じゅうまん | ナノ





家光が殺し屋探偵に初めて依頼する話



「・・・き、君があの『segugio』なのか?」


「はい、私が『segugio』ことナナシです」


その時無愛想に答えた彼女は、とてつもなく小さな子供に見えた。


「スクアーロ、本当に彼女が・・・」


「う゛お゛ぉい、しつけぇぞぉ!!そいつが最近裏社会で『探偵』と呼ばれてるナナシだぁ!!」


俺はもう一度目の前の小さな少女を見下ろした。俺の胸のところに赤毛の小さな頭がある。彼女の名前はナナシ。今イタリアの裏社会を賑わせている殺し屋で、『探偵』『segugio』と呼ばれている少女だ。あるファミリーのボスが遺した隠し金庫のパスワードを少ないヒントから導きだし、『まるでシャーロック・ホームズのようだった』と評されている。しかしその少女は、ディアストーカーハットもインバネスコートも身につけていない。安物のTシャツにジーパンを履いただけの、垢抜けない格好をしていた。誰も彼女を殺し屋だとは思わないだろう。


「君はいくつなんだい?」


「14歳です」


「スクアーロより3歳年上か。しかし、それにしては・・・」


「11歳とか13歳のくせに無駄にでかいスクアーロ君やザンザスさんが異常なだけです」


「うるせえクソチビ!!」


「ご心配なく、腕には自信があります。依頼があるんですよね?」


「あ、あぁ」


いかんいかん。マフィアは外見に騙されてはいけない。この世界はにこやかに笑う子供が毒を盛る世界なのだ。


「改めて自己紹介しよう。俺は沢田家光。ボンゴレの門外顧問だ」


「よろしくお願いします」


これが彼女との初対面だった。











俺はナナシをある倉庫に連れてきた。ナナシに依頼をすることになった原因の、とある『人物』がここにいる。


「君に依頼というのはだな。この遺体の身元をどうにかして調べてほしいんだ」


「・・・身元調査ですか」


この倉庫の隅に、既に白骨化した誰かの遺体がある。骨格からいって男だろう、骨の損傷から何者かに暴行を受けたと思われる。身元がわかるようなものは、一切持っていない。ボロボロになった服を纏う人骨が発見されたのは、ちょうど一昨日の深夜だ。新しい武器庫になるはずだったこの倉庫に武器を運んでいる最中、ブルーシートをかけられている彼を発見した。


「ボンゴレでも調べてはみたが、やはりヒントが少なすぎて見つけることができなかった。この倉庫はボンゴレ所有の武器をいくつか運んでしまったから、警察に調べてもらう訳にもいかない」


「なるほど、それで私をという訳ですか。でも、骨自体は闇医者とかに調べてもらった方がいいと思いますがね」


「それはシャマルにもう調べてもらった。この骨の男性は中年で痩せ型、それから健康状態は頗る良かったらしい。死後1年半ほど経っている、と」


「・・・1つ聞いてもいいですか?もしこの骨が誰かわかったら、どうするつもりですか」


ナナシは辺りを見渡しながら言った。俺は懐からあるものを取り出す。


「ナナシ、これを見てくれないか」


「・・・・・・」


俺が取り出したものはこの遺体が持っていたものだ。シックな黒い包装に包まれた、女性物のアクセサリーブランドの箱。誰かへの、プレゼントなのだろう。


「恋人か、妻か、大事な誰かへのプレゼントになるはずだったんだろう。9代目も俺も、できれば彼とこのプレゼントをその人のもとに届けたい。そう思っているんだ」


「・・・なるほど」


ナナシは特に表情を変えることもなく答えた。ナナシは人骨に近付いて服の中を探っている。


「一応ここは見つけたままの状態にしてある。彼の服の中から見つけたものはこのプレゼントだけだった」


ナナシは答えず、遺体を探り続けた。しばらくすると遺体を探るのをやめ、周りをもう一度見渡す。


「ネクタイがありませんね」


「え?」


「ネクタイです。Yシャツのボタンを上まで全部閉めているのに、ネクタイがないのは変ですね」


ナナシは遺体の周りをうろつきながら何かを捜すように視線を床に移した。すると、何かを見つけたようで火薬が積まれている棚の近くにしゃがみ込む。


「お、おい危ないぞ」


「これ、ネクタイピンですね」


ナナシは金色の小さなものを手にこちらにやってきた。近くで見てみると、ネクタイピンのようだった。


「なるほど。この人が何者か、絞りこめてきましたよ」


「!?」


馬鹿な、こんなに速く!?ボンゴレの人間が何日も調べてもわからなかった彼の身元を、たった数分で!?


