俺から見たメル・ジャッロという女は、頭が良く、知識もある、不思議なくらい普通の女だった。世は探偵だ、segugioだと持て囃すが、メルは俺と会う時はいつでも、ただ頭がいいだけの普通の女だった。昔のよしみだからと報酬の代わりに酒をせびり、大したことのない世間話をする。友人という訳ではないし、恋人である訳がないが、不思議と縁は切れない。それが俺、スクアーロとメルという女との関係だ。
「しししっ、あの探偵と腐れ縁だなんてスクアーロだけだぜ。」
「あ゛ぁ?」
「そうよ〜。第一、探偵は気難しくてボンゴレじゃ家光とスクアーロぐらいしか会えないのよ〜。ミスはいくらでも会えるけど。」
そういえば、メルはボンゴレ本部に来ても、家光と俺以外とは話もしなかったな、と俺は今更ながら思い出した。ボンゴレの連中はミスとは縁があるが、逆に俺はミスとはそこまで縁がない。
「それに探偵って寄り好みヤバイらしいし。俺が知ってる限りミスと、家光と、ソロモンと、スクアーロぐらいしか付き合ってる奴いないぜ。しししっ。」
「・・・知るかぁ。」
「あら〜。どこ行くのよ、スクアーロ。」
「外食だぁ。悪いかぁ?」
「べっつに〜。」
適当に入ったレストランに、メルとミスがいた。すぐにメルとミスは俺に気づく。俺は一瞬店を変えようかとも思ったが、その為にわざわざ閉めた扉を開けるのも億劫だった為、そのままカウンター席に座った。
「久しぶり。」
「・・・あぁ。」
メルがパスタを口に入れたまま俺に挨拶する。ミスは俺には興味がないようで、店主に話しかけている。
「ねぇ、バッソ。ドクター・フィールグッドの『Roxette』流してちょうだい。」
「え、まだ『トミー』終わってないじゃん。まだ『I'm free』だけど。」
「じゃあブロードウェイ行きなさいよ。ロジャー・ダルトリーの声には飽きたわ。」
「第一、あんたが『トミー』聞きたいって言うからバッソが流したのに。」
店主は俺には全くわからない音楽の話をしている二人を困ったように笑い、俺にメニューを差し出した。真昼間だったが、酒が飲みたくなった俺はプッタネスカとビールを注文した。店主は黙ってビールをグラスに注ぐ。
「ねえ、スクアーロ君。」
メルが俺の左隣の席に座る。スピーカーから流れる音楽が途中で途切れ、新たな音楽が流れはじめた。どうやらミスの我が儘が通されたようだ。
「あ゛ぁ?なんだぁ?」
「いや、雪島真奈歌の件、ボンゴレではどうなったかなって。」
雪島真奈歌はボンゴレにて一騒動起こした女だ。つい先日、本部の一室で足と頭を撃ち抜かれていた死体を発見し、処分したところだった。
「どうもしねぇよ。処分して、後始末して、それだけだぁ。」
「そっか。」
今回の報酬代わりに酒奢ってよ、とメルが俺に迫る。それに便乗してミスまで俺の右隣の席に座りやがった。ふざけんなと思いつつ、世話になったのも真実なので、俺は仕方なくメニューの酒のページを開いた。