◎ 恋と乾燥の季節です
「いてっ」
「どしたの瀬見?」
「唇切った。もう乾燥に悩む季節だなー」
「ほんとだねー。これ使う?」
「ん? …って、リップクリーム!? お前、いくら脳内バレーボールしかない朴念仁でもさすがにそれは…!!」アセアセ
「もう切れたと思って買ったら、家に予備あってさー。使ってないからあげるよ」
「あ…なんだそういうことな。そりゃそうか、いくらなんでも巴も女子だしな。サンキュ、ありがたく貰うわ」
「? あ、やべー! 体操服、部室に忘れた! 取ってくるわ、そんじゃまた放課後!」
「おう。…は〜、あいつはわかってやってんのか?」
「間接キスだ〜なんて考えちゃってたんだ、英太君のムッツリ」
「げっ、天童! 仕方ないだろ、俺も健全な男子高生なんだから」
「まーでもあの筋肉ダルマ、時々不安になるよな。『こいつ自分が女だってこと覚えてんの?』って」
「バレーやってる以上は女は捨てるもんだと思ってんだよ。それはいいんだけどバレー以外のとこはちゃんと女だって自覚持ってくれないとな…」
「あ、ハンドクリーム切れてる」
「マジか、俺の使う?」
「川西のやつ、体質に合わないっぽくて前に使ったら手荒れしたからいい」
「ふーん。セッターには厳しい季節だな」
「そうだな」
「あっ、白布くん。ちょっといい?」
「空知さん、どうかしましたか?」
「実はハンドクリーム塗ろうとしたら多く取りすぎちゃって。少しもらってくれる?」
「えっ…いいんですか」
「あ、もしかして塗っちゃった後だった? それだったらごめんね、じゃあ瀬見くんに…」
「いえ、ちょうど切らしてたとこなんで。むしろありがたいです」
「そう? よかった。それじゃ、お願いします」スッ
「はい(…指、細いな。こんな細い指でトス上げてるのか…)」スッ
ペタペタ…
(…手、柔らかっ! ヤバイ、これは刺激が…!)
「ごめんね、ありがとう」
「あっ…いえ、とんでもないです(名残惜しい…)」
「よかったじゃん、白布」
「ああ。とりあえず俺、1週間は手洗わないわ」
「お前の怖いところは本当に有言実行しそうなところだよ」
「空知さん、この間もらったハンドクリームなんですけど。俺も今度からあれ使いたいんでどこで買ったか教えてもらっていいですか?」
「うん、もちろん! あれいいよね、『Swallow』っていう会社のクリームなんだけど、あれに変えてから手荒れ知らずなんだ。小さいドラッグストアとかだと売ってないとこも多いから、今度練習終わったら案内してあげるね」
「いいんですか? すみません、ありがとうございます(空知さんとお揃い…)」
「お、空知も『Swallow』のハンドクリーム使ってんのか?」
「瀬見くん。うん、瀬見くんも?」
(は?)
「うん、俺も俺も。あれほんといいよな、やっぱセッターはみんなあれ使ってんだなー。白布もあれにすんのか? 普通のハンドクリームよりちょっと高いから、小遣いもらっとけよ」
「…瀬見さん、ほんと空気呼んでください」
「は!? なんで!?」セッターあるある
冬場は手先の乾燥、ひび割れがヤバい。気付いたらボール血まみれとかザラ。ちなみに普通は人差し指とか中指がひび割れるんだが、私は真っ先に小指がひび割れた。下手くその証明、そんな私は元セッター。よくクソセッターって怒られてました。