◎ 恋に落ちる音がした
「空知ちゃんはなんで若利君のことが好きなの?」
「えっ!? いや、その、それは、っていうか好きっていうかどちらかといえば憧れてるっていうかそのなんていうか…」プシュー
「空知、落ち着け深呼吸! 天童も空知の性格わかってやってるだろ」
「ゴメンね空知ちゃん〜、この反応が面白くてつい」
「女の子で遊ぶんじゃない。でも空知、なんで若利のこと好きなの? 俺も気になるな、若利好きな女子は結構多いけど、その子らとはまた好きなところが違うだろ?」
「そうそう、空知ちゃんはあの無駄に整った顔と『ウシワカ』のネームバリューで釣られるタイプじゃないっしょ?」
「天童、言い方」
「いや、その、あのね…入学したばっかりの頃、はじめて巴と一緒に男子の居残り練に混じりに行った時にね…」
「ふんふん」
「牛島くんが、『ナイストス』って言ってくれて…それで…」シュウウウウウウ
「え? そんだけ?」
「だ、だってあの牛島くんに一発目に上げたトスで『ナイストス』って言われたんだよ!? セッター冥利につきるし、それに私はバレー推薦もらってないし、私なんかが白鳥沢のバレー部に来ちゃってよかったのかなってずっと不安だったから…」
「空知は一般受験組だもんな」
「巴に『ナイストス』って言われただけでも嬉しかったのに、あの牛島くんに言われるなんて…。『私はここにいてもいい』って認めてもらえたみたいで嬉しかったの。それで気が付けば目で追うようになってて…」
「あ、そっか空知ちゃんって女子校出身だったっけ。要するに男慣れしてなくて、初対面で優しくしてくれた男前にクラっときちゃったと」
「人の初恋をそんなアッサリ片付けないでくれる?」「そうだぞ天童、空知の言う通り」グリグリ
「いだだだだだだだゴメンゴメン空知ちゃん!!! だから獅音それはやめて、頭グリグリはほんとやめて!!!」
「むしろ私は天童と瀬見くんが、どうして巴のことが好きになったのかが気になるな」
「なっ!? お、俺!?」
「え? そこ触れる?」
「あ、俺も気になる。空知だけってのは公平じゃないから、天童と英太も言いなよ」
「空知に聞いたのは天童だろ! 俺関係なくね!?」
「英太君、先言いなよ」
「なんでだよ!! ってかこういうのは後の方がキツイだろ!!」
「実際、俺と英太と巴はエスカレーター組だけど、そこんとこよく知らないからなぁ。という訳で英太、発表発表」
「クソ、根に持つからな…。中学の時、正セッター外された時期があんだよ。まあ、今の数倍エゴ丸出しのトス上げてたから、仕方ねえとは思うけど。そん時に巴が俺に『トス上げてくれ!』って言ってきたんだよ」
「へえ、それでそれで?」
「いくら巴と言えど女子にトス上げるなんて、とか思ってたから断ったんだけど、あいつしつこくて。仕方ねえからトス上げてやったら、『もっと高く上げろ』とか言ってきて、ムカつくからめっちゃ高くトス上げたんだよ。そしたらあいつ、それを完璧に打ってさ…。あのスパイクは今でも忘れらんねえわ」
「その頃から、あんなアホみたいに高いトス打ってたのねん」
「俺がビックリしてたら、あいつすげえ笑顔で『ナイストス!』って言ってきてさ。そん時、自分が上げたトスからスパイクに繋がるのってすげー嬉しいって、改めて思ったんだよ。そんで、いつの間にかあいつにトスを上げるのが楽しみになってる自分がいて…はい終わり、終了、ジエンド!! あーっ、こっぱずかしい!! 」
「恥ずかしがることないよ、素敵な話じゃない!」
「急にトスワークが丁寧になったなと思ってたら、そういうことがあったワケだ」
「うるせぇ、この話は終了!! 次、天童話せよ!!」
「え〜この英太君株丸上がりな雰囲気の中で話すの? 冗談だよ、そんな『抜け駆けすんな』みたいな目で見ないでよ」
「じゃあさっさと話せっつーの!」
「高校入ってすぐにあのゴリラが居残り練に来たでしょ。そん時はガサツな女だな〜ぐらいにしか思ってなかったんだけど、巴のスパイクにブロック飛んだら一発目吸い込んじゃってさ」
「あいつのスパイク、かなり独特だからな。最初はすげー合わせ辛いよな」
「そんで俺も闘志沸いてきて? 三発目でドシャット決めたんだよ。そしたらあいつ、『すげーじゃん、あんた絶対すぐにレギュラー入りできんよ!』ってニコニコして言うワケよ。俺、けっこう中学で色々あったクチだから、それでグサッとやられたというか」
「お前も空知と似たようなパターンじゃねーか」
「厳密に言えば違います〜、俺は女慣れしてましたしとっくに非童貞ですし」
「知らねーよそんなこと」「女の子の前で何言ってんだコラ」グリグリ
「あだだだだだだだまたそのくだりやんの!?」
「き、気にしなくていいよ…でもわかる、巴の一言って裏がないから心に響くよね」
「まあ、巴が職員室呼び出し中でよかったな。こんな話、めったにできないし」
「そういやなんで巴は呼び出されたんだ?」
「朝練の時、
またスパイクで窓ガラス割っちゃって…」
「ねえ英太君、なんで俺らあいつのこと好きなんだろうね?」「言うな、俺が時々本気で疑問に思うことを…」
うちの拍手連載は『瀬見と獅音は白鳥沢中等部からのエスカレーター組である』との妄想と捏造のもとに執筆してます。原作で外部組だと判明したら修正しますが今んとこはこのままで。
「ところで、白布はなんで空知さんが好きなの」
「…誰にも言うなよ」
「おお」
「白鳥沢を受験した時、空知さんが面接の受付してて、そん時に受験生1人ひとりに『頑張ってね』とか『緊張しなくても大丈夫だよ』とか声かけてるのを見て、一目惚れした」
「空知さん、ほんといい人だな」
「入学した後に、俺と同じで一般受験組だったって知って、スポーツ推薦じゃないのにめちゃくちゃ努力して正セッターになったのも知って、ますます好きになった」
「なるほどな、確かにそりゃ好きになるわ」
ドドドドドドドド…
「いま誰か小鳩さんの話してた!?」
「うわっ、早房」
「してない、さっさと帰れ」
「あっ白布! テメー、朝練の時にまた私の小鳩さんと2人っきりで喋りやがったな! 私の許可も取らずに小鳩さんの仲よさげに話しやがって…!」
「美羽、ほんとに気持ち悪いし、白布と小鳩さんに迷惑だし、ほんとに気持ち悪いからやめて」
「泉澄、酷い!! 2回も気持ち悪いって言った!!」
「白布がんばれ。まずは小姑を打ち倒して、次は最大の強敵、牛島さんだな」
「なにそれめっちゃしんどい」
早房美羽
白鳥沢女バレの1年。原作時系列だと2年。小鳩が好きすぎて生きるのが辛い。
今藤泉澄
白鳥沢女バレの1年。原作時系列だと2年。常識人だが毒舌で辛辣。