牛島若利誕生日記念


ウシワカ視点の短い話。時系列はあまり気にしないで読んでください。

















覚えている限り最初の記憶には、父と母の笑顔がある。


「若利、お誕生日おめでとう」


「俺たちのところに生まれてきてくれて、ありがとうな」


あの2人はその日になると、必ずそう言っていたと思う。それは両親が離婚して、父が家を出てからも変わることはなかった。その日になると、父は必ず俺に電話してきて、そして昔と何ら変わりない声色で「生まれてきてくれてありがとう」と告げてくるのだ。
一番新しい記憶では、バレー部の仲間たちが男女関係なく揃って、大騒ぎして祝ってくれた。練習が終わってすぐ、天童たちに半ば無理やり空き教室へ連れられると、いつの間にか準備したらしい飾りつけの施された教室にケーキや料理が並んでいた。


「若利君、ハッピーバースデー! 俺達からのサプライズ、びっくりした〜?」


「ああ」


「全然びっくりしてるように見えねーわ!」


「牛島、耳かっぽじってよく聞きなよー。ここにあるケーキとかもろもろ、全部うちの主将の手作りだから」


「ありがたく食べないと女バレと小鳩ファンがブチ切れっからねー」


「ちょ、ちょっと、沙羅も杏樹もそういうこと言わなくていいの! あ、あの、全然気にしないで、苦手なものとかあったら手つけなくて大丈夫だからね!」


「わざわざすまん。これだけの量を作るのは大変だっただろう。材料費は大丈夫か」


「若利、今はそういう野暮なことはいいからさ。ありがたくご馳走になれば、空知だって嬉しいと思うぞ」


「…ああ。空知、俺のためにありがとう」


「えっ、あっ、あぅ…! わ、私も3日前にお祝いしてもらったから、全然気にしないで! あぁぁ、どうしよう嬉しすぎて心臓爆発しそう…!」


「やったじゃん、小鳩〜!」


「さー、今日は騒ぐぞ!」


自分が祝われたり、誰かを祝ったりする時、改めて良い仲間に巡り合えたと思う。自分にコミュニケーション能力というものが欠如しているのは自覚しているが、俺のそういった面含めて受け入れてくれるこの白鳥沢というチームを、本当に誇りに思う。俺がいるということを除いても、県内ではこのチームが最強だと、胸を張って言える。
両親からの言葉も、仲間とのひと時も、その日だけの特別な記憶として俺の中に残っている。それ無しで生きていくことなど考えられないほど、どちらも特別な存在だ。そして、もう1人の特別な存在の笑顔も、俺の中に刻み付けられている。


「さ、若ちゃん! 今日も一緒に練習しよう!」


凛々はいつも、バレーボールとシューズを手に俺のもとにやってきては、そう言った。そして特別なものなど何もない、いつも通りバレーの練習をする。しいて言えば、その日だけはいつも折半している体育館の利用料金を、凛々が全額払うといったそのぐらいだ。凛々の誕生日には逆に、俺がそうしている。
違うのは、練習後。凛々はまるで俺をいたわるかのように、全身にマッサージを施してくれる。自分でケアはしているし、定期的に凛々の家の整体院にも行っているが、その日だけは特別だと凛々は言い、そして俺もそれを享受している。酷使した腕や脚を、年を経るごとに痛みを感じるようになった肩や腰を、丹念にあの細い手で揉み解しながら、凛々はこう言っていた。


「若ちゃんはこれからも年を取って、身体の色々なところに負担がいくようになって、それでもバレーを続けていくんだから。まだまだ頑張ってもらわないといけない身体だもん、ちゃんと大切にしてあげないとね」


その言葉を聞くたびに、俺はまだバレーをして、これからも生き続けていくのだと感じる。両親の言葉は、俺が誰かから望まれて生まれてきたという過去を。仲間たちの笑顔からは、俺が今こうして誰かと信頼しあって生きているという現在を。そして凛々の手からは、俺がこの先も生きていき、バレーを続けていくという未来を思い起こさせる。俺は凛々がそう言う度、いつもこう返した。


「俺が年を取って、身体も思うように動かなくなって、それでもバレーを続けていく時が来ても…、お前はまた、こうしてくれるか」


すると凛々は得意そうに笑って、毎年同じ答えを返した。


「もちろん! これからもずっと、若ちゃんのバレーを見ていたいもん!」


いつかぶち当たるであろう苦難も、それを乗り越えて得られる歓喜も、きっとこの先に待っている。それはいったい、何歳の時にやってくるのだろうか。19歳か、20歳か、はたまた30歳か。だが、いつその時を迎えても、俺は持ちうる力全てを使ってバレーをするだけだ。その時、傍に凛々がいればいいと、今の俺はそう思った。








「お誕生日おめでとう、若ちゃん!」

















2日遅れで大変申し訳ない。牛島若利よ永遠なれ! 古舘先生、再登場オナシャス!



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bkm
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