「な、何故わかったんだ?」


「まだわかってはいませんけど。このネクタイピンは、メンゼル社の創立10周年を記念して僅か10個しか販売されなかった限定品ネクタイのピンです。かなり高額だったにも関わらず即完売し、何ヶ月か前にもネットオークションで高値で取引されていました。そんなものを恐らくこの白骨死体が身につけていた・・・。つまり、そのメンゼル社の限定品を購入した10人の中の1人が、彼だということです」


「では、彼が着けていたネクタイは・・・」


「彼を殺した者が転売するために奪ったんでしょうね。彼が抵抗したか暴行を受けた弾みでピンが外れた。多分、何ヶ月か前にネットオークションで取引されていたのは、彼のものじゃありませんか?あのネクタイにはピンがなかったと、誰かが言っていた気がします」


俺は思わず絶句したと同時にボンゴレの連中に僅かな失望感を覚えた。解き明かされると簡単な話だ。何故ネクタイピンに気付かなかったのか、そもそも何故ネクタイを着けていないことを疑問に感じなかったのか。ボンゴレはイタリアの頂点にいるという事実が、構成員達の気を緩ませてしまっているのだ。まだまだ鍛え直す必要があるな、と再確認した。まさか、こんな小さな少女にわかることが、俺達にはわからなかったとは。


「メンゼル社は服飾ブランドであると同時に麻薬組織です。まさかボンゴレがメンゼル社に購入者リストを見せてもらうなんてことはできないでしょう。彼を殺した連中が財布やら身分証明書を奪ったと考えるのが自然ですし、ネットオークションの出品者から炙り出すのが一番いい手だと思いますけどね」


「あぁ、それなら簡単だ。あのネットオークションの裏にいるのは我々ボンゴレだからな。調べればすぐにわかる」


「・・・それは初めて知りました」


ナナシは初めて少女らしい、驚いたような表情を見せた。俺はその姿に、思わず笑みが零れた。










「そんなこともありましたね」


「いやあ、あの時の俺の驚き様と言ったらなぁ・・・。しかしナナシもあの時に比べれば大きくなったなぁ」


「だからあの歳で成長しまくってるスクアーロ君やザンザスさんがおかしいんですってば」


あれから13年経って、俺とナナシの縁はまだ続いている。相変わらずナナシはいい友人で、いい殺し屋で、いい探偵だ。


「結局あの時の依頼ってどうなったんでしたっけ?」


「あぁ、あの後出品者の男が他にも様々な盗品を転売してるのがわかってボンゴレがシメに行ったら、すぐに誰か判明した。彼はイタリアの不動産会社の社長で、犯人はストリートギャングだった。金欲しさに見なりの良さそうな奴を選んで殺していたようだ。当時はあの倉庫はストリートギャング達のたまり場になっていたらしく、そこに遺体を隠してたって訳だ。どうりで武器を移している最中に若造共をちらちら見たという報告が来るはずだよ」


「で、あのプレゼントは」


「・・・あぁ、ちゃんと彼の奥さんに届けたよ。綺麗な奥さんだった。彼の遺体を見て、泣いていたな」


あの時の奥さんの泣き顔が俺はいまだに忘れられない。もし俺が任務で死に、その死が奈々に伝わったら・・・。奈々は泣いてくれるだろうか。


「ま、家光さんも奥さんを泣かさないように頑張ってくださいよ」


「・・・簡単に言ってくれるなぁ!全く、ナナシは13年経とうがナナシだ!」


「いたっ」


俺は痛がるナナシの背中を叩いた。









アルシア様のリクエストを書かせていただきました。リクエストありがとうございました!






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