パーティー当日。ローザはこの日、初めてボンゴレの御曹司、ザンザスと対面した。ボンゴレ所有のロールスロイスに二人で乗り、パーティー会場へ向かう。


「はじめまして、御曹司。ローザよ。」


「・・・・・・。」


ザンザスはチラッとローザに目線をやり、すぐに正面に目線を戻した。どうやら挨拶をする気がないらしい。ローザはそんなザンザスの隣に座る。運転手が車を発進させた。


「ねぇ、御曹司。あたしの依頼はあなたを狙ってくる殺し屋の始末と、あなたの囮なの。」


「・・・・・・。」


「それを成功させる為に、あなた窓側にいてちょうだい。」


ザンザスがローザを見遣る。ザンザスの方からは、ローザの醜いケロイドしか見えない。


「・・・誰がスナイパーの言うことを聞いて狙撃できる場所に立つと思う。」


「心配しなくてもあなたを狙ったりはしないわ。だってあたし、そこの運転手にさっき発信機を付けられたんだもの。」


運転手が僅かに身じろぐ。先程、ローザでなければ気づかなかったであろうほど自然に、発信機をローザの服に付けられた。しかしローザは、発信機を付けられたことはわかっていても、どこに付けられたかまではわかっていなかった。発信機を外すには服を脱ぐしかない。


「ストリップの趣味はないし、仕事には何ら問題はないからいいけど、さすがにあなたを殺すなんて真似は怖くてできないわ。怖すぎて涙が出そう。」


ローザがクスクスと笑いながら言う。ザンザスは不快そうに舌打ちをして窓の方を向いた。快諾の返事はない。ローザは足元のトランクケースを一撫でした。














パーティー会場に到着し、ローザはザンザスと別れ会場付近の建物を見定めはじめた。狙撃場所を探す為だ。


「ふーん・・・。狙撃対策はしてある訳ね。」


どの建物も、建物自体が小さく、会場から近すぎて狙撃には向かない。狙撃するためには会場全体を見渡せなければならないからだ。幸い、会場には窓が多い。会場自体は狙撃には適している。しかし、狙撃場所がないとなると、狙撃自体ができない。


「・・・なーんて言ってみたりして。」


ローザは更に会場から離れた場所へ足を進めた。狙撃場所が近すぎるのなら、もっと遠くへ離れてしまえばいい。













パーティーが始まった。会場の中にはそれなりに名前が知られる大物が大勢いる。ローザはスコープ越しにザンザスを探した。いかにも不機嫌そうに、窓際に立っている。


「あら、案外素直ないい子ね。」


狙いをザンザスの周りに定める。後は主催の挨拶を待つのみ。ローザは密かにザンザスの服に付けておいた盗聴器の子機のイヤホンを耳に付けた。


『・・・・・・いやいや、皆様方!本日はご足労いただき、感謝致します!』


来た。ローザは全神経をザンザスの周りに集中させる。イヤホンからは静まり返った会場内に喧しく響く男の声。スコープの端に、男が写った。ポケットに片手を突っ込んでいるが、恐らくナイフか何かを持っているのだろう。不自然に思われないようザンザスに近寄ってくる。ザンザスは気づいていない。男がポケットから手を出した。煌めく何かがあらわになる。奴だ。ローザは即座に男に標準を合わせ、引き金を引いた。


『パリィンッ!ドンッ!ガシャァァァンッ!!』


『キャアアアアアアアアアアアアアアッ!!』


仕留めた。ローザはしばらくしてから銃を手に建物から撤退する。トランクケースを置き去りにしたまま。












黒服の男たちが先程までローザがいた建物に慌ただしくやって来た。スコープに反射する光を頼りにやって来たのだ。普段スコープを使用しないローザがスコープを使用した理由はこの為だった。男たちは辺りを見回すが、当然誰もいない。一人がトランクケースを見つけ、仲間を呼ぶ。その様子を、ローザは盗聴器越しに聞いていた。


「思い通りになってくれてありがとう・・・っと!」


ローザはイヤホンを外し、手にしていたスイッチを押す。離れた建物から爆音が聞こえた。これで「囮になる」という依頼も完了した。


「さあて、アフターサービスでもしてあげましょうかね。」


ローザは爆発した建物とは逆向きに銃を構える。先程、狙撃に向かないと思われていた建物からは、とある場所がよく見えた。会場から主催者の待機部屋への通路だ。しばらく待つと、苦虫を噛み潰したような顔をした主催者が現れた。通路を速足で歩く。ローザは主催者の頭に標準を合わせる。必要のないスコープは既に外した。


「ごめんなさいね、御曹司。あなたの仕事奪っちゃって。」


ローザは待機部屋に向かっているであろうザンザスを笑い、引き金を引いた。











この後、ボンゴレにその実力を認められたローザは劇的に依頼数が増え、礼としてヘイ・ジュードでメルとバッソと祝杯を上げた。更に後に、殺し屋としての活動を公にボンゴレに認められた数少ない殺し屋として、裏社会随一のスナイパーとして『ミス・ヘイヘ』と呼ばれるようになる。



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