じゅうまん | ナノ
殺し屋探偵×名探偵コナン
「Laura!!!」
アナウンスが流れて数分、大柄な外国人の男性が3人の外国人と一人の日本人を連れてやってきた。息を切らして横にされた遺体のもとにひざまずくく。完全に死んでいることを確認すると、身体を震わせて泣きじゃくり始めた。
「あれ?あの人は・・・」
「また外人かぁ!?あー、えーっと・・・」
「失礼。私、是枝と申しまして、フリオ・アントネッリの通訳をしています。詳しい話をお聞かせ願いますか?」
「えぇ?あぁ、はい。私は毛利です。それじゃあ・・・」
やっぱりだ。この一際でかい体格の男は駅のホームで服部と見たフリオ・アントネッリだった。是枝と名乗った日本人の通訳におっちゃんが詳しい事情を話すと、是枝さんはイタリア語らしき言葉で通訳した。イタリア語は少しぐらいなら聞き取れるが、完璧ではないから何を言ってるかは所々しかわからなかった。
「失礼ですが、そちらの方々は・・・」
「あぁ、ご紹介が遅れました。背の高い方がハビエル・アントニオーリ。フリオのガードマンです。あちらの眼鏡をかけている方はラウラの主治医のクリストフ・バッジョ。そちらの金髪の女性はリア・カレーラス。フリオのマネージャーです」
フリオさんの肩を摩る金髪の女と、その隣に立つ眼鏡の男、それから直立不動の長身の男のことをおっちゃんが尋ねると、是枝さんが答えてくれた。
「しかし、フリオさんやあなたがたはともかくラウラさんは何故日本に?」
「ラウラはフリオの妻なんです。彼女はかなりの日本びいきでして、来日が決定したフリオにどうしてもとねだって・・・。以前から病気がちではあったのですが、クリストフを同伴させることを条件で日本へ来たのです。まさか、こんなことになるなんて・・・」
「ねぇおじさん、ラウラさんってトイレでお薬飲む癖とかあったの?」
「コラ!!子供がしゃしゃり出るんじゃねえ!!」
気になっていたことを是枝さんに聞いたらおっちゃんに頭をげんこつで殴られた。いてぇ、いつものことだけど。
蘭の話によれば、トイレから出てきてすぐに苦しみはじめたらしい。普通なら、トイレでピルケースに入っていた錠剤を飲んだと考えられる。
「はい、ラウラはフリオや皆に心配させないようにと薬を飲む時は誰にも見られないところで飲むようにしていました。ですから薬は水がなくても飲める錠剤にしてもらったらしいです。トイレに行ったのも駅弁を食べた後で、丁度薬を飲む時間でしたから・・・」
「じゃあやはり毒はあのピルケースに入っていたと考えるべきか・・・」
おっちゃんがウンウンと考え込んでる中、俺はあることに引っ掛かった。
駅弁を食べていた、と是枝さんは言った。つまりは、そちらに毒が入っていた可能性も十分ありえるということだ。ピルケースに入っている錠剤という如何にも怪しげな薬に目をとられ、おっちゃんは毒はピルケースに入っていたと思い込んでいる。
「この薬はクリストフさんがラウラさんに渡しているのですか?」
「はい、そうですが・・・」
【ぼ、僕がラウラに毒を飲ませたと疑っているのか!?馬鹿馬鹿しい、僕は彼女の主治医なんだぞ!!】
「いんや、わからねえぞ〜。世の中には自分の患者を手術ミスに見せかけて殺す医者もいるからな〜」
(また勝手に決め付けて・・・)
仕方ない、いつも通り俺が解決するしかないな。俺は唯一ちゃんと話の通じる是枝さんに話を聞くことにした。
「ねぇねぇ、是枝さん」
「はい?」
「駅弁を買ったのは誰なの?」
「駅弁を買った人?確か・・・ラウラとフリオが2人で選んで、私が買いました。私がずっと持っていましたよ」
「へ〜。ちなみに、何のお弁当?」
「幕ノ内弁当でしたね。駅内販売の方が捨ててくれると言ってくれたので、もう捨てましたが」
つまり駅弁に毒を混入させることは是枝さんにしかできなかった訳だ。幕ノ内弁当はおっちゃんが買っていた弁当だから見ればわかる。俺は急いで駅内販売をしている駅員を探しに行った。
「いた!」
探しだしてから間もなく駅員は見つかった。ところが、その駅員と見覚えのある外人2人が話している。
「悪いなぁ、こいつの指輪が入ってるかもしれねえんだが見せてもらっていいかぁ」
「構いませんよ、どうぞ」
あれは、エドワードとマリアの奇妙な2人組だ。何やら、ゴミ袋の中を探っている。まさか、あの2人も自分と同じことを考えていたというのか。
【どうだぁ】
【違うね。容器の外から直接混入したんじゃないみたい。穴の1つも開いてない】
【あの駅弁は包装が分厚いからなぁ。穴でも開けなきゃ毒は入れられねえ】
【・・・スクアーロ君、これ何て言うんだっけ。この2本の棒】
【割り箸のことかぁ?】
【容器の数とワリバシの数が合わない】
何を言っているかはわからないが、マリアは満足したようにすくっと立ってエドワードを置いてこちらに歩いてきた。俺は思わず空席の間に身を隠す。
(・・・やっぱりあの2人は変だ。一体何者なんだ・・・?)
