ぱちぱちれんさい | ナノ
 激おこスティックファイナリアリ(以下略



「空知ちゃんの怒ったところが見てみたい!」


「また始まったよ」


「だって気にならない? 空知ちゃんの激おこ姿」


「まあ、確かに空知は全然怒らないけどな」


「少なくとも、空知さん自身のことで怒ったことは、一度もないですね」


「じゃあ天童が怒らせて来いよ、そんでその身をもって体験してこい」


「ヤダ。怒ってるところが見たいのであって、怒られたいワケではないもん」


「男が『もん』とか言うな、気持ち悪ぃ!」


「でも、どうやったら怒るんだろうな、空知って。戸鷹たちにどれだけからかわれようと、常軌を逸したファンにどれだけ迷惑かけられようと、『次は気を付けてね』で済ませる奴だぞ?」


「う〜ん…。あっ、若利君絡みのことだったら怒るんじゃない?」


「?」


「ほら、空知ちゃんって自分のことをどんなに言われようが、全然怒らないじゃん? でも他人のこと、ましてや好きな人のことだったら、激おこスティックファイナリアリティぷんぷんドリームになるんじゃない?」


「スティックのりが何だ?」


「若利は知らなくても問題ない用語だから」


「むしろ、もう怒ってたりするんじゃないですか。ほら、青城の及川あたりとか、放っておけば牛島さんの悪口言ってるような人ですから。空知さんとも大会で顔合わせることあるでしょう」


「さすが太一、ナイスゲ〜ス!」


「ゲスとかいうと違う意味に取れるんでやめてください」


「GUESS、推測! 別に太一がゲスパーしてるだなんて言ってませ〜ん」


「スパ?」


「若利は知らなくてもいい言葉だから、ネットスラングだから」


「獅音、保護者か」









「というワケなんだけどさー。巴、空知ちゃんが及川あたりを相手に怒ってるとこ、見たことない?」


「小鳩と及川? 小鳩は及川のプレー、参考になるって言ってよく見てるけど。怒ったりはしないんじゃねーの?」


「まあ、いくら及川が若利のこと嫌ってるからって、空知に悪口言ったりはしないだろうし、空知もそれで怒りもしないだろうしな。諦めろ、天童」


「え〜! 空知ちゃんにブチ切れられる及川とかめっちゃ面白いじゃ〜ん! 本当にないの?」


「「いや、あったよ」」


「アレっ、戸鷹姉妹」


「インハイの準決勝後だったかな。及川がよりによって小鳩相手に牛島ヘイトかましたことあるよ」


「あと巴は『怒る=怒鳴る』だから、小鳩が怒ってるって気づかなかっただけだよ。いまだかつてないぐらい激おこだったよ」


「マジかよ、あの空知が!? 及川は一体なにを言ったんだ?」


「っていうか、空知ちゃんの激おこ姿どんなんなの? そんなコワイの?」


「くそコワい、マジでちびるかと思ったレベル」


「いやー、及川が悪いとはいえ、同情するよねー…」








インターハイ宮城県予選、準決勝後


『あれ、見かけない顔だね。白鳥沢の新しい正セッター?』


『えっ…。あ、青城の及川くんだよね。決勝進出おめでとう』


『女子は残念だったね〜。ま、男子も残念になるけど、俺らが倒すから』


『牛島くんたちはそう簡単には負けないよ。もちろん、青城が強いのも知ってるけど…』


『ふ〜ん、ウシジマクンねえ。まったくどこが良いんだか、あんな横暴なアタッカー。俺に尽くせーなんて言っちゃってさ、どこの亭主関白だっつーの、マジ腹立つ! 君もセッターだったらそう思わない?』


『牛島くんは横暴じゃないよ、エースとしての自信を持ってるの。私はそんなに上手いセッターじゃないけど、私の上げたトスをあんな風に打ってくれるなら、いくらでもトスを上げるよ』


