パンテガーナは困惑していた。上司である家光に呼ばれたと思えば、大して面識のないメルと二人きりにされたからである。
「緊急の用事が出来た。すぐに済ましてくるからメルの相手をしてくれ。確かお前はメルと面識があったろう!よろしく頼むぞ、パンテガーナ!」
待てよクソオヤジ。私は確かに探偵と同じ『工場』の出だけど、面識なんてねぇよ。 と異議を唱える前に家光は去ってしまった。ちら、とメルの方を見ると、メルも困惑の表情をしている。パンテガーナはとりあえず、自分の分のコーヒーを淹れることにした。
「・・・あ、お代わり、いります?」
「・・・いや。」
ああ、会話が続かない。あ、そうだ。自己紹介しよう。多分メルは自分のことを知らない。パンテガーナはメルの正面の椅子に座った。
「えっと、はじめまして。私、門外顧問チームの、パンテガーナです。」
「え、知ってるよ。」
「えっ?」
予想外の答えが返ってきた。
「在学中、ザンザスさんとのパルトネルで毎回1位だったでしょ。私ら毎回2位だったから、結構対抗意識持ってたんだけど。」
「・・・あ、あはははー、そうっスか・・・。」
しまった。墓穴を掘った。確かにパンテガーナは、在学中にザンザスと組んだパルトネル授業で、毎回好成績を取得していた。しかし、彼の有名な『探偵』が、自分より下の成績だったことを掘り起こすだなんて。気を悪くさせたんじゃないか、とパンテガーナは冷や汗をかいた。別にメルの成績が悪かろうが良かろうがパンテガーナにとってはどうでもいいことだったが、もしメルが今のことで機嫌を損ねたら、間違いなく自分は家光に説教を食らうことになる。メルの影響力は、ボンゴレにとって計り知れないのだ。
「・・・。」
「・・・。」
沈黙が続く。パンテガーナはもともと喋る方ではないが、沈黙は嫌いだった。嫌でも耳につく家光の大声を常に聞いているのだ。門外顧問チームは全員沈黙は嫌いだろう。パンテガーナはそう確信している。
「・・・あのさ。」
「はっ、はい?」
メルが急に口を開いた。別に威圧されている訳でもないのに、何故か畏まってしまう。パンテガーナは姿勢を正して次の言葉を待つ。
「スクアーロ君、最近どんな感じ?ジャッポーネで大怪我したって聞いたけど・・・。」
恐らく先のリング戦の話だろう。つい1週間にヴァリアーは帰国した。しかし、全員が全員生死に関わるような怪我を負っており、特にザンザスは即入院、絶対安静の状態だ。スクアーロも同病院に入院している。
「スクアーロ先輩なら、ローマの病院に入院してます。なんなら、住所教えましょうか?」
「それはいいや。ありがとう。」
メルは満足したのか、また押し黙った。再び沈黙が走る。せっかく広げようとした会話が、すぐに途切れてしまった。パンテガーナは時計を見る。家光が部屋を出てから、まだ10分も経っていない。
(・・・早く戻ってきてくださいよ、親方様・・・!)
しばらくそのまま黙っていたが、そのうちいてもたってもいられず、パンテガーナは空になったカップにまたコーヒーを淹れに行った。