俺は2人がいなくなってから駅員のもとに行き、弁当から毒を混入した訳ではないことに気付き、弁当と割り箸の数が1つだけ合わないことに気付くのだった。
【私の妻をお前が殺したのか!!】
【馬鹿なこと言わないでいただきたい!!何故私がそんなことを・・・!!】
【いい加減にしてちょうだい2人共!ハビエル、止めて!】
戻ってきてみれば、取っ組み合うフリオさんとクリストフさんをリアさんが止め、ハビエルさんが引き離した。さすがオペラ歌手と言わんばかりの美声で怒鳴るフリオさんの声に蘭とおっちゃんが聞き惚れている。そんな場合かと突っ込みたくなった。エドワードとマリアは、いないようだ。
「ねぇねぇ、是枝さん」
「はい?」
「もしかしてだけど、ラウラさんお土産に箸を買ったりしなかった?」
「え?どうして知ってるんですか?確かにラウラは京都で箸を買いました。桜の柄の黒い箸で、ラウラはそれをえらく気に入ったようで、駅弁もその箸で食べました」
俺の推理はビンゴのようだ。
「その箸って、ラウラさんが自分で持ってた?」
「いえ、リアが管理していました。食べ終わったあともリアが預かっていましたよ」
成る程、つまり犯人は・・・。俺は物陰に隠れて腕時計型麻酔銃でおっちゃんの首元を狙った。フリオさんの美声に聞き惚れて動けないでいるおかげで狙いやすい。照準を定めて、発射!
プスッ
「ほにょ?」
見事麻酔銃が命中したおっちゃんは壁に寄り掛かりながらへたりこんだ。全員の視線がおっちゃんに集中する。
「お父さん!まさか、もう犯人がわかったの!?」
『あぁ、蘭。ラウラさんを殺した犯人は、何らかの方法でラウラさんに毒を摂取させた。是枝さん、しっかり通訳お願いします』
「は、はい・・・」
是枝さんが訳すのを待ってから、俺は蝶ネクタイ型変声機を使って語り出す。
『まず私は最初そのピルケースに毒が入ってるのかと思った。しかし、それは間違いだった。錠剤は溶けるのにおおよそ10分はかかる。トイレで飲んですぐに苦しむのは不自然だ』
【ほ、ほら!僕はやっていなかったでしょう!】
『その次に、私はラウラさんの食べた駅弁の中に毒が入れられたのだと考え、コナンに捨てた駅弁の容器を見に行ってもらいました。しかし、包装の外から毒を入れるには穴を開けなければならない。残念ながら穴は見つからなかった。つまり、ラウラさんに毒を摂取させられる方法は1つしかない』
【そ、その方法は・・・】
『その方法は、彼女の箸に毒を塗ること。お土産に買った箸をラウラさんは随分気に入ってたそうですねぇ。彼女はその箸を使いたがるだろうことは自ずと想像できます。それを見越し、箸に毒を塗ることができた人物は・・・・・・リアさん、あなただけです』
全員の視線がおっちゃんからリアさんに移る。リアさんは青ざめた顔をした、明らかに動揺した声を出した。
【な、何てこと言うの!?何故私がラウラを・・・!】
『ではリアさん、自分がやっていないと証明する為、ラウラさんの箸を見せてくれますか』
【う・・・】
『さあ、早く!』
語気を強くして促すと、リアさんは口ごもって俯いた。
「う゛おぉい、その必要はねえぜ。その箸はこれだろぉ?」
沈黙を切り裂くようながなり声が響いた。マリアと並んでエドワードが何かを持って戻ってきたのだ。手に持っているのは、黒い箸だ。
【な、なんで・・・!】
「向こうの女用トイレの物陰に落ちていたのをこいつが見つけたんだぁ。調べりゃあ毒が検出されるんじゃねえかぁ?」
絶望的な表情をしたリアはその場にへたりこんだ。力無い涙声で語り出す。
【ラウラが、ラウラが悪いのよ・・・。ラウラがフリオのスケジュールに口を出すようになったから・・・】
【リア、お前・・・!】
【夫としてのフリオだけじゃ飽き足らず、オペラ歌手のフリオまで私から奪おうとするから・・・!私に残ったフリオは、それしかいないのに・・・!】
床に突っ伏して泣くリアさんを全員が哀れそうな眼で見下ろした。そんな中、エドワードとマリアの2人は、さっさと去っていってしまった。
「あっ・・・!」
俺は2人を追って隣の車両への扉を開けたが、2人の姿はどこにもなかった。
「・・・一体何者だったんだ、あの2人・・・?」
「ナナシ、謎とあらば何でもかんでも首を突っ込むのはやめろぉ!!」
「いいじゃん。それにしてもあの日本人の子供、なかなか頭のキレる子供みたいだね。あの腹話術を全部自分1人でやってるのだとしたら」
「関わるんじゃねえ、面倒が起きてイタリアに強制送還されたらどうするんだぁ」
「それはそれでいいかもね。あーバッソの煎れるエスプレッソが恋しい・・・。・・・そういえばスクアーロ君のエドワードって偽名、似合わないよね」
「テメェのマリアとかいう偽名だって人のこと言えねえだろうがぁ!!」
ゆきんこ様からのリクエストでした。リクエストありがとうございました!