『へー! やっぱ白鳥沢ってウシワカ至上主義なんだね〜、絶対王政ってやつ? 女子の正セッターですらそうなんだから、あの1年生のセッターなんてもっと物好きだよ。俺だったら絶対にごめんだね!』


『…アタッカーを選ぶのはセッターじゃないことぐらい、及川くんだったらわかってると思うけど』


『セッターを選ぶのもアタッカーじゃないんだよ。ほんっとにムカつく、顔を合わせるたびに「なぜ白鳥沢に来なかった」とか何だとか…。挫折を知らない天然培養のお坊ちゃまの言うことは違うね!』





ぶちんっ





『…大丈夫、わかってるよ。及川くんが、本当に牛島くんが憎くてそんなこと言ってるわけじゃないってこと』


『へ?』


『牛島くんがどれだけ練習してるか、どれだけ真剣にバレーしてるか、優れた才能に甘えたりしないでどれだけの努力をしてるか、そういうの全部わかったうえで、それでも負けたくなくて、それでも死に物狂いで努力した自分が勝ちたくて、それでそんな憎まれ口を叩いてるの、ちゃんとわかってるよ』


『ちょ、ちょっと何そんな勝手な…』


『大丈夫、私ちゃんとわかってるから。及川くんは悪い人じゃないってこと。そういうこと言うのも自分への決意表明で、対抗心を維持するためのほんの些細なことだってわかってるから。でもね、あんまりそういうこと言うの、良くないな。言えば言うほど、本当に牛島くんのこと嫌いになっちゃうよ。確かに牛島くんは少し相手の気持ちを汲むのが苦手だけど、でもちゃんと相手を気遣ってるし物凄く優しいし。及川くんにそう言うのも、そりゃ及川くんは不快かもしれなかったけど、でも誰よりも及川くんの実力を認めてるからそう言うのであって』


『…あ、あの、白鳥沢の正セッターちゃん…?』


『うん、大丈夫。及川くんに本当の意味で悪気がないこと、ちゃんとわかってるから。及川くんは牛島くんのこと、本当にライバル視してて、その気持ちが及川くんのモチベーションになってることも、ちゃんとわかってるから。みんな勝ちたいし、全国に行きたいし、そのための大きな壁になってる牛島くんのこと、倒したいって思うのは当然のことだし。そういう気持ちってやっぱり大切だよね、大丈夫ちゃんとわかってるから。私のチームのエースもそうだけど、やっぱり競う相手がいることは本当に大事なことで、あいつには負けないとか、あいつにだけは勝ちたいとか、そういう気持ちが上達に繋がるんだもんね。強くなるためには敵が必要で、及川くんにとっての敵が牛島くんであることは当然だし、うん、ちゃんと納得できるから。牛島くんの及川くんへの態度に、一切悪いことがないわけではないし、及川くんが牛島くんを特別敵視するのも、当然のことだなって思えるから。うん、大丈夫。私、ちゃんとわかってるから、大丈夫、うん


「な、なんか本当にゴメンナサイ!!!」










「怖すぎワロエナイ」


「あれは『怒りを相手にぶつけまい』とする小鳩なりの優しさで、自分自身に怒るなよーって言い聞かせてるんだけどね」


「無表情で淡々と自分に言い聞かせるその剣幕が逆に怖すぎて、及川は脱兎の勢いで逃げたからね」


「さすがにその光景は見たくねえ…。及川に心から同情した…」


「小鳩はすげー良い奴なのに、もったいねーな!」


「普段が聖人君子だから、マジ切れした時はすさまじく怖いんだよねー」


「小鳩だけは絶対に怒らせないようにしとこうねー」


「マジで心に刻むわ、及川の犠牲に感謝感謝」







絶対に怒らせてはならない白鳥沢生徒ランキング堂々1位の女、小鳩。
理由は「ファンが粘着質すぎるから」「本人が怖すぎるから」「女バレ自体が敵に回したらマジでヤバい部だから」




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