じゅうまん | ナノ





もしも学生時代にザンザスが探偵に恋していたら



退屈は人を殺せる。ザンザスはそう確信した。
くだらない講義、くだらない対人関係、くだらない実技。裏社会の人間としての矜持もなければ威厳もない。父親(名目上は)に通わされている『工場』と呼ばれるこの学校は、ザンザスには甚だ合わなかった。


「う゛お゛ぉい、ザンザスぅ!!テメェのパルトネルが捜してたぜぇ。課題提出まであと2時間しかねぇとか騒いでやがったが・・・」


「うるせぇ」


「ん゛がっ!!」


喧しく騒ぎ立てる同級生のスクアーロの頭目掛けて蹴り上げると、スクアーロはうめき声というには耳に煩さすぎる声を漏らした。イライラが益々増してくる。
自身のパルトネル、ボンゴレ門外顧問チーム見習いのパンテガーナは、これまたザンザスとは全く合わない人間であった。立場を気にしての振る舞いか生来の性質かは知らぬが、ザンザスの顔色を伺いながら淡々と事を進めるパンテガーナの性格はザンザスにとって不快意外の何物でもなかったのだ。そのパンテガーナの言うことを聞き入れるということは、それがどんなに重要で必然的であったとしてもザンザスにとっては屈辱的だったのである。
どうせ飼うならば、躾の済んだ従順な犬よりも野良に近いような反抗的な猫がいい。手間が省ければ省けるほど、それを屈服させた瞬間が楽しめるというものだ。


「単位落とされても知らねぇぞぉ!!!」


「その時は世話になった野郎に一人残らず礼参りしてから退学してやる」


「・・・う゛お゛ぉい、お前の場合シャレにならねぇからやめろぉ」


ならば聞くなと言ってやりたいが、どうせその手のことを言っても「?」と訳のわからなさそうな顔をするであろうことが容易に想像できるので言いはしない。この男の長所は馬鹿であることぐらいだと、ザンザスは思っている。
つまらない、くだらない。ボンゴレの時期ボスとして育てられてきたザンザスは、いつ退学届けを出すかという問題だけを考えていた。













ザンザスは自分の眼下で血まみれになって倒れている男を見下ろした。名前は忘れたが、確かどこぞのファミリーの時期ボスだとかいう上級生にあたる男だ。何故その男が自分の足元に倒れているかというと、気に入らないだとか生意気だとか言い掛かりをつけてきたので、つい何発か殴って何発か蹴り飛ばしたのだった。


「ドカスが」


ザンザスは足元の巨体を足で転がすと、元いたベンチに座って煙草に火をつける。遠くで鐘のなる音が聞こえた。講義開始の合図だが、ザンザスはこの頃はめっきり講義になど現れなくなった。第一、あんな眠気を誘発するだけのくだらない講義を受ける人間の気がしれない。


「・・・何やってんの、ラドクリフ」


急に、背後から声がした。振り向くのも面倒なのでそのまま煙草を吸い続けていると、ザンザスの座っているベンチの脇から1人の女がすっと現れる。ザンザスは視線だけで女を見た。
赤毛の髪に細い身体、無表情のその女は自分が血まみれにした男に近付いていった。そうだ、確かあの男はラドクリフとか言った。名前は思い出せないが。


「医務室とか連れていった方がいいのかな」


「・・・・・・」


「・・・黙ってるってことは別にいいってことだよね」


黙っているのではなく気を失って喋れないだけなのだが、女はそう結論付けてラドクリフから離れた。ふと女がこちらを振り向き、ザンザスと視線がかちあう。


「・・・・・・授業中ですよ」


「テメェが言えた義理か」


「私は課題提出したから別にいいですけど、ザンザスさん達のパルトネルはまだでしょう。さっきあなたのパルトネルが血眼になってあなたを捜してましたよ」


そういえば、スクアーロと会話をしてからもう2時間ほど経っていた。つまり、本来ならば先程の鐘がなる前に課題を提出しなければならなかった訳だ。しかし今回の課題はくだらないにも程がある。その課題とは、とある企業の回線を2時間傍受して、その全文を記録し提出するというものであった。


「ま、あんなくだらない課題、面倒なのはわかりますけどね」


女はそう呟いてザンザスが座っているベンチの横のベンチに座った。女の方も煙草を取り出して火をつける。ザンザスは女の顔を見て、自分はその女を知っていることを思い出した。


「テメェはカスザメのパルトネルか」


「カスザメ?・・・あぁ、スクアーロ君のことですか。的確といえば的確だな」


「名前は」


「え?」


「名前は何ていう」


ザンザスは自分の口から出てきた言葉に少なからず驚いた。他人に名前を聞くなんて、何年ぶりのことだろうか。名前など聞かずとも相手が勝手に名乗ってくるので、ザンザスは名前を聞くという行為を忘れつつあった。


「・・・ナナシです。ナナシ・ジャッロ」


「・・・・・・」


ザンザスは改めてナナシに視線を向けた。特別不細工だという訳でもないが、決して美人ではない。これ以上の美人は探せばいくらでも見つかる。特徴も特にはないし、何よりジンジャーだ。磨けば光りそうだが、今の段階では何一つこれといったところがない。


「スクアーロ君がよく話してますよ、あなたのこと。スクアーロ君、ザンザスさんを余程尊敬してるのか、はたまた心酔してるのか」


「男に心酔されたって何ら気分は良くねぇ」


「女に心酔されたって気分は良くないんでしょう」


ナナシは煙草を地面に捨て、足で揉み消したあとザンザスの前を通ってその場を去ろうとした。ザンザスはふいにナナシの腕を引いた。


「うわっ」


細い上に軽い身体はいとも簡単にバランスを崩し、ザンザスの胸に倒れ込んできた。そんなに力を加えたつもりはないのだが。


「・・・何するんですか」


「・・・大した意味はねぇ」


大した意味はないが、無意識にやってしまった行為にナナシだけでなくザンザスすら困惑していた。2人ともその困惑を表情に表すことはないが、異様な空気が2人の間に流れる。


「・・・すみませんけど離していただけますか」


「・・・うるせぇ」


ナナシの腕を掴んだまま自分の上にのしかかるナナシを見遣った。よく見れば、それなりに整った顔をしている。美人ではないが。


「・・・よく考えてくださいよ。私はあなたと違ってひ弱ですし、こんな状況から脱する手段なんて全くないんですよ」


「知ったことか」


「・・・どうしろって言うんだ」


ナナシは腕を掴むザンザスの手を何とか外そうとするが、唯一自由の利く腕もザンザスに捕まれた。正に手も足も出ない状況に追い込まれたナナシは、初めて困ったような表情を浮かべる。


「・・・離してくれませんかね。私トイレ行きたいんですけど」


本当に困ったような表情でナナシが言う。ザンザスはその反応を楽しんだあと、手の力を緩めてやった。その隙を見計らってナナシがすぐさまザンザスから逃れる。


「・・・悪趣味にも程がありますよ。こんな何の力もない女で遊んで楽しいですか」


ナナシは呆れたような声色でそう言った。ザンザスが煙草の煙を吐き出すと、さっさとザンザスに背を向けてその場を去る。


「ああ、マルボロくさいなぁ・・・・・・。私マルボロ嫌いなのに・・・・・・」


ボソボソと呟くナナシの背中を見ながらザンザスは新しい煙草を取り出す。従順には程遠いその姿に、ザンザスは密かにほくそ笑んだ。












匿名リクエスト。リクエストありがとうございました!








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