことではないさ。私の友人の1人が、イギリスのとある名門貴族の出身でね。遺産の整理をしていたら、一族の末席の女の所在が一切掴めなくなっていたらしい。後々に面倒を起こさない為にも、その女の行方と、その女の血を受け継ぐ者の所在を確認したがっていた。そこで私は彼に、『君の母親はどこの阿婆擦れかな』と質問しただけに過ぎない」


「…確かに、大したことじゃないね」


それはそれで別の面倒が起きそうだが、メルには一切関わりが無い。メルは煙草の火をを灰皿でもみ消しながら、後始末に追われるであろうスクアーロに同情した。


「あらあら、何のためにここへ来たのか忘れてしまったわね。酒を飲みながら世間話をするためだったかしら?」


「9代目に顔ぐらいは出しておけ。歳をとると人恋しくなるからな」


「まあ、今後の関係の為にも、立てる顔は立てておかないとね。行きましょうか、メル」


「…はあ、行きますか。ソロモン、世間話はまた今度」


「そうかい。それでは、またワシントンで」


バーテンダーが差し出したリキュールのソーダ割りを傾けながら、ソロモンはメルに向かって小さく手を振った。それに対し然したる返事もしないままメルは肩にリボーンを乗せたローザと共にパーティー会場へと向かった。

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