じゅうまん | ナノ
殺し屋探偵×名探偵コナン
その日、俺と蘭、それからおっちゃんは京都である事件を解決し、大阪発の新幹線『のぞみ』で東京に帰る予定だった。
しかし、のぞみで起きたとある殺人事件が、俺達と2人の謎の外国人を引き合わせることになる。
「ほんなら、元気でな、工藤」
「おう、お前らもな」
俺、工藤新一こと江戸川コナンは駅にて友人の服部平次と別れの挨拶を交わしていた。近くで俺の幼なじみである毛利蘭と服部の幼なじみの遠山和葉が同じように別れを言っていた。毛利小五郎ことおっちゃんは・・・ビールでも買ってるんだろう。
「・・・お?見てみ、工藤」
「ん?」
ふいに服部が遠く離れた売店の前にいる黒服の集団を指差す。その黒服らに囲まれて、一際大柄な外国人らしい男性が立っている。どこかで見覚えのある顔だ。
「あれ、あの人確か・・・」
「オペラ歌手のフリオ・アントネッリ。世界一のテノールとか言われてるイタリア人や。2日前、コンサートで大阪に来たんやと」
「へぇ、そういえば東京でもコンサートをやるって聞いたな」
一際目立つ巨体が新幹線に乗り込んだ。時計を見ればもうすぐ出発の時間だ。いつの間にかおっちゃんもビールの入った袋を持って戻ってきていた。
「おい蘭、コナン!もう出るぞ、早く乗れ!」
「あ、待ってお父さん!和葉ちゃん、またね!」
「うん!またなー蘭ちゃん!コナンくんもなー!」
「うんー!・・・じゃあな、服部」
「ほんじゃ、またな」
チャイムが鳴り出したホームを跡に、俺たちは新幹線に乗り込んだ。
「それにしても、いい眺めね〜。新幹線代高かったんじゃない?」
「今回の依頼主が羽振りが良くてなぁ!それもこれもこの小五郎様のおかげよ!」
(もう酔っ払ってんのかよおっちゃん・・・)
のぞみに揺られながら、俺達は東京へ向かう。今回の依頼主は有名な株式会社の大株主らしく、謝礼含め交通費も気前よく出してくれた。
「あ、わたしトイレ行ってくるね!」
「行ってらっしゃい〜」
「えっと、確かあっちに・・・・・・キャッ!」
通路側に座っていた蘭が席を立った瞬間、車体が揺れて蘭がふらついた。咄嗟に支えようとするが小学生の身体じゃ手の長さが足りない。
「蘭姉ちゃ・・・!」
「わっ!・・・って、あれ?痛くない?」
後ろに倒れかけた蘭の身体を、誰かが受け止めていた。誰かに支えられているのに気付いた蘭がすぐさま体勢を元に戻す。
「す、すみません!・・・って、外人さん?」
蘭を支えていたのは、透き通るような銀髪を腰まで伸ばし、長身で体格もいい、ラテン系の外国人の男だった。その後ろに男の胸ほどの身長の、これまたラテン系の赤毛の女が立っている。だが、観光に来た外国人カップルには見えない。俺はひとまず警戒した。
「大丈夫かぁ」
「あ、す、すみません!ありがとうございます!日本語喋れるんですね」
「すみません、うちの娘が・・・」
「・・・う゛おぉい、アンタさっきトイレ行くとか言ってたよなぁ。悪いがこいつも連れていってくれねぇか」
銀髪の男が指差したのは後ろに立つ赤毛の女だ。完全にそっぽを向いている女の頭を男が軽く叩いた。
「こいつは英語とイタリア語以外喋れねぇし読めねぇんだ。まさか俺が連れていって日本のトイレの使い方をレクチャーする訳にもいかねぇ。簡単にでいいからこいつに教えてやってくれねぇか?」
「はい、大丈夫ですよ!簡単な英語ならわたし喋れますから!えっと、お2人のお名前は?」
「・・・俺はエドワードだ。【おら、自己紹介ぐらい自分でしやがれ!】」
「・・・Maria」
「エドワードさんに、マリアさんですね。わかりました、任せてください!」
相変わらず人を疑うことを知らない蘭はマリアと名乗った女の手を引いてトイレへ向かっていった。エドワードと名乗った男はそれを見届けると自分の席へ戻っていく。俺はエドワードが席に完全に座ったのを確認すると、席を立って蘭の後を追った。
「おい、どこ行くんだコナン!」
「ぼくもトイレ!」
何か、あの女は怪しい。醸し出す雰囲気が一般人のそれとは違う。まさか、黒の組織の仲間か?俺は急いで蘭と女が向かったトイレへ走った。
「My name is 蘭!Nice to meet you!」
「Yeah.」
英語で簡単な会話を交わしながらトイレへ向かうと、誰かが使っているようで鍵が閉まっていた。マリアにしばらく待つように言うと、おとなしく扉の脇の壁に寄り掛かった。しばらく無言で待つと扉が開き、中から顔色の悪い外国人の女性が出てきた。
「スミマセン、オマタセシマシタ」
「あ、いいえ!マリアさんお先にどうぞ!」
蘭はジェスチャーを交えてマリアに先を譲った。マリアが頷きを返して扉に手をかけた時―――
「うっ・・・!!」
先程トイレから出てきた女性が口を押さえてその場にうずくまった。うめき声を上げながら頭を床に擦りつける。左手に持っていたポーチの中身が散らばった。
「だ、大丈夫ですか!?」
【どいて】
すぐさま女性に駆け寄った蘭を押し退けて、マリアは女性のもとにひざまずいた。苦しむ女性を抱え上げ便器のもとまで連れていき、口の中に手を突っ込んで吐かせた。驚く蘭に最初はイタリア語で何かを言ったが、言葉が通じないことを思い出すと英語で言い直す。
「Please take someone.Harry.」
「あ・・・い、Yes!」
誰か呼んできて、と告げたマリアに従い、蘭はすぐさま駅員を呼びに行った。トイレから座席の通路に出ると、走ってきたコナンと鉢合わせる。
「どうしたの蘭姉ちゃん?」
「トイレで女の人が倒れたの!誰か呼んでこなきゃ・・・」
「Wait.」
慌てて駅員室に行こうとする蘭をトイレから出てきたマリアが止めた。無表情で首を横に振る。
「She died.」
彼女は死んだ―――マリアは非情に告げた。
「恐らく、毒を飲んだんだろうな。名前は・・・何て読むんだこりゃ?」
「・・・ラウラ・アントネッリだぁ。イタリア人だろうなぁ」
乗客が入ってこないように駅員が通路を塞いでくれている中、その場にいた蘭とマリアという女、俺におっちゃんとエドワードという男が加わった5人がトイレの扉の前に立っていた。おっちゃんは床に散らばった何個か錠剤の入ったピルケースを見る。
「おそらくは、毒はこれに入れられてたんだろうな」
「ねぇお父さん、警察の人は・・・」
「走ってる新幹線の中に来れる訳がないだろ。次に停車する駅までは来れないな」
「・・・ねえおじさん、この人と一緒に乗ってる人に知らせたほうがいいんじゃないかな?」
「そうだな・・・。すみません駅員さん、アナウンスしてくださいますか」
「わかりました!」
おっちゃんに頼まれた駅員さんがアナウンスに向かった。俺は周りを見渡す。持ち物はポーチに入っていた本人のパスポートに携帯電話、床に散らばっていたピルケースだけのようだ。自殺か、他殺か。それを解くには、もう少し調べなければならない。
【・・・う゛お゛ぉい、余計なことはするなよぉ】
【保障はできないね】
【・・・ったくよォ!!!】