ボンゴレの依頼を受けたはいいが、ローザは正直辟易していた。標的さえ見つければどんな場所からでも狙撃できる自信はある。しかし、相手は変装の達人だ。元の顔を知っていても、変装されてしまっては誰を狙えばいいのかわからない。ヘイ・ジュードで前祝いをしていたローザは、偉そうな口を叩いて依頼を受けた数時間前の自分を呪った。スピーカーから流れるルイ・アームストロングの『星に願いを』の優しい旋律が耳に痛い。


「何浮かない顔してんの。サッチモも『願えば叶うだろう』って歌ってるよ。せっかくのアメリカンドリームのチャンスなのに。」


「残念、ここはイタリアよ。・・・ちょっとね、面倒なのよ、依頼が。」


ローザがメルに今回のいきさつを話した。自分は囮に使われる事実や、相手が変装をしてくるであろうこと、そして自分は狙撃には自信があることを。


「・・・標的、主催ファミリーに雇われてるんだっけ?」


「ええ。」


「パーティーって、結構大規模なヤツだよね。」


「ええ。イタリア中から厄介者どもを招待するらしいわ。」


「じゃあ主賓も多いわけだ。」


「・・・?それがどうしたのよ、メル。」


バッソが作ったマルゲリータをかじりながらローザが問う。今回は珍しくメルの奢りだ。メルはローザに無遠慮に開けられた年代物の赤ワインを自分のグラスに注ぎながら答える。


「主賓が多くいるようなパーティーで、主賓の一人である御曹司が暗殺されるなんて不祥事があっていい筈がない。絶対に周りにバレないように暗殺しなければならない。となると、暗殺される機会は限られてくる。」


「・・・なるほど。で?」


「御曹司はどうやって相手ファミリーのボスを暗殺する気なの?」


「確か、相手が会場から出て部屋に戻った時に、先に部屋に侵入して殺す気らしいわ。」


「恐らく相手は御曹司が殺されるのを見届けてから会場から出るだろうね。なら、乾杯の音頭には御曹司は参加する訳だ。」


「まあ、そういうことでしょうね。」


「相手が御曹司を暗殺するなら、その時だよ。」


メルがまるで今日の天気の話でもするかのように話す。ローザは驚きのあまり、手の中のピザを取りこぼした。


「な、何でわかるのよ?」


「前同じようなやり方で殺したことあるんだよね。主催の挨拶の時なら会場にいる全員の視線が主催に行く。それを見計らって、一発で仕留められるように心臓を刺す。そのまま何気なくベランダに近寄って、ベランダから死体を捨てる。案外バレないもんだよ。」


「・・・なるほどね・・・。相手もその手段を取る確率が高い、ってことね。」


「多分ね。最初から御曹司をベランダの近くに置いておけば死体も捨てやすいし狙撃もしやすいし、やりやすいと思うよ。主催の挨拶が始まった時に御曹司に近づいたヤツが、標的。」


ローザはメルと知り合えたことを心から神に感謝した。これで依頼を失敗することはなさそうだ。標的さえわかれば、殺すのは簡単だ